チート発覚!
転生して、早5年が過ぎた。
楚羅は無事に転生し、伯爵家の長女、アルフォンディ・ルナシスとして生きている。
この世界、『ラフリア』ではフォレスリアムが言った通り、剣と魔法が普通にある世界だった。
魔法があるかわりに、この世界には技術や化学などが発展していない。もちろん電気など通ってるはずも無く、普段の生活では魔法や魔石といったものが主に使われている。
しかし、魔法には属性というものがあり、その属性に適性していないと使えない。一般的に属性は1人大体1つである。稀に2つ3つの属性を持つ人もいるが、本当に稀で、3つの属性を持っている人は王宮魔法師にもなれるくらい。
属性は全部で7つあり、『火、水、土、風、雷、闇、光』とあるが、全属性を持つ人はこの世界に1人もいない。
何故こんな話をするかと言うと…──楚羅、アルフォンディが全属性持ちであるからなのだ。
この世界では3歳に属性を神殿で調べるという掟みたいなものがあり、アルフォンディが3歳の頃に属性を調べてみたところ、全属性を持っている事が発覚した。
アルフォンディは2歳から本を読み始め、魔法書を読みながら魔法をこっそりと使い始めていたので分かっていてあまり驚かなかったが、適性がわかった時の周りの驚き様は凄かった。
神殿や魔法師にはスカウトされるし、畏怖や尊敬の目で見られるしで大変だった。
アルフォンディ自身は周りの事なんてどうでも良かったが、親の反応は少し気にした。
あれほど溺愛していた子が、3歳で魔法を扱えるやら全属性やらで、流石に親もアルフォンディの扱いに困るだろう──…と思っていた。
だけど家族はアルフォンディが全属性だと分かった時、誰よりも喜んでくれた。
流石にこれにはアルフォンディも驚き、親の前で号泣(とまでは言わないが)してしまった。
アルフォンディは基本無表情だが、家族には心を開いている為に屋敷にいる人達にはわかる程度に表情が変わる。
アルフォンディが無表情なのを初めの頃は家族も心配をしていたけれど、これは前世からでアルフォンディは直せないので仕方がないと思った。それも家族はアルフォンディのデフォルトが無表情だという事は理解してくれている。
そんなこんなでアルフォンディは5歳になったが、この世界では歳をとるごとに祝うのではなく、5歳、10歳、15歳と5年ごとに周りの貴族を招待してお披露目会兼、誕生会のパーティを屋敷で開く決まりになっている。
アルフォンディは今年で5歳になったので、生まれて初めてのお披露目会を今日やる事になっていた。
アルフォンディの母であるアンディアは、娘の初のお披露目会だとドレスや装飾品選びに気合いを入れていた。
アルフォンディの淑女レッスンやマナーに関しては3歳の頃に始め、4歳には指導者を泣かせる程に完璧にマスターしたので問題無し。
そして今日。
貴族達の前で『ルナシス公爵家の長女、アルフォンディ公爵令嬢』が初めて出る場所である、パーティがあと一刻と迫ってきている。
アルフォンディは侍女に断り、一人でドレスを着替える。ドレスは特注品らしく、この世界では珍しいアルフォンディの、青みがかった黒髪が映えるような白と水色を基準としたドレスに仕上がっており、レースが使われているが、アルフォンディが着ると可愛くも凛々しく、大人っぽい仕上がりになっていた。
アルフォンディはドレスに着替え終わると、侍女を連れながら化粧部屋へと向かう。
アルフォンディが化粧部屋に着くと、侍女に促されながら椅子に座り、あれよこれよという間に侍女達がメイクや髪型をやり始めたのを黙って見守っていた。
瞬く間にアルフォンディの顔の素材が活かされているような薄いメイクを施され、艶がある黒髪は、下ろした状態で瞳と同じ色の黒の小さな宝石がたくさん使われている髪飾りを付けられた。
仕上げに首には小さなダイヤを使った首飾りが付けられている。
「お嬢様…っ」
「とっても可愛いですわ!!」
メイクや髪型を施した侍女達は、完成したアルフォンディの様子を見ながら感極まったように震えた声でアルフォンディを褒めた。
薄くメイクが施され、ドレスや装飾品を付けたアルフォンディは、誰が見ても『美少女』と言うような、子供なのに可愛くも大人っぽい雰囲気を醸し出した凛とした姿になっている。
アルフォンディの姿を見た母であるアンディアは、「きゃー!アルディ、とっても素敵だわ!!」と言いながらアルフォンディの周りを歩き、ベタ褒めしていた。
父であるエヴァルトも「アルディ…っ!可愛いなぁぁぁ!!!!」と言いながらアルフォンディに抱きつこうとして、執事に「崩れてしまいます」と言われて阻まれていた。
今回のパーティで貴族との交流も深めようと考え、エヴァルトと真剣な顔で話し合っていた兄のアレクラストも、アルフォンディを視界に入れた途端真剣な顔も一瞬で崩し、満面の笑みに変えた。
「アルディ、とても似合っているよ。あぁ、なんて可愛いんだ…っ!」
そんな家族の言葉にアルフォンディは照れながら、「ありがとう」と言い、微笑んだ。
そんな家族の様子に少しほっこりとしながらも、かなりの人数の貴族達がホールに集まり、パーティの時間を迎えた。
パーティでは主催であるエヴァルト公爵が初めにスピーチをし、パーティの主役であるアルフォンディが挨拶をして始まる。
挨拶といってもまだ5歳。淑女レッスンは始まっているが、まだまだ未熟なところがある為にある程度子供らしい挨拶でも許されるところがある。
だが、アルフォンディは考えた。
ここで子供らしいと見られるより、ハッキリとしっかりとした挨拶をし、ルナシス公爵家の長女、アルフォンディを貴族達に見せつける方が将来の為、家の為になるのではないか──…と。
エヴァルトがスピーチをしている横でアルフォンディは無表情で挨拶の言葉を考えていた。
「──…では、パーティの主役である私の娘、アルフォンディから挨拶を。」
エヴァルトのその言葉で、アルフォンディは一歩前に出て淑女の礼をとった。
前を見据え、口を開く。
「ルナシス公爵家が長女、アルフォンディ・ルナシスですわ。本日は私のパーティの為に足を運んでいただき、ありがとうございます。私自身、まだ礼儀やマナーがなっていないところがありますので、今回のパーティで色々と学べたらと思っております。皆様はどうぞごゆっくり御寛ぎ下さいませ。」
そう言い終えると、もう一度礼をしてから元の位置に戻った。
アルフォンディは横目でチラリとエヴァルトを見ると、エヴァルトはアルフォンディに笑顔で「良かったよ」と微笑んだ。
アルフォンディ自身はまだまだだと思う事があったけれど、褒められるのは素直に嬉しい。エヴァルトに向けてふわりと微笑んだ。