表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/98

五章③


 ザアッと血の気を引かせる私に、アンジェリカも蒼い顔で続けた。


「そして……この凄惨なバッドエンドでは、ヒロインを含めた攻略キャラクター全員が捕らえられ、斬首刑に処せられてしまうんです……! そのせいで、せっかくうまくいきそうだったセオドール王子ルートがおじゃんに……っ!!」


「ク、クーデターに斬首刑……!? なんなのそれ、そんなのもう乙女ゲームじゃあないじゃない!?」


「そんなことはありません! 恋と戦の乱世系乙女ゲームではよくある展開ですよ!!」


「プリプリは恋と魔法の学園系乙女ゲームですっ!! た、確かに凄惨だわ。なにがなんでも絶対に回避しないと……!! プリシラ姫が拐われる前に、いやがらせをしている犯人を見つけ出せばいいのね?」


「そのはずなんですけど……すみません。わたしはこのどんでん返しのデッドエンドがショックすぎて、ハードモードのアルベルト王子は未攻略なんです……」


「無理もないわね……。ちなみに、残る二人のバッドエンドは詳しく思い出せる?」


 聞くのは怖いが、聞いておかねば。


 回避したと思ってからのどんでん返しだけは絶対に避けたい。幸いにも、夏休みがリミットになるのはセオドールとアルベルトのみなのだとアンジェリカは言った。


「レオンハルト王子は先ほど言った通り、ハードモードではご公務が忙しくなるにつれて、生徒会長としての役割が果たせなくなります。結果、学内で不信感が高まり、ついには親の貴族たちが彼の王位継承にも反対。謀反が起こり、捕らえられたレオンハルト王子は僻地の塔に幽閉されるんですが、幽閉先に運ばれる途中、暗殺されてしまいます。バッドエンドを回避するには、国王陛下のご病気を回復させることが必須条件です。しかし、トゥルーエンドに辿り着くには、他の攻略対象たちとのバッドエンドやトゥルーエンドを回避しつつ、かつ、全パラメータが180以上必要になるという超鬼畜様。条件はわかっているものの、果たしてどんなスケジューリングをすれば達成できるのかは皆無です。この無慈悲さこそ、彼が乙女ゲーム史上最高最悪の最難易度鬼畜攻略キャラクターと呼ばれ続ける所以です……!」


「こちらを立てればあちらが立たず……! 新プリでも相変わらずの鬼畜仕様ね。教え子たちがクリアできないと嘆いていたはずだわ。ーーそれで、最後の一人は?」


「ええと、たしか……」


 ーーガタンッ! 


 突然、通りに面した窓が鳴った。視線を向けると同時に、サッと硝子窓に人影が過ぎる。


「誰っ!?」


 まさか、盗み聞きをされていたのだろうか。


 驚きながらも店の外に飛び出すと、走り去る不審者の背中がまだ見えていた。


「なんなのかしら、あの人……」


 服装からして男性のようだ。初夏だというのに真冬のようなロングコートと目深に被った帽子がいかにも怪しい。


 丁度、夕飯の買い出しから帰ってきたマッチョなオーナー、フェリクス氏とすれ違いかけると、飛び退くように横道に逃げてしまった。


「お師匠様! 今日もお見えでしたか!」


「フェリクスさん、おかえりなさい。さっきの男の人、この店のお客様かしら?」


「いいえ? この店のお客は女性ばかりで、男性客はほとんどいませんよ。見ての通り、可愛らしいお店ですからね。可愛くないのはオーナーの自分くらいですよ!」


 あははっと、ツーブロックに刈り込んだ黒髪をきながら、フェリクス氏が人懐っこく笑む。


 いやいや、貴方も充分可愛らしい。


 フェリクス氏は、優しげなタレ目が魅力のワンコ系美男子だ。二メートル近くある高身長。シャツの胸元が盛り上がるほどの胸板。まくり上げたそでからのぞく上腕二頭筋はキレッキレ。ピレネー犬級の大型ワンコ系男子というものを、私は彼に会って初めて知った。


 そんな彼の後ろから、小柄なアンジェリカがひょいと顔を出す。


「お客様じゃないんですけど、あの人、時々来てくれるんですよ。話しかけると、今みたいに逃げてしまうんですけど」


「大丈夫? ストーカーっていうやつじゃないの? アンジェリカはかわいいから」


「いえいえ! きっと、男の人が一人でお店に入るのが恥ずかしいんだと思います。流行りのスィーツは男性にも人気があるんですけど、女性同伴じゃないと来にくいみたいで。もっと気軽に、誰でも美味しいスィーツが楽しめるお店にしたいんですけどね」


「アンジェがそう言うなら、心配ないと思います。それに、もしものときは自分がアンジェと子供を守りますよ! これでも騎士の家の生まれなので!」


「フェリクスたん、尊いぃっ!!」


 むん、と腕の筋肉を盛り上げてみせるフェリクスに、瞳を輝かせるアンジェリカ。いつも通り仲の良い二人のやりとりに、バッドエンドの話を聞いて張り詰めていた心が、少しだけ楽になった。


「はいはい、ごちそうさま。ーーさて。それじゃあ、私はセオドールくんに『わらび餅』を渡しに行ってくるわ。食べてもらえるといいんだけど……」


「きっと大丈夫ですよ。〝宿題のプリント〟と同じです。心を込めて作ったものは、必ず誰かの心を動かします!」


「アンジェリカ……。そうね、自分のやってきたことを信じて、頑張ってみるわ!」


 アンジェリカから綺麗にラッピングされた『わらび餅』を受け取って。私は傾く夕陽に急かされるまま、王族寮へと急いだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ