1冊目
[n日目]
今日ようやく気づいた。やっぱり何かがおかしい。1日ごとに何か、本当に小さいことだけれども何かが変わっている。昨日まで片目だけ二重まぶただった職場の同僚の相澤さんが今日は両目とも二重になっていた。本人に確認しても、「記憶違いでしょ?」と返すだけだった。普通はアイプチでもやったのだろうと考えるだろうが、絶対に違う。昨日は帰ったら自分の掛け布団の柄が変わっていたし、一昨日は職場の机の位置が変わっていた。何れも変えた覚えはないし、周りに確認しても変えたという者はいない。一昨日以前にもひとつずつ何かが変わっている。どうにもそろそろ気が狂いそうなので、このメモに前日と今日との間違い探しを書いていくことにした。
[n+1日目]
今日はクローゼットに1本、自分の知らないネクタイがかかっていた。普段自分は寒色系のものしか着けないが、それは暗めのワインレッドだった。
[n+2日目]
今日はいつも行く牛丼屋からいつも頼んでいる豚汁が消えていた。いつものオバチャンに聞いてみたが、「2年前からうちのとこは豚汁やめてるじゃないか。疲れてんのかい?」と笑われてしまった。割と好きな豚汁が消えているとは、自分にとって結構大きな問題だ。これからも近場のお気に入りが消えたりしてしまうと困る。
[n+3日目]
今日は何も変わらなかった。こんな日もあるのか。
[n+4日目]
朝よく見る野良猫の体の柄が、真っ白から「ぶち」になった。一瞬、違う猫ではないかと思ったがそうではない。毎朝公園の決まったところに陣取って、決まった姿勢で毛ずくろいをしていたソレと全く同じなのだ。
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[n+n日目]
今日でこのメモ帳の最後のページだ。今更だが、1日ひとつ、もしくは何も変わらない日もあったが、何かが変わるならこのメモ帳の中身だって変わっているかもしれない可能性に気づいた。読み返してみたが、自分の記憶にある限り変わっているところはひとつもない。この手帳に書いてあることは自分にとっては狂気の集積であるのに、この手帳自体が安心材料になっているのは何とも皮肉である。
しかし、自分の精神はもう限界だったらしく、以前から行っていた心療内科からの診断書と共に、今日退職願を出してきた。これからは実家に帰るつもりだが、自分の周りで色々変化があった分、もはや実家が無くなっていても驚かないだろう。でも、そうなっていたら、どうしようか。