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第九話 知らせ

 ──カルデローネ王城、城門。

 王城の前は多くの人々が往来しており、活気がある。そんな城門の前で警備をしている二人の青年。

 ウィルフレド・ロサス・アルカンタル。

 マティアス・ドローフ。

 マティアスはウィルの同期であり、ウィルが中隊長に任命されてから少し遅れて中隊長となった。二人は街の様子を眺めながら、長時間立っている。


「いいなぁ。俺も買い物したいなぁ」


「だめだよ、マット。今は勤務中だ」


 マティアスの言葉に、ウィルが軽く笑いながら応える。


「それはわかってるけどさぁ、見てたら行きたくなるだろ?」


「まあね」


 ふわぁとマティアスがあくびをする。


「そういえばウィル、昨日勇者様が魔王を討伐して帰ってきたんだろ?」


「そうだよ」


「昔一緒に冒険者として旅をしてたって言ってたけど、やっぱ勇者様は昔から強かったのか?」


「いや、前はそうでもなかったよ」


 そのとき、大司教が走ってきた。息が切れており、かなり緊迫した状況のようだ。


「どうされたんですか?」


「勇者マサミツと、連れていたオトハと呼ばれる少女の二人が司教マルク・ブルイエを惨殺し、逃走しました」


「マサミツが!? 本当ですか!?」


 ウィルが動揺を隠せない。

 マサミツがそんなことをするはずがないと思っているからだ。

 そもそも教会へは司教様に呼ばれて行った。どうしても、何かがウィルの心に引っかかる。


「ウィル、国王様に報告してきてくれ」


「ちょっと待って。大司教様、さっきの話は本当でしょうか。証拠は?」


 大司教が胸の前で手を組んだ。


「善行神フィーデム様に誓って宣言致します。先程の話は全て真実です。【審判聖火(ジャッジメント・フレイム)】にて、勇者マサミツは焼かれました」


 ひどく衝撃を受けた。この国において、神の審判によって下される判決は絶対だ。また、司教、それも大司教である人物が神に誓って宣言したことが真実であることは間違いない。


「ウィル、勇者様を信じたい気持ちはわかるが、この通りだ。報告して来てくれ」


「……わかった」


 ウィルは走り出す。複雑な心情の中、走りながら思うことが一つだけあった。

 ……マサミツ、僕は信じてるよ。

 ……君は本当は人殺しなんてしていないって。

 もはやこれはウィルの願望に過ぎないのかもしれない。でも、そう思わないとどうにかなりそうだったのだ。



「それでは、今日の授業は終わります。ありがとうございました」


「「ありがとうございました!」」


 教室内に子ども達の声が響いた。途端に、喧騒で包まれる。

 そんな教室から出てきたのは、サラ。冒険者であるサラの、孤児院の先生というもう一つの顔だ。この日は彼女は夜番なので、夜になるまでは自由だ。

 孤児院をでて大通りへ向かう。昼食の材料を買い、青果店でフルーツのリンゴを買った。道中、綺麗なアクセサリーや、かわいい服を見つけて足を止めることもあった。そうしていつも通り過ごしていると、サラは街の雰囲気がいつもと少し違うことに気がついた。

 ……何か大きな事件でもあったのだろうか。

 更に歩き、大通りの方へ出るとその疑問は解決した。


「号外! 号外だよー!」


 善行新聞社の女性が新聞を配っていた。記事を読んでいる人々はみな神妙な面持ちをしている。サラもニュースの内容が気になり、新聞を受け取った。記事の内容はこうだった。


『勇者マサミツ、司教マルク・ブルイエ氏を惨殺し逃亡』

 今日午前十時頃、シルヴィス教会を偶然訪れた大司教ラモン氏が犯行現場に遭遇。大司教が問い詰めるもマサミツ容疑者は容疑を否認した。しかし、【審判聖火(ジャッジメント・フレイム)】にて罪は証明された、とラモン氏は証言している。マサミツ容疑者はラモン氏を拘束した後逃走。また、共に行動していた黒髪の少女は共犯である可能性が高いとして、騎士団は捜査を続けている。


 記事を読み、サラは驚愕した。手に持っているカゴからリンゴが落ちたことにも気づかず、呆然と立ち尽くしていた。


「サラちゃん、リンゴ落としたよ。ほら」


 サラの知り合いのおばさんがリンゴを拾って渡そうとするが、サラは受け取らない。

 ……マサミツのところに行かなきゃ。

 突然、サラは走り出した。


「あ、サラちゃん!リンゴー!」


 おばさんがサラに声をかけるも、サラの耳にはその声は届いていない。

 サラは脇目も振らずに走った。マサミツのことを考えながら。

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