四章④
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「アンジェリカ! 聞いて、すごいことがあったの!」
カランカラン、とドアベルを鳴らし、閉店前の〝プティ・アンジュ〟に駆け込んだ私は、今朝起きたレオンハルトとの一件を大興奮で報告した。
「【好感度】が一気に50に!? すごいじゃないですか!」
「アンジェリカの修行の成果のおかげよ! レオンハルトくんとは初日以来顔を合わせていないのに、こんなに効果があるなんて。流石は聖女様ね!」
すっかり定位置となった窓際のソファ席に座った私は、アンジェリカにいつものメニューを注文した。
『友情のショートケーキ 改』。
天辺に乗った苺は三つ。『友情のショートケーキ』の強化版だ。アンジェリカに加護を与えている神聖属性の聖獣には、〝対象の能力を強化する〟力がある。ゲームでは攻略対象の能力を向上させるーー特に、クライマックスでは心を強くするーーことにより、抱える悩みを解決に導いていた。この特性を活かし、パラメータ向上促進効果のある〝プティ・アンジュ〟のスィーツに彼女の魔力をたっぷりと込めて強化したのだ。
これなら身重のアンジェリカでも、仕事をしながら魔力操作の修行ができるし、私のパラメータ向上の役にも立つ。
ちなみに、彼女はこれまでも無意識に魔力を操作していたようで、一ヵ月近く前に送られたカーネーションの花束が、まだ生き生きと咲き誇っている。
聖獣の召喚こそできないが、ゲームの設定通り、アンジェリカの母の形見のペンダントを聖獣の依代である〝杖〟にすることはできた。
修行を初めて十日目だというのに、なかなか優秀な弟子だ。
「お褒めに預かり、光栄です! ーーでも、ケーキの効果だけじゃないですよ。師匠が毎日、真心込めて作った〝宿題のプリント〟に、『お手紙』の効果があったんだと思います」
「『お手紙』……? そういえば、プリプリでは週に一回、攻略対象に手紙が出せたわね。『デート』に誘われやすくなるだけだと思ってたけど」
「新プリでは、手紙の出来によって【好感度】があがるんです。あんなに心のこもった『お手紙』を、毎日毎日送られたら、そりゃあ腹黒王子の【好感度】も急上昇しますよ! この調子で、ガンガン攻略しちゃいましょう!」
アンジェリカは嬉しそうな笑顔を浮かべるが、しかし、その言葉は私の胸にグッサリと突き刺さった。
「ご……ごめんなさい……そのことなんだけど、私のパラメータじゃ、ハードモードを攻略するのは不可能なの……」
「師匠のパラメータ? 自分のパラメータが見れるようになったんですか!?」
「ええ。昨日、夢の中でこれまでのマリンローズの自己意識に会って、見せてもらったの。そしたら……《可愛さ》が、3しかなかったのよ……っ!!」
「さ、3っ!? 嘘ですよ、3なんて!! 師匠はもっと可愛いです!! いくらなんでも、3はないですよ、3はっ!!」
「連呼しないでぇ〜〜っ!! 残念ながら本当なの。アンジェリカにも見せられたらいいのに……確か、夢の中で唱えていたのはこんな呪文だったわね。ーー〝パラメータ・オープン! マリンローズ・メルリーヌ〟!」
ちょっと恥ずかしい呪文を唱えると、願った通り、目の前にパラメータが現れた。
マリンローズ・メルリーヌ(24)
学力 200
魔力 200
強さ 200
リッチ度 10
流行 20
可愛さ 13
「あれっ? 《可愛さ》13ですよ?」
「ほ、本当だ! どうしてかしら、夢で見たときには3だったのに……って、アンジェリカにもこのパラメータが見えるの? 他の人には見えないはずなんだけど」
「はい。ゲームのときみたいに空中に浮いてます。たぶん、師匠がわたしに見せたいと思ったからじゃないですか? 初めて魔法を教えてくださったとき、仰ってたでしょう。〝魔法はイメージが大切〟だって」
「確かにそうね。それにしても、10も《可愛さ》があがることをした覚えはーーハッ!? もしや、教室で十日連続野宿したのが可愛かったのかしら!?」
「むしろ可愛さが下がりますよ……。可能性があるとしたら、隠しイベントを起こしたんじゃないですかね。それなら、短時間で大きくパラメータが上昇するはずです」
「隠しイベント?」
隠しイベントとは、攻略シナリオとは別に、各キャラクターごとに決められた条件を満たすと発生するボーナスイベントだ。発生に成功するとパラメータが大きく上昇し、かつ、超美麗スチルが手に入る。
「超美麗スチル……そう言えば、今朝、教室で目を覚ましたときに見たレオンハルトくんの顔が、やけにキラキラと輝いていたような」
「きっと、それですよ! レオンハルト王子の隠しイベントに、〝図書室で居眠りしたヒロインが、レオンハルト王子にゆり起こされる〟っていうのがありました!!」




