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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
3話 秘密のカンケイ?

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4 ドキドキの謎

矢口と連れ立って更衣室へと向かう小坂を見送った薫は、濡れないように抱えていた紙袋を持って体育館の隅に行くと、冷たい床に座る。


 ――へへ、なんか得しちゃったかも。


 小坂の空手姿は、凛としていてとても格好良かった。

 この学校のどれだけの生徒が、小坂の空手をやる姿を見たことがあるだろうか。

 ただの怖い不良だと思っていた小坂の、また新しい一面を知ってしまった。


「噂だけで人を判断したら、ダメってことだよね」


それに今日は小坂に会えないだろうなと思っていたので、こうして顔を見ることが出来て嬉しい。

 やはりいつも見かける人と会えなくなると、寂しさがあるものだ。

 薫が紙袋を抱えて待っていると、空手道着から着替えた小坂が出て来た。

 矢口はまだ来ない。


「あー、マジで久々に疲れた」


そう漏らしながら隣に座った小坂に、薫は紙袋を掲げる。


「汗を流してお腹が空いた先輩に、どうぞ!」


薫は持っていた紙袋を開けた。中に入っていたのは、茶色くて丸いお菓子。


「饅頭か」


小麦粉で作った皮で餡を包んで蒸した、スタンダードな饅頭である。


「今日は和菓子の日なんですけど、コレはなかなか苦戦しました。

 包むのが難しくって」


この饅頭の餡を皮で包む作業、作り方動画を見ると簡単そうなのだが、実際やってみると上手くできない。

 蒸しあがったら破れているものが結構あり、そうした失敗作は弟への持ち帰りにしてあって、この紙袋に入っているのは比較的綺麗に出来た饅頭である。

 今回は小さいのをたくさん作ったので、自分用と小坂用に紙袋を分けてあった。

 自分用は既に鞄に入れてある。


「だから遅かったんだな」


小坂は饅頭を一つ手に取ると、ポイっと口に入れる。


「うん、美味い」


「やった!」


小坂から褒め言葉を貰えて、薫は小さく拳を握る。

 コレは薫のお菓子同好会での活動の中で、最も手こずったお菓子と言えるので、ちょっと心配だったのだ。


「餡子は甘さ控えめなんだな」


「それはですね、美晴がダイエットを始めたからなんです」


小坂の指摘に、薫は褒められた嬉しさのあまり、友人の秘密をペロリと話す。

 甘いもの大好きな美晴は連休中に食べ過ぎたらしく、体重計の数字が少しどころではなく増えたそうだ。

 しかしダイエットを始めても、甘いもの断ちができそうになく。

 それで少しでもマシだろうと、甘さ控えめの菓子で手を打っており、薫と同好会の先輩はそれに付き合っている形だ。


「井ノ瀬と一緒にいる女子なら、いつかちらっと見かけたが、

そんな太って見えなかったぞ」


小坂はそう言うものの、体重計の数字は嘘をつかない。

見た目に反映される前に手を打たねば遅いのだ。


「体重計の数字は、テストの点数よりも大事です」


「はぁ、女ってのは大変だな」


真面目な顔で告げる薫に、小坂がやや呆れ顔だ。

 けれどお姉さんがいるらしいので、くれぐれも体重話を軽く流さない方がいいと教えておきたい。

 きっとひどい反撃にあうので。

 というか、美晴のダイエット話のせいで話題が逸れた。


「コレ、おすそ分けですからどうそ」


薫は持っている紙袋を、ずずいと小坂に押しやる。


「いいのか?」


「はい、たくさんできたんです。

 家で食べてくださいね」


薫が紙袋を閉じ直して、遠慮する小坂に差し出した時。


「おぅい二人とも、鍵閉めるぞー」


いつの間にか更衣室から出ていた矢口が、薫たちに声をかけてきた。


「よし、行くか」


小坂が立ち上がり、薫の手から紙袋を拾い上げる。

 その瞬間、薫は何故かドキッとしてしまった。


 ――なんで、「ドキッ」なのよ私?


 今まで散々お菓子を渡しておいて、受け渡しに改めてドキドキするのはどういうことか。

 そう言えば今までは、小坂にその場で食べてもらうばかりで、持ち帰りの品を渡したことがない。

 けれど告白目的のバレンタインチョコでもあるまいし、ドキドキする必要がないだろうに。


 ――でも、ある意味プレゼントみたいなもんかも。


 いつものその場で食べてもらうのは試食っぽいが、持ち帰りはちょっとハードルが上がる。

 小坂が自宅で饅頭を食べる時に、家族の目に留まる可能性もある。

 明らかに店屋で買ったものではない饅頭を見て、家族はどう思うだろうか。


 ――っていうかそれって、彼女アピールっぽくない?


 手作りのお菓子なんて、思えば女子力アピールによく使われる手である。

 家族や周囲に「彼女がいる」と認識させる目的らしい。


「うっわ、どうしよう」


そんなつもりではない薫は今更焦っても、もう遅い。

 このことに、渡した後で気付くというのはどうなのか。

 しかしこの期に及んで、小坂に「やっぱり返してください」と言えるはずがない。

 薫は矢口の待つ出口に向かって歩き出す小坂の後ろを歩いていたのだが。


「どうかしたか?」


薫の呟きを拾ったのか、前を歩く小坂が振り向いた。

 しかしなんと言えばいいのかアワアワした挙句。


「や、えっと、あの。いつもより、あんまり話せなかったなって」


我ながら「なんだその言い訳は」という内容が口から出てしまう。


 ――馬鹿、私の馬鹿!

  もっとなんかいい言い訳があるでしょう!?


 まるで別れ際の未練がましい彼女みたいだ。

 いや、そうじゃなくて。

 どうも思考回路が「彼女」というカテゴリーから離れない。

 一人でいっぱいいっぱいになっている薫を、しばし眺めた小坂だったが。


「番号は交換してんだから、なんか喋りたかったら連絡していいんだぞ?」


そんなことを言って来た。


「……いいんですか?」


思いがけない言葉に、薫は目をまん丸に見開く。

 あの番号は、あくまであの時の待ち合わせのためのもので、普段使いにしていいものだとは思っていなかったのだが。


「そのための、番号交換だろうが」


小坂からの許可が出たことで、薫のいっぱいいっぱいだった頭がショートした。


 ――ヤバい、色々ヤバい!


 部活終わり以外も小坂と話せる。

 このことが、自分でも想像以上に嬉しい。


「ふへ」


にやけ顔で変な声が漏れた薫の頭を、小坂がグシャグシャにかき混ぜた。

 この時、すっかり薫の頭から饅頭問題が吹き飛んでいたのだが、このツケは後になって巡ることになる。


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