6話 仲直り①
部屋に戻る途中の廊下で、さくらは『はぁ〜』と大きめの溜息をついた。
そんなさくらの様子を見て、お美和がクスリと笑った。
『さくらちゃん緊張がやっと解けたみたいね。』
『はい。緊張しすぎて、口から心臓が飛び出るかと思いました笑。』
『さくらちゃん大げさね。でも、大丈夫よ。
さくらちゃんが付くのは太夫の桜木さんですもの。
きっと何も心配することはないわ。』とニッコリ笑って言ってくれた。
『ただいま』と言って大部屋の扉を開けると、ちょうどお滝とヨネがお饅頭を食べていたところだったようで、お滝がさくらの姿を見てびっくりしたのか大きくむせてしまう。
『ちょっと大丈夫?お滝?ヨネお水を持ってきてちょうだい。』
『わかりました。』
ヨネはお美和に言われて、湯のみにお水を1杯持ってきて、『はい。お滝』と言って差し出した。
お滝は湯のみを受け取ると、ゴクゴクと喉を鳴らすように水を飲む。
飲み終えるとやっと喉の詰まりがとれ、落ち着いた様子だ。
『大丈夫?』
心配そうにお美和がらお滝の顔を覗き込む。
『は、はい。もう大丈夫です。
ご心配おかけしました。』と言って軽く頭を下げる。
『大丈夫なら良かったわ。』とニッコリ笑ってお美和は言う。
『お美和さんやさくらに食べられたくなくて、一気に口に詰め込んだんじゃないの笑?』
いたずらっ子のように、ヨネがお滝にチャチャを入れる。
『なっ!!』と言ってお滝が反論をして喧嘩をしかいように、お美和が会話に割って入る。
『それはヨネの方なんじゃない?ヨネの皿の上のお饅頭もうないじゃない笑?』
『ひ、ひどくないですか?お美和さん泣』
『ウソよ笑』
そんな会話で、部屋の中は一瞬で笑顔になる。
お美和さんはすごいなと、さくらは心の中で思った。
『そんなことはさておき、お滝は落ち着いたようで良かったわ。』
お美和はお滝の方に向き直り、安堵の笑みを浮かべる。
『先程はご迷惑をおかけしてしまって、すいませんでした。』
『謝る相手が違うんじゃない?これから一緒に生活していくんだから、きちんとしないとね。』
そう言われてお滝は、さくらの方に向き直る。
お滝の緊張がさくらに伝わり、さくらも緊張してくる。
『さっきは八つ当たりしてしまって、ごめんなさい!』と深く頭を下げた。
フワッとさくらは微笑み。
『頭を上げてください。私は気にしてませんから』と言った。
そのさくらの笑顔に、お滝は釣られるように自然と笑顔になる。
それが、初めてお滝の笑顔を見た瞬間だった。
すると、隣にいたヨネが『勿体無いなさくら。私ならもっと謝れって謝らせるのに笑』なんて茶目っ気たっぷりに言うと…。
さっきまで可愛らしい笑顔を浮かべていたお滝が、キッと鋭い目つきでヨネを睨みつけ。
今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気に。
パンと一つ手を叩いて、その場の視線を自分に集めたお美和。
『せっかく仲直りをお滝とさくらがしたのに、ヨネが喧嘩を吹っかけたりしたら元も子もないじゃない…』と溜息まじりに言った。
『ごめんなさーい。』と舌を出しながらヨネが謝った。