2話 船出
女衒に連れられてさくらが来たのは、江戸の吉原遊郭。
江戸時代、幕府公認遊郭街が3つ存在した。
京都の島原遊郭、大阪の新町遊郭、そしてさくらが連れてこられた江戸の吉原遊郭。
その中でも、江戸の吉原遊郭は煌びやかで有名であった。
『ここだ。入りな。』
女衒に連れられてきたの、吉原遊郭の中にある『華の郷』という店だった。
『女将、新しい子連れてきたぜ。』
『はいよ。こっちの部屋に連れてきとくれ。』
通された部屋に入ると、鮮やかな赤の着物を身にまとった貫禄のある女性が座っていた。
あまりの威圧感に、さくらは少し萎縮してしまった。
『そこの、私の前に立ってくるっとゆっくり回ってごらん。』
『へっ?』
『しのごの言わずに、言われた通りにしな。』
『は、はい!』
さくらは言われた通りに回ってみせる。
回り終わったさくらを見て、その女性は。
『なかなか素材が良さそうな子だね。
でかしたよ。また、頑張ってくれよ!』
そう言って足元にあった巾着袋を、女衒に手渡す。
『へい!それでは私はこれで…』
女衒は巾着袋を受け取ると、店を後にした。
急に見知らぬ場所に連れてこられ、どうしたらいいかポーッとしていたさくら。
『そこで、ボーッとしてないでここに座りな。』
女性に扇子で指さされた、女性の座る前あたりに座る。
『お前、名はなんという。』
『さ、さくらといいます。』
『そうかい。いいかい、お前にはそれなりの金を払っているんだ。一生懸命働くんだよ。』
『はい。』
『私は、内儀の村雨だよ。
ここを取り仕切ってるものだよ。よろしくね。』
『こ、こちらこそよろしくお願いいたします。』
『お前は、どこの出だい?』
『田舎の農村出でございます。』
『農村の出でにしては、随分と凜としてるね。
お前は磨いたら、もしかしたら原石かもしれないね。』
『…?』