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短編小説

夏祭り

 この為だけに今日来たと言っても過言ではない。

 神社の石段の中腹に座り、眼下に広がる祭り会場を眺めながら、悪友はりんご飴を片手ににやついた笑みでそんな事を口走る。

 

 盆踊りが始まったのか、神社からはどうにもリズムのおかしな太鼓の音と、スピーカーのボリュームを上げ過ぎなのか酷く割れた祭囃子の音が聞えて来た。

 やぐらの上ではきっと近所の子どもが小鼻を膨らませ太鼓を叩いてるんだろうな。

 

 続々と石段を上り神社を目指す浴衣姿の女性を目で追う悪友を尻目に、次は何を食べようかと綺麗に並んだ屋台の列に視線を落とす。

 浴衣の女性を眺めに来ただけの悪友とは違い、しっかりと祭りを堪能しようと思う。

 イカ焼きにやきそば、たこ焼きはちょっと普通過ぎか。

 そんな事を考えながらふと視線を上げると、一組の親子が石段を上って来る。

 母親に手を引かれながら、石段をゆっくりと一段ずつ上って行く幼い子どもの手にはチョコバナナが握られている。

 俺は無意識にその子どもを抱え上げてしまい、すぐ我にかえって謝罪する。

 まだ覚束ない足取りの子供がチョコバナナを片手に石段を登る様を見ていると、不吉な事しか想像出来なかった。

 しかも少年の手を引いている母親のお腹はふっくらと膨らんでいる。そんな二人がゆっくりと石段を上っているのを見たら、咄嗟に体が動いてしまった。

 

 さすがに恥ずかしくて顔が熱くなる。

 しかし母親は、人攫いと思われてもおかしくは無い俺の行動を正しく理解してくれたらしく、嬉しそうな申し訳無さそうな複雑な顔で微笑んでくれた。

 俺が子どもを抱えて石段を上り始めると、なんと悪友も母親の手を取りはにかみながらも一緒に石段を上り始めていた。

 さすがに悪友も子連れの女性にはちょっかいは出さないだろうが、鼻の下が伸びに伸びてて見てるこっちが恥ずかしい。

 

 安心して自分のペースで上り始めた母親を眺めていると、子どもが肩車が良いと駄々をこね始めた。

 慌てて母親が窘めたが、現役高校生の俺には抱っこも肩車もそう変わらない。

 思い切り肩車してやればチョコバナナを振り回し大喜び。

 だがさすがにここで調子乗ってくるくる回るわけにはいかない。

 この神社の石段は一段一段が不親切な程高いくせに幅が無い。その上ごつごつと不恰好で角は丸く滑りやすい。

 子供の頃雨の日に隣に居る悪友と、どっちが早く神社まで登れるかと競争をした事があったが、あの時は二人とも盛大に滑って転び、悪友は足を数針縫う怪我までした。

 あの体験のせいで、俺達はこの石段があまり好きでは無いし、子どもが一人で上っているのを見ただけで古傷が痛む。

 

 ゆっくりゆっくり途中で休憩を入れながら進み、もうあと数段となった時、腹に響く大きな音とともに目の前の石段が光った。

 花火大会が始まったらしく、振り向けば真っ直ぐ視線の先に見事にまん丸な花火が広がっていた。

 長い石段の下にはどこまでも続く屋台と、更にその先の坂の下には街が見える。

 図らずも一番高い、何も邪魔するものが無い特等席での花火大会。

 石段の脇の木々も、今は花火を彩る物に見え邪魔にはならない。

 花火が打ち上がるごとに子どもが甲高い声で笑い、母親は花火そっちのけで子どもを見て目じりを下げる。

 悪友も二人につられたのか、花火を指差しながら面白い程興奮して話しかけてくる。

 

 そう言う俺は花火そっちのけ。

 視線を下げたら石段の下に甘栗の屋台を発見し、ばあちゃんへのお土産にしよう等と考えてる自分が居る。

 まぁ、花より団子なばあちゃん思いの出来た孫って事で。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  何か、ほっこり、するお話だなぁ、と思います。  夏祭り。懐かしい気持ちになりました。  若い頃、友人達と行った隣町のお祭りを、思い出しました。  神社ではないですが。高い所から見た花火。…
[良い点] ・なんだかさわやか ・針で縫う描写に手首を痛めた…… ・なんだか不思議な心地よさ [気になる点] ・人攫い  →管理ページとかで見直してみると分かるかと思いますが、パソコンなどで見ると潰れ…
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