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おれがおまえを構う理由1

閲覧、ありがとうございます!

今回はルーカス視点になります。

そしてまた長くなってしまったので2分割です、すみません…。

(ルーカス視点)


俺が彼女……エマに天敵として認識されてしまったのは、とある事件が切っ掛けだった。

その事件についてお話しする前に、少し、俺の身の回りについてご説明させていただきたい。


俺が生まれた国であるヴァルマール王国は、元々は戦でのし上がってきた軍事国家だ。だからだろうか、今でこそ他国に劣らぬ華やかな文化もそれなりに発達しているし、特に王都は国一番の都なだけあって様々な文化が混じり合う流行の中心地となってはいるものの、やはりどこか武骨な空気が抜けない、そんな国である。

その原因の一端は、王家一族とその周りの臣下一族にもあるのかもしれない。

俺が仕えている主人、ヴァルマール王国の王太子アルベルト様の一族……王家をはじめ、国を支えてきたような古くから代々続く伝統ある貴族の家系はそのほとんどが古くは騎士を生業としていた。つまりは「武」を重んじる家系なのである。

こういった理由で、ヴァルマール王国は他国からはしばしばお堅い国だと評される。特に王宮などはその中でもさらにカチカチのコチコチである、ともっぱらの評判だそうだ。王宮に住まうのはたいていそういった伝統を持つ家の者であるから、自然と堅実で真面目な者が多くなる。これはまあ、仕方のないことなのだろう。


少々前置きが長くなってしまったが、ヴァルマール王国の気風について、これでご理解頂けただろうか。

さて、そんな我が国にある日、耳を疑うような話が入ってきた。

---メーエル地方の伯爵家、フラール家令嬢が、王太子の婚約者として嫁いでくる。

その話を国王陛下から正式に聞いた瞬間、俺をはじめその場にいた従者達のほとんどがまるで雷に撃たれたかのような衝撃を受けた。メーエル地方のフラール家と言えば、可憐で優雅、そしてふわふわを地でいくような家柄だと昔から有名なのだ。

後に聞いたところによると、フラール家の家訓は「薔薇のように戦い、百合のように癒し、そして芍薬のようにたおやかであれ」だそうだ。いかに華々しい家風であるか、お分かりいただけるだろうか。それとふわふわ。

ちなみに我が家であるフィクセル家の家訓は「文武両道」である。そして王宮勤めの有力貴族の家訓のほとんどは、多少の違いがあるとはいえ、これに似たようなものである。

武士道ゴリゴリでカチコチなヴァルマール王宮に、可憐でふわふわなフラール家が嫁いでくる、おまけに政略結婚なので本人の意向は無いに等しい……実際にフラール家令嬢が王宮へ越してくるまでの間、いかに俺達が気を揉んだかおわかりいただけるだろうか。下手すればあちらが来た瞬間に「なんですのこの汗臭い空気は!こんな王家と結婚なんてごめんだわ!実家に帰らせていただきます!」とでも言って引き返されかねないのだ。実際は家同士で結んだ婚約である以上、そのような本人の我が儘でどうこうなるものではないと理解してはいたが、ご令嬢に空気が合わないと言うことで体調を崩され、お帰りになってしまうということは十分ありえる話である。俺達はとても心配だった。

……もっとも、王に仕えるごく一部の者を覗いて、王宮の者のほとんどが別の理由から心配をしていたようだが。


フラール家は、魔法使いの一族である。この世界で魔法はそう誰でも簡単に使えるものではない。ヴァルマール王国では、フラール家とフラール家に使える使用人達しか使える者はいないと言われている。魔法は特別で、とても珍しい存在なのだ。さらに近年、国内で魔法が使用される機会自体がめっきりなくなった。理由としては「国政が安定し、魔法を使わねばならない重大な事件が無くなったから」だそうだが。……ここだけの話、これはあくまで表向きの理由でしかない。本当は、20年ほど前から国内でまことしやかに囁かれるようになったある噂が原因なのだろう。


「フラール家はその強大な力を持って王家の転覆を狙っている」


魔法というたぐいまれなる力を持っていながら、辺境伯という地位に押し込められているフラール家は、王家に恨みを持っているのではないか。本当は虎視眈々とこの国の支配権を狙っているのではないか。そんな悪意ある噂が王都だけでなく国内に広まっている。このような噂を受け、フラール家にわざわざ依頼をする者は居ない。フラール家は急激に没落していった。

「王家の転覆を狙っていると噂の家出身のご令嬢」、「急激に没落した貧乏貴族で、結婚も恐らく財産狙い」、「異質で理解しがたい力を持っている」、そのようなフラール家の者を王宮内の者たちが嫌悪するのも、無理のないことなのだろう。

このような環境に嫁いできて、そのご令嬢は大丈夫なのだろうか。勝手にそんな心配をしながら迎えたフラール家令嬢、マリアーネ様はしかし、そんな懸念を払拭するかのような清廉で立派なお方だった。思っていた以上に可憐で、しかし芯があり、意外と強かで、そして優しい女性だった。誉めすぎだと思うだろう、ところがどっこい。これでも相当控えめに言っているのだ。そんな素晴らしい女性を迎えることができて、これで王家も安泰だろう、そう心の底から思えたのだった。(実際にはそこから波乱万丈な1年間が始まるのだが、これはここでは割愛する。)

また、これは私情になってしまうのだが---自分の主人であり、また小さい頃から一緒に育ってきた親友でもある王太子、アルベルト様の婚約者ににこんな頼りがいのある女性がなってくれたことが、まるで自分のことのように嬉しかったのだ。幼い頃から王になる人物として厳しく育てられた彼には、幸せになる権利がある。


さて、そういった穏やかな気持ちでお二人を見ているとき、ふとマリアーネ様のそばに控えめに佇みながら、それはそれは幸せそうな顔をしている侍女がいることに気づいた。向こうもこちらに気づいたのだろうか、目が合うと礼儀のなった挨拶をされた。侍女の名は、エマ。エマ・フィオーネ。それが、彼女との最初の出会いだった。

アルベルト様がマリアーネ様と会話をされている間、同じ第一の従者同士ということもあり、彼女と何言か会話を交わした。

暫くして気づいたのは、彼女は王太子の手前、彼女の主人のようにとても行儀の良い人のように振る舞ってはいるが、その礼儀の仮面の下にはとても活発で明るい性格が隠れているのではないか、ということ。正直なところ、これは俺にとって大変好ましいことであった。というのも、この王宮はとにかくお堅いということは先程ご説明させていただいたのだが、お堅すぎていかんせん保守的過ぎるのだ。それはこの国にとって、少しよろしくないことだと思っている。勿論堅実ということは良いことだ。しかしだからといって王宮が静かすぎるのもどうかと思う。……端的に言えば、この王宮は暗くて重すぎるのだ。いや落ち着いている、ということは良いことだと理解してはいるのだか……度がすぎれば、それも短所となる。

意外だと思われるかもしれないが、俺は活動的で騒々しいものも好きだ。国内のお祭りなどは必ず参加をしている程には、華やかなものを好ましく思っている。だからこそ、活発そうな彼女が王宮に居ることによって、王宮の空気が少しでも明るくなれば良い……そう考えていたのだが、いかんせん現実はそう甘くはないようだ。


フラール家が王宮に来て1ヶ月、彼女はすっかり塞ぎ混んでいるようだった。

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