5話 鮮やかな色
『さくらが付くのは、ここで1番の太夫の桜木さんよ。』
『1番の方なんですか…』
『そんなに緊張しなくても大丈夫よ。
桜木さんはお優しい方だから。』
『はぁ…』
『さぁ、着いたわよ』
着いた言われ、緊張から伏せていた顔を上げると。
扉からして綺麗な彫刻が施された扉の横に、きっとお付きの方であろう女性が立っていた。
『お美和どうしたの?こんなところに。』
門の外にいた女性が、お美和に話しかけてきた。
『お小夜さん。今日から入った新人のさくらを連れてきました。明日から桜木さんのもとでお世話になることになっているので。』
『新人…。あぁ、皐月さん言ってらした。
どうぞお入りになって。』
『ありがとうございます。さぁ、さくら行くわよ。』
『は、はい!』
さくらの胸がドクドクとさっきよりも鼓動を増し、緊張感が増していく。
『桜木さん。』
『なに?お小夜?』
『明日からここで働くことになっている新人が、お美和と一緒にご挨拶にきております。』
『そうか、通しなさい。』
『さぁ、どうぞ?』
お小夜にうながされ、部屋の奥へ進む。
進んだ先にいたのは、今まで見たことのないような綺麗な桃色の着物を身にまとい、色鮮やかな装飾を施されたかんざしや笄で髪を飾った、絶世の美女。
太夫の桜木さんだった。
『桜木さんお久しぶりでございます。』
『久しいな。お美和。元気にしておったか?』
『はい。変わりなく過ごしておりました。』
『そうか。して、そちらが新人か?』
お美和さんに向けられた視線が、自分に気が向いたのを悟ったさくらは慌てて挨拶をした。
『は、はじめまして。明日からお世話になります。
さくらと申します、どうぞよろしくお願いいたします。』
そう言って深々と頭を下げた。
そんなさくらを見て、桜木はクスクスと笑い。
『そんなに緊張せんでもよい。
そち、さくらという名なんだな?』
『は、はい!』
『私の名にも、桜の字が入っておる。
これも何かの縁かもしれぬな。
明日からしっかり世話を頼むぞ。さくら。』
『は、はい!精一杯頑張らせていただきます!』
これが、私と桜木の忘れもしない出会いの瞬間だった。