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シごらく  作者: 吉水ガリ
3/6

ホラーゲーム奇譚

「ホラーゲームがない」

「唐突になんですか?」

 とある土曜、今日も今日とて暇な時間はゲームに興じようとハードを準備していた透に、つぐみはなんの前触れもなく言った。

「この部屋にはホラーゲームがない。携帯、据え置きを問わず、ホラーゲームが存在しないんだ。そしておまけに、ホラー漫画やホラー小説もない。完全に恐怖が排除された空間なんだよ」

「なんですか? なのに幽霊はいる! みたいなことが言いたいんですか?」

「いや違うよ! わたしそんなよくわかんないこと言いたがる人に見えてる? 透くんの印象はそんな感じなの?」

「そこはどうでもいいじゃないですか。結局なにが言いたいんですか? ここにはゲームも漫画も小説もホラーものはないですよ。それは合ってます。それで?」

「怖がりなの?」

「…………」

「意外に怖がりなの?」

「現実で幽霊と同居できるぐらいには平気ですよ」

「いやいや、フィクションに出てくる恐怖の権化的なクリーチャーたちと見た目ほぼ普通の人間でしかないわたしと比べちゃ駄目だよー」

「でもつぐみさんだって幽霊は幽霊だし、正直言えば薄気味悪いですよ」

「えッ、嘘!? それ本気で思ってる? 違うよね。怖がりだってからかわれたくないから意地悪言っただけだよね? わたし不気味じゃないでしょ? ほとんど生きてる人間と変わらないでしょ? ねえそう言って。いまのは嘘ですって言って。ねえねえ――」

「そんな必死にならないでくださいよ……」

 懇願しながら詰め寄ってくるつぐみを一旦落ち着かせ、透は話を仕切り直す。

「僕はホラーは苦手だし、進んで見ることはないです。だからホラーゲームもない。これで満足ですか?」

「わたしホラーゲームがしたい!」

「僕の発言ってなかったことにされてます?」

「わたしはホラーがイケる口だから! したい!」

「我侭すぎるでしょ」

「別に透くんにプレイさせようってわけじゃないんだからいいじゃない。両手だけ貸してもらったら万事オッケー!」

「でも肝心のソフトがないですよ? さすがに自分でやらないゲームを改めて買う気はないです。投げ売りのクソゲーだろうと、一切買う気はないですから」

「この部屋にはないけど、おじさんは持ってないかな? 結構いろんなジャンルやるんでしょ?」

 つぐみの言うおじさんとは、透の父である英介のことだ。英介もまた透やつぐみ同様のゲーマーであり、この家には彼が実家から持ってきた古いハードやソフトがいつでもプレイできるようにしまってあるのだ。

 透は英介所有のソフト群を頭に思い起こした。

「そんなに種類はなかったけど、確かにいくつかありました」

「じゃあ決まり! 今日の憑依タイムはホラーゲーム。あとでどれをプレイするか選びにいこーね!」

 つぐみは満面の笑みを見せながら、さくさく話を進めていく。

 透は不承不承それを承諾し、かくして休日の至福のゲームタイムに少しばかり憂鬱な一時が差し込まれてしまったのだった。




「ねー、そんなに怖いものかな? CGもいまのと比べると結構荒いし、意外と平気じゃない?」

「僕のことは気にせずゲームに集中してください。時間は限られてるんですから、堪能しないと損ですよ」

 つぐみが選んだのは、現行世代のひとつ前のハードで数年前に発売されたホラーアドベンチャーゲーム。透でも名前は知っているぐらいのそこそこメジャーなソフトだ。

 現在、いつも通りに頭を出した二人羽織状態でプレイ中である。

「わたしとしてはゲームの中身と透くんの反応の両方を堪能したいって感じなんだけ――」

「――――ッ!?」

「おおッ!? いまのはちょっとびっくりしたねー。ダメージ受けちゃったよ。――あれ? なんで床を見つめてるの? 透くん? 画面見ようよー」

「僕はこれで大丈夫なので……」

「一緒に見ようよ。そして騒ごうよ。ワーキャー言いながらやるホラーゲームもきっと一興だよ?」

「それはひとりで存分に……ッ!?」

 ちらりと画面を見てしまったのか、透は再度体を撥ねさせた。画面には血涙を流した真っ白く不気味な女の顔が大写しになっている。

 透の反応を見て、つぐみはにまにまと笑みを浮かべてコントローラーを操作する。

「いやー、人と一緒にプレイするとこういう楽しみ方もできるんだねえ。わたしホラーゲームに目覚めちゃったかも」

 画面から目を背けようとしながらもちらちら見てしまい、その度にビクビクとリアクションを取る透の姿に、つぐみは妙な楽しみを見い出していた。




 そんな透にとって憂鬱な時間もどんどんと過ぎていき、それに従って憂鬱度合いはますます深まっていた。

 しかしそれは、

「つぐみさん、またですか?」

 少し憂鬱の種類が違っていた。

 それにつぐみの方も、

「今度は大丈夫だって。動き覚えたもん。所詮はAI、パターンを覚えたら人間の敵じゃないね」

 透の反応を楽しむ余裕はなくなっていた。

 二人の視線の先、画面上には本日六度目となる幽霊出現のシーンが流れていた。

「何回同じとこでやられるんですか」

「そうは言っても難しいんだからしょうがないじゃない。きっとおじさんはマゾなんだよ。追い込まれることに快感を覚え、それを乗り越えることにカタルシスを覚えるタイプだね」

「マイナスからのプラスにカタルシスを覚えるのは人類共通だと思いますけど」

「あぁ――――ッ! 駄目! 駄目! それ駄目だって、ていうかハメてない? いまのこっちの入力の方が早かったし!」

「あ……また」

 つぐみががちゃがちゃと忙しなくコントローラーを動かしたのも甲斐なく、画面には鮮血とともにゲームオーバーの文字が浮かんだ。

「僕、もうあのシーン見たくないんですけど」

「それはあれかな? 怖すぎてかな?」

「見飽きたからですよ」

「次は絶対いけるから! 新たな恐怖映像をその目に焼きつけてあげるからね!」

「期待せず待ってます」

 その後、案の定つぐみはどツボにはまりゲームオーバーラッシュ。見かねた透が変わってプレイしたところ、まさかの一発突破。

「ずるいぃ~ッ! 人のプレイ見て技を盗んでた~! わたしは捨て駒にされた~!」

 半泣きで抗議するつぐみをいつものように透が宥めながら、二人は協力し合ってそのソフトをどうにかこうにかクリアまでこぎつけたのだった。


「今回は予想外だった。今度はゲームじゃなくて映画にしよう。それなら透くんの反応が見られる」

「目的変わっちゃってるじゃないですか」

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