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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
2話 不良とエリートと巻き込まれた私
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1 デート? いえ「激辛巡り」です

丁度時期はゴールデンウィーク。天気も良くて出かけるには持って来いの日和だ。

 本日、薫は小坂に激辛料理の旅に付き合ってもらう約束である。

 しかし、あの時一瞬舞い上がった薫だったが、よくよく考えると小坂との外出はリスクが高いことに、当然気付く。


「先輩と一緒にいると、目立ちませんかね?」


だがこの問題に、小坂自身が解決策を出して来た。


「さすがに遠出して帽子を被っていれば、俺だと気付かれないし絡まれないぞ」


小坂とて、外出の際にはちゃんと対策を立てているらしい。


 ――それでも帽子で変装はするんですね


 それは即ち、遠出しても素顔だと絡まれるということではなかろうか。

 一抹の不安を抱えたものの、美晴を誘い辛いレベルの激辛料理との出会いには抗えず。

 結局、薫の地元から電車で三十分ほど移動したエリアで、「激辛巡り」となった。

 薫と小坂は利用する駅が違うため、予め携帯の番号を交換して、電車の中で落ち合うこととなったのだが。


「えー、三両目っと」


約束の車両に向かうと、とても存在感のある乗客がいた。ゴールデンウィーク中でそこそこ混んでいる車内で、その周囲だけ人が寄らない。

 そう、小坂である。


「……えっとぉ」


 ――私、あの空間に入って行かなきゃなんないの?


 それってどういう試練だろうか。

 見ていると、小坂は別に周りにガン飛ばしている様子もなく、普通に座っているのだが、何故が人が寄らない。

 だが、ああして無人エリアができてしまうのもわかる気がするのだ。

 薫は小坂に対する「なんだか怖そう」という先入観が抜けると、気付くことがある。


 ――小坂先輩って、案外お洒落さん?


 Tシャツと綿のパンツに上から軽くシャツを羽織っている格好の小坂の、足を組んで悠然と座っている姿は、雑誌の表紙になりそうだ。

 それに特徴的な茶髪のソフトモヒカンがキャップで隠れると、意外と整っている顔が際立つ。

 そう、ぶっちゃけ格好いいのである。ひょっとして小坂は、イケメンの部類に入る人なのではなかろうか。周囲から小坂にチラチラ視線を寄越している女子は、ハートマークを飛ばしていそうに見える。


 ――先輩が絡まれるのって、不良だからってだけじゃないんじゃ……


 恐ろしい真実を知ってしまった薫は、自分のジーンズにTシャツという動きやすさ優先の地味な格好が気になって来る。もう少し女の子っぽい格好をすれば良かったかと後悔していると。


「んなとこでナニしてんだよ」


小坂がこちらに気付いた。


「やぁ、ハハハ……」


「近寄り難かったんです」とは言い辛い薫は、笑ってごまかしながら小坂に近寄る。

 その際の周りからの視線が痛い。けれど今更「激辛巡り」のキャンセルは効かないのだ。

 諦めて小坂の隣に座った薫は、「そう言えば」と思う。


「先輩からタバコの臭いってしませんね」


そう、考えてみれば今までも、小坂を前にして「タバコ臭い」と思ったことがない。

 今も昔も、不良と言えばタバコ臭なのに。

 これに、小坂はあっさりと答えた。


「吸わねぇからな。

 吸った日にゃあ母親にボコられる」


小坂の口から母親に従う単語が出たことに、薫は驚く。


 ――「クソババア」とか言ってそうなのに


 目を瞬かせる薫に、小坂が説明する。


「第一、高ぇだろうタバコ。

 俺ぁあんなん買うくらいなら、美味いもんでも食ってたいな」


確かに、安めでも一箱四百円だというタバコの代金で、美味しいケーキが食べられる。

 これが一昔前はなんと、ジュースを買う金額で買えたというのだから驚きだ。

 それでも、先輩なんかと群れていたら断れないのが、タバコというものであるとか。

 不良という生き物は、案外不自由なものらしい。

 あと、茶髪にしたりカラーコンタクトを入れたりと、ファッション的要素を楽しむ分には、両親はなにも言わないらしい。

 しかしピアスやタトゥーなど、すぐには消えない、あるいは一生消せないお洒落は厳禁。

 同じく健康を害するものも駄目、と小坂家には案外キツいルールがあるという。

 なので飲酒もしたことないそうだ。


「なんというか、健全ですね」


薫の感想に、小坂が苦笑する。


「喧嘩を売られたら買うし、嫌いじゃないから、学校からしたら立派に不良だけどな」


そこから、小坂の家族の話に及んだ。

 彼には姉が一人いるらしく。


「『アンタの分も金を出してやるから買って来い』つって、よくパシらされるんだよ」


姉に頭が上がらないようで、それも小坂が好きな甘味を指定され、欲望に負けて仕方なく買い出しに行くのだという。


「……あれ、じゃあもしかしてあの時、ケーキ屋の所にいたのって」


「アネキの使いだ」


それにどうやら、美晴と出かけた際に見かけた時も同様だったようで。

 この時は少しでも行列が減るのを待っていたとのこと。


 ――先輩のお姉さんて、どんな人だろう?


 小坂をやり込めるくらいの、格闘技の達人かなにかだろうか。

 それにしても小坂も、大好きな甘味を得るのに苦労しているらしい。

 そんなお喋りをしていると、電車が目的の駅へ到着する。

 時刻は昼前。人が溢れるホームを見て、薫はため息を漏らす。


「大きな駅はやっぱり人が多いですねぇ」


薫の地元はどちらかと言うと田舎なので、人が多いと緊張する。

 それにあまり降りたことのない駅なので、迷いそうだ。


「おら、じっとしてねぇで行くぞ」


すると小坂が薫の腕を引き、ホームを進み出す。

 しかも自分が前に出て、盾になるように歩いている。


 ――おお、エスコートされてるっぽいよ、私!


 薫は男子にこんな風にされたことがないため、ちょっぴりドキドキする。

 ちなみに年齢イコール彼氏いない歴だ。

 小坂に守られつつホームを出て、駅に隣接されているレストラン街を抜けると、ぐっと人が減った。それでも地元の駅前よりずっと多いが。

 やっと人ごみを脱して一息つく薫を、小坂が振り返った。


「で、どこだって?」


「あ、ここ! ここです!」


薫は落ち着いている場合ではないと、スマホに地図を表示して小坂に見せる。


 ――ここからが本番だからね!


「ふぅん、ちぃと歩くな」


「望むところです、お腹が空いていいじゃないですか!」


激辛のためなら、多少歩くくらい厭わないのだ。

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