ポル操のすすめ
「とうとうこの日がやって来たね透くん」
ベッドに腰掛け足を組み、両手を組んで不敵な笑みのつぐみである。
「わたしはポルターガイスト操作法を完全にマスターした。さあ、いつでもかかってこいだよ透くん!」
「随分長かったですね」
残念な格ゲー勝負からのさらに残念な落ちゲー勝負ののち、つぐみは思念のみでコントローラーを操作する練習に明け暮れた。
「透くんが学校に行っている間、来る日も来る日も配管工になってただただ走ってジャンプし続ける日々。つらかった……」
「ジャンプばっかりなのは花を取る前にダメージ受けて小さくなるからですよ」
「平尾家の電気代も顧みず、修羅になって憑りつかれたようにゲームをした。その苦労はついに実ったんだ!」
「電気代で苦労するのはうちの親じゃ?」
「とにかく勝負だ、透くん! ぼっこぼこにしてやるぜ!」
頬を緩ませ、つぐみはびしっと指を差す。
相変わらずテンションが高い。
「勝負ですか? そもそも最初は協力プレイのためって話じゃなかったですっけ?」
透の言葉に、つぐみはオーバーに肩をすくめてみせる。
「なんだなんだ透くん、質問ばかりだね。少しは自分で考えなさい」
「『格ゲーでぼっこぼこにされたのが悔しいからやり返したい』」
「なんだよぉ! わかってるなら聞くなよぉ!」
「半泣きにならないでくださいよ。じゃあ、この間のと同じ格ゲーで勝負ですね。さっさと準備しましょ」
「……ふふ。ここがおまえの死に場所となるのだ」
「情緒不安定なのは幽霊だからですか?」
そんなことを言いながら、ふたりはゲームをセットした。
というわけで、前回同様に格ゲー勝負は始まった。
ふたりはともに真剣な顔で画面を見つめ、コントローラーからは画面上のキャラの動きにシンクロして激しい音がしていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………つぐみさん」
「……なに?」
「……………………あんまり変わらなくないですか?」
「誰がガチャプレイだ!」
自力でのコントローラーの操作ができるようになったところで、ゲームの腕前自体が上がるわけではない。
「わたしのポル操は完璧! ラグなんて一切発生していない!」
「だったらつぐみさんが元から弱いだけじゃないですか」
純然たる事実である。
「つぐみさんの格ゲーの腕前はともかくとして、ひとりでプレイできるようになったのはいいことじゃないですか。それこそ、協力プレイならなにも問題ないですもん」
透としては部分憑依のためにいちいち体を貸さなくてもいいというのはありがたい。協力プレイにだって興味がないというわけでもなく、そのことは単純に嬉しかった。
「……なーにを勝った気でいるんだい? わたしはまだ全力を出してはいないよ?」
「そんなあからさまな強がりを言わなくても……」
「甘い! 甘いんだよ透くん! きみはポル操の真の恐ろしさを知らないのだ!」
「恐ろしさって……。幽霊のつぐみさんの存在自体がまず恐ろしいじゃないですか」
軽くひどいことを言う透をスルーし、つぐみは続ける。
「ポル操の最大の特徴とはなにか!? 答えは簡単だ! それは、わたしがコントローラーを手に持つ必要がないこと! そしてそれによって生み出される戦法とは――」
言うや否や、つぐみは透の前に飛びだした。そして両手を広げて仁王立ち。
「操作を維持しながら、こうやって視界を奪うことさッ!」
わっはっは、と大口を開けて透を見下ろす。そこにあるのは、勝利を確信した顔。
画面を遮られた透の横で、つぐみのコントローラーが動き続ける。
「さあ、どう攻略する!?」
「――でもそれって、つぐみさんも画面見えてないですよね?」
「…………あッ」
フリーズしたつぐみの背後から、彼女の操作キャラのエコーのかかった悲鳴が聞こえてきた。
「せめて画面の方を見るべきでしたね」
「それじゃあコントローラーが見えないもん。見えないと動かしづらいもん」
「じゃあどうしようもありませんね」
「諦めが早いよぉ! もっと勝つための方法を考えよう!?」
「…………じゃあ、ゲームの練習しましょうか」
「正攻法かぁ~」
「正攻法ですねー」
そっかー、と言いながらいそいそと格ゲーソフトをしまい始めるつぐみであった。
「よっし! 配管工で協力プレイだ!」
「今日は火の玉打てるといいですね」