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三章⑥


 瞬間、教鞭の先端から、凄まじい勢いで蒼い放電が噴出した。ビームのような雷撃が、轟音をあげて廊下を貫き、宝珠もろとも魔法結界を跡形もなく消し飛ばす。


「やったわ……!」


 マリンローズとして魔法を使うのはこれで二回目だ。呪文や発動の感覚は身体が完璧に覚えている。体内の魔素を聖獣の依代よりしろである〝杖〟に集め、魔力に還元。呪文を詠唱することにより、魔法士が望む効果の魔法を発動する。


 魔法士の力量ーー《魔力》は、一度に還元できる魔力の量に比例する。体内に蓄えられる魔素の量が多く、魔素から魔力への還元時間が短いほど、発動する魔法は強力になり、より素早く発動できる。


 マリンローズの放つ魔法は、これらすべてを達人の域にまで極めていた。


(我ながら、惚れ惚れするわね! 学校の先生にしてこの強さ、ものすごくかっこいいじゃないの。それなのに、どうして生徒たちには人気がないのかしら?)


 今日の授業でも、心底怖がられているのだと感じた。どの生徒もガチガチに緊張して、腫れ物に触るような態度なのだ。先日のパーティーでの婚約破棄が原因なのかもしれないが、慰めてくれる生徒もいない。


 セオドールもパーティーに出席していたのなら、彼が引きこもってしまった原因は、もしかしたら、私にあるのかもしれない。


 その辺りも、しっかり確かめなければ。


 魔法結界が消えた廊下の先に、セオドールの自室のドアが見えている。自分のパラメータは知らないが、魔法結界を消し飛ばしたのだから、条件は満たしているはずだ。


 高鳴る胸を抑えつつ、いそいそとドアの前に行き、ノックをする。


「楽しみだわ。これでようやくセオドールくんに会えるのね! プリンス&プリンセスのカワイイ担当、セオドール・ドラゴニア……美少女のような容姿、神秘的ミステリアスな紅い瞳が魅力の、ほんわか癒し系キャラ! 口数は少ないけど、ときおり浮かべるはにかむような笑顔が本当に可愛らしいの。世俗離れしているせいで、ちょっぴり天然で世間知らずなところが非常に萌ゆい……!!」


 そんな彼に、この世界では現実に会って話ができるのだ。


 わくわくしてドアが開くのを待つ。ーーが、いつまで経っても返事はない。


「あれ……? おかしいわね、ちゃんと条件は満たしたはずなのに。 ーーハッ! もしかして、もうすでに手遅れだったりして……!? このドアもブチ壊して、助け出さなきゃいけないとか……!?」


 きっとそうに違いない、と教鞭を構え、魔力を高める。


「待ってて、セオドールくん! 今、先生が助けてあげるから!!」


 高密度の雷属性の魔力が、教鞭の先端でバチバチとスパークし始めたとき、……カチャ、と鍵が開く音がした。しばらくして、ゆっくりと、ほんのちょ〜〜〜〜っっぴりだけドアが開く。

 

 その隙間から、紅玉石のような紅い眼がのぞいていた。


「セオドールくん! よかった、無事だったのね!」


『…………』


「今日は授業を欠席するし、あんな結界まで張っているから、なにかあったのかと心配しちゃったわ。はい、これ、宿題のプリント。きちんとやって、明日は元気に登校してくれると嬉しいわ」


 ドアの隙間にプリントを差し込むと、受け取ってくれたのか、スルスルと引っ込んでいく。


 ほっとしたのも束の間、隙間の闇から漏れ出した声はとてつもなく剣呑だった。

 

『…………なんのつもり?』


「えっ?」


『…………苦労して張った結界を、力づくで壊してさ……なんのつもりかって聞いてるんだけど……?』


 ドア越しにでもはっきりとわかるほどの、不穏な空気だ。


 もしかしなくても、怒らせてしまったのだろうか? でも、彼を自室孤独死という凄惨なバッドエンドから救い出すためには、なんとしてでも部屋から引っ張り出さなければならない。


「あ、貴方のことが心配だったのよ! あんな強力な結界を張ったら、セオドールくんだって簡単には外に出れないじゃない。お風呂には入ってるの? ご飯はしっかり食べてる??」


『……部屋に浴室がついてるし、食事も……ちゃんと、ポーションで栄養補給してる。……だから、ボクのことは放っておいてくれないか』


「放っておけるものですか! ポーションは一時的に体力や魔力を回復させるだけのアイテムよ。食事の代わりになるわけがないでしょう!? それに、授業に遅れてしまわないように、休んだ場合はきちんと補習しないと!」


(く、暗い……! 想像してたより声が低いし、雰囲気も暗すぎる! 彼はこんなに根暗なプリンスじゃないのに、ほんわか癒し系はどこに行ったの!?)


 もしや、これもハードモードの影響か。レオンハルトと同じく、テコ入れ的キャラ変が行われてしまったのだろうか。


 だが、パラメータを確認しようと思ったそのとき、ドアの隙間から手渡したはずのプリントがヒラリと返ってきた。


「受け取ってもくれないなんて……って、もう解いたの!? しかも、全問正解だわ……!」


『……このくらい、当たり前だよ。魔法学に関して、ドラゴニアはアストレイアの先進国なんだから……これでもう用は済んだよね。さっさと帰って、二度と来ないで……』


「あっ、ちょっと待って! どうして引きこもってるのか、理由を教えてーー」


 パタン、と問答無用でドアが閉められてしまう。その後は、何度声をかけても返事が返ってくることはなかった。


「……仕方ない。今日のところは、諦めるしかないわね。ーーセオドールくん! また明日、授業で会いましょう。貴方が教室に来てくれるまで、先生、ずっと待ってるから!」


『…………』


 かたくなな沈黙を背に王族寮を後にした私は、その足で〝プティ・アンジュ〟へと向かった。


 魔法結界は突破したのに、セオドールを部屋から引っ張り出すことができない。新プリ未プレイの自分では原因がわからないし、ここは早急に作戦会議が必要だ。



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