五章① リメイクされた乙女ゲームのバッドエンドを回避しようと思います!
「【いにしえの秘境】でアルベルト王子との隠しイベントが発生!? なら、『子ウサギちゃん』って呼ばれたんですか!?」
「呼ばれたかったわああああーーっ!! でも、呼んでくれなかったのよ。所詮、私は嫁き遅れのおばさんですもの。『子ウサギちゃん』なんて呼ばれる資格はないのよ……」
ふ、と遠い目をしながら、小さく千切った〝セイントウォータースライムの核〟を、ボウルの冷水にぽちゃんと投げる。
【いにしえの秘境】に素材採取に行った数日後。
夕暮れ時の〝プティ・アンジュ〟の厨房にて、私はアンジェリカとともに『わらび餅』作りに勤しんでいた。
魔物素材を使った料理は含有魔素量が多いので、魔法士や貴族に好まれる。希少かつ美味で、高級料理として美食家にも人気があるのだが、お菓子の材料にするのは珍しい。
作りかたにも興味があったので、手伝わせてもらうことにしたのだ。
「アルベルトくんのパラメータも、【好感度】が一気に20にあがってくれたのはすごく嬉しいんけど、まだ授業に来てくれないの。上昇するはずの《可愛さ》にも変化なし。せっかく隠しイベントを発生させたのに、失敗しちゃったんだわ……」
そう。
彼に会えた興奮のあまり、私はやらかしてしまった。
本来のシナリオなら、魔物と戦うのはアルベルトのはずだったのだ。泉で出会った二人の前に現れる魔物。ヒロインを庇い戦うアルベルト。ヒロインは神聖属性の強化魔法で彼をサポートしながら、チームワーク良く戦って勝利する。
(それなのに、どうして一撃必殺の高位攻撃魔法を放ってしまったの……!? 戦う漢の雄々しい背中にキュンする名イベントだったのに。プリンスの見せ場を潰すなんて、プリプリファンとしてーーいいえ、人間として失格よーーっっ!!」
「師匠、心の声が途中から声に出てますよ」
スライムの核を引き千切りながら後悔する私に、ゴリゴリ、と〝世界樹の種〟を薬研でひいてきな粉を作っていたアンジェリカが苦笑した。
「師匠はまだ二十四才じゃないですか。恋愛も結婚もこれからですよ? それに、新プリだとあの隠しイベントで上昇するのは《魔力》です。師匠はカンストしてるから、変化がなかっただけです。失敗なんかしてません」
「そ、そうだったの? よかった! 新プリでは細かい所が変わっていて、戸惑うわね」
パラメータだけではない。シリウス兄様に頼まれていた素材のひとつ〝ロイヤルプロポリス〟も、ダークホーネットを倒した際に手に入る希少素材だと思ってたのに、アンジェリカによれば〝ダークホーネットの巣〟を蒸留酒に入れて撹拌すれば、作ることができるらしい。
知ってたら採ってきたのに……とぼやく私に、彼女は一枚の用紙を手渡した。
「ご心配なく。ここはゲームではなく、現実です。ようは、シリウスロッド様が望んでいる品が手に入ればいいんです。巣は宮廷魔法士団が撤去したんでしょう? なら、この〝ロイヤルプロポリス〟のレシピを彼にお渡しすれば、依頼達成ですよ!」
「わざわざ書いてくれたの? ありがとう! それじゃあ、集めた素材と一緒にレシピを送らせてもらうわね。ーー残る素材は、〝神竜の宝玉〟か。竜に関するものだから、セオドールくんと仲良くなったら教えてもらえないかしら?」
「その可能性は高いと思います。『わらび餅』の隠しイベントで彼の【好感度】はかなりあがりますし、部屋から連れ出すことさえできたら、きっと力になってくれますよ」
そう、すべてはこの『わらび餅』にかかっている。
よく冷やした〝セイントウォータースライムの核〟をザルにあげ、水気を切ってから〝世界樹の種〟をひいて作ったきな粉をまぶして、〝ダークホーネットの黒蜂蜜〟をかけたら出来上がりだ。
早速、味見に一つ食べてみる。
「んー! 冷たくて美味しいわ! 黒蜂蜜って黒蜜より濃厚なのね。独特の風味が芳ばしいきな粉の香りによく合うわ!」
もっと食べたい気持ちをグッと堪えて、蓋つきのガラス容器に盛りつける。水色の薄紙と翡翠色のリボンで綺麗にラッピングし、メッセージカードの代わりに宿題のプリントを添えた。
明日の三時のおやつを待ってはいられない。セオドールの夕食がポーションになってしまう前に、渡しに行かなければ。
「それにしても、採ってきた材料が多かったせいで、作り過ぎちゃったわね」
「師匠、残った『わらび餅』なんですけど、わたしに譲っていただけませんか? ちょっと、いい考えがあるんです」
「構わないわよ。でも、いい考えって?」
「ふっふっふっ! 今はまだ内緒です。ーーあと、シリウスロッド様について少し考えてみたんですけど。もしかしたら、彼は、レオンハルト王子のルートに関係するキャラクターかもしれませんよ?」
「レオンハルトくんの?」
はい、とアンジェリカはうなずいた。
「ハードモードのレオンハルト王子が抱えている悩みは、〝国王陛下が病に伏せっていること〟です。王の代行という重責を負うことで自分の未熟さを痛感し、その重圧に耐えきれなくなっていく。また、授業の欠席が続き、生徒会長の責務が果たせなくなることで生徒たちの不満が募り、バッドエンドに向かっていきます」
「ふむふむ……そこで、ヒロインの出番というわけね?」




