第2話 俺の秘密は、隠れるという文字を知らないらしい
2日目、ちゃんと更新できた
「あの、実優斗さん?」
「ちょっ、ストップ、ストップ。ちょっと向こうで話そ!」
「(初日に全員からバレるなんて冗談じゃない)」
その一心で声をかけてきた女の子と共に廊下へ出た訳だが、登校してきた生徒たちがたくさんいるせいで2人きりになれるような場所がない。トイレにでも駆け込めばいいと思ったのだが、なぜか男子トイレが見当たらない。
「(クソっ。なんでこの階、男子トイレが見当たらないんだ。昔はあったはずなのに)」
内心、毒づきつつ周囲をみる。
「(このまま廊下を彷徨いてたんじゃ、チャイムがなって遅刻だ。優等生な妹がそんなことする訳がない。すると、俺が妹じゃないってバレてしまう。しかたない)」
意を決して、女子トイレの中へ女の子を連れ込む。急いで女の子と一緒に個室の中へ隠れる。
「あの、実優斗さん。これは一体?」
「ああ、ごめん。ちょっと事情があって。その説明をする前に、君の名前を教えて欲しいんだけど……」
「っ!ごめんなさい。名乗ってませんでしたね。私の名前は相生葵香です。深優ちゃん、妹さんには『きょう』って呼ばれてました」
「葵香ちゃんか。妹がそう呼んでいたなら俺も葵香ちゃんのこと、きょうって呼ばなきゃだな」
「あの、深優ちゃん、妹さんじゃなくてなんで実優斗さんが中等部に?実優斗さんって、たしか高等部ですよね?」
「俺のことは深優ちゃんって呼んでおいてくれ。周りにあやしまれちゃうから。実はな、妹は……」
俺は葵香ちゃんに3日前にあったこと、そして、俺が妹の代わりに中等部へ通うことになったことを話した。
きょうちゃんは、俺が思ったより驚いていなかった。むしろ、『あぁなるほど』みたいな反応である。
「きょうちゃん、あんまり驚いてないんだね」
「深優ちゃんなら、やりかねないので」
妹よ、普段の学校生活で何をやらかしてきたんだ……。
「それで、実優斗さん。女の子をトイレに連れ込んで、どうするつもりですか?」
「なっ!?違うよ!なに言ってるんだ。本当は男子トイレに連れ込むつもりだったんだけど……」
「そういう質問じゃなかったんですが。まず、私たちのクラスは女子生徒しかいないので、この階には男子トイレはありませんよ。女の子である私を男子トイレに連れ込むつもりだったんですか?」
「だって俺、男だし。男が女子トイレに入る訳にはいかないだろ?女子生徒しかクラスにいないってマジかよ」
「マジですよ。……はぁ。つまり、『私にえっちいことをするつもりではなかった』ということですね?」
「うん。だって俺が本当は『男』なのに『妹のふり』をしているなんてバレたらまずいだろ。話が周りに聞かれないように孤立した場所に行かなきゃだろ?っていうか逆になんで、俺がきょうちゃんに『えっちいこと』をすると思ったの?」
「深優ちゃんに、実優斗さんが『ロリコン』だと聞いていたので。私に欲情しているだろうと思いまして……」
「えぇぇっっ!?」
妹よ、戻ってきたら覚えていろよ。
「……なんで俺が深優じゃないって分かったの?」
「実は深優ちゃんから、こんなものを貰ってまして」
きょうちゃんが取り出したのは、1枚の紙。
「これは一体?」
「まぁ、見てみてください」
きょうちゃんから紙を受け取る。
そこには、なんと。
「これ、俺の写真?」
「はい。深優ちゃんから、『深優のお兄ちゃんは、こんな感じなんだよ〜』と言って押し付け……ごほん。渡されました。これを何回も見てたので、実優斗さんだと分かりました。実優斗さんに身代わりをさせる気しかなかったから、私にこの写真を渡してたんでしょうね」
「今、押し付けられたって言おうとしたよね!!」
「気のせいでしょう。早く教室に戻りますよ。ここにいる間は、優等生でいなきゃならないんでしょう?深優ちゃん」
「はぐらかし方、雑だね。あと2分で予鈴じゃん。急ぐぞ、きょうちゃん」
「えっ?何を。って、キャアアアア」
きょうちゃんの腕を掴み、廊下を全力疾走する。移動中に妹の席がどこか聞くのも忘れない。『こら、廊下を走るな!』という注意が先生から飛ぶが、顔が見られていないので良しとしておこうと思う。
教室に着いて、妹の席に座る。妹の席は、きょうちゃんの後ろの席だった。俺の予想は、ひとつズレていたらしい。
イスに座り息を落ち着かせようとしていると、周りをクラスメイトに囲まれた。
「ねぇねぇ、深優ちゃん。いつもと雰囲気違ったけどどうしたの?」
「いつもみたいにお兄さんの自慢話しないの?」
「わたし、このテスト用問題の解き方わからなかったから、教えて欲しいんだけど」
「わたしとつきあって!」
妹の周りは、いつもこんな感じだったのか。あと最後のやつ、地味に告白してるんじゃない。聞こえてきた話の中に何か違和感があるんだけど、何か分からない。すっごいモヤモヤするな。
「実優斗ちゃんは疲れてるんだから、そんなに囲わないようにしなきゃダメだよ」
俺から女の子たちを遠ざけようとしてくれるきょうちゃん。『感謝だな』とか一瞬思いました。目を見て分かりました。きょうちゃんは、俺が女の子たちに欲情しないように守ってるだけでした。信用ないな、俺。
「葵香ちゃんばっかりずるいよ。深優ちゃんを独占するなんて」
「そうだよ。そうだよ。深優ちゃんは、みんなのものだよ」
「葵香ちゃん。実優斗ちゃんって誰のこと?」
最後の言葉にハッとするきょうちゃん。ふざけんなよ、きょうちゃん。さっそく全員にバレそうじゃねぇか。
「後で説明するから。もうすぐ先生来ちゃうから。みんな席に戻って」
「ちゃんと、説明してよね」
「今、説明しなさいよ」
「何があっても深優ちゃんは可愛い」
最後のやつは頭おかしい。きょうちゃんが『先生が来る』って言った直後。
「おい、なにやってんだおまえら。とっとと席座れー」
その言葉と同時くらいに、見計らったかのように教室に担任の先生が入って来た。俺の周りを囲っていた女の子たちは、渋々といった感じで自分の席へ戻っていった。
なんできょうちゃんは、俺の秘密をあっさりバラそうとするかね?
「よし、全員いるな。初日に欠席者はなし、と」
『身代わりは1人いるけどなぁ』とか、心の中で相槌をうつ。
「じゃあ、これから。テストをはじめるぞ!」
さっき感じた違和感はこれか。『テスト用問題』に反応してたのか。テストなんてあるの、全く知らねぇぞ。高得点、取れる自信ない……。優等生、演じられっかな。不安だ……。
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