第三話
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スフェラ王国王都プルクラ。
今日、そこにある貴族の初等学園に私とシャロンは入学する。
王都にある貴族の初等学園に入学試験等は特に無い。
読み書きも四則計算もこれから学園で学ぶのだから当然だ。
ただ、親や身元保証人の身分が入学条件に問われる、そんな学園だった。
馬車から鉄柵越しに重厚な雰囲気を纏った煉瓦造りの建物が見えた。
ナナがあれが学園にだと教えてくれ、これから六年間あそこに通うのかと思うと思わず感嘆の溜息が漏れた。
「私達、あんな御伽噺に出てきそうな建物で六年間過ごすのね」
「楽しみだね、アリア」
「そうね、シャロン」
本当に、そう思う。
乙女ゲームの悪役令嬢なんて胃の痛い役職になってしまったけれども、これは素直に喜べる。
ナナと共に受付に行き、所属クラスを教えてもらう。
当然といえば当然だけど、私とシャロンは同じクラスだった。
主人と従者が別々のクラスでは意味が無いからだ。
ナナと分かれて指定されたAクラスへと行く。
初等学園一年生のクラス人数は平均二十数名。内十人が貴族で十数人がお付きの者だ。
基本従者は貴族一人につき一人だが、王族は例外として二人まで付けられる。
教室に着くと、既に半数以上の生徒がいた。その中には何処か見覚えのある顔もあった。
きっと彼等は未来の攻略対象に違いない。あまり関わらないように教室の隅へ……。
「アリア・ローズクォーツ伯爵令嬢ですね?」
「え⁉︎」
いきなり声を掛けられ、思わずビクリと飛び上がってしまう。
恐る恐る振り返ると優しげな笑みを浮かべた金髪の少年とその後ろでニコニコ笑う茶髪の少年が目に入る。
脳内で前世と今世の記憶を総動員して相手が誰だか必死に思い出そうとする。
「え、えと……貴方達は……?」
「……! 失礼しました、レディ。俺はルミリオ・アングレサイト。彼は俺の従者のリアン・アンバーです」
「リアン・アンバーです。どうぞお見知り置きを」
「ア、アリア・ローズクォーツです。こちらは私の従者のシャロン・アメシスト。先程は失礼しました。お会い出来て嬉しいですわ。ルミリオ様、リアン様」
引きつった笑みになったのは王都という都会に慣れていないせいだきっとそうだ今まで領地から出たことないから身内以外の貴族に会うのも初めてだし!
決して! 決して、前世の押しメンに会ったからだとかそんなんでは……………リ、リアーン‼︎
可愛い顔して腹黒で、いつも真意の読めない笑顔をしていて少々お茶目。無関心を装っていても仲間思いで以外と男らしい。ヒロインに恋をするけど主人の為に身を引いて……!
くっ。ルミリオとリアンとの友情ルート後ルミリオを選んだあのエンディング……! 幸せそうな二人の後ろにそっと佇むリアンのあの微笑みが絶妙で……! 困ったような、悲しそうな表情を隠し切れないあの笑みが……!
「アリア。アリア!」
「はっ⁉︎ シャロン、今私は何を……?」
「何って……ルミリオ様達とお喋りして放課後お茶の約束してたけど……?」
「全然覚えて無い……」
「ぼ、僕が場所も時間も覚えてるから大丈夫だよ!」
始まって数時間でこれでは先が思いやられ過ぎる。
☆★☆★
放課後。指定された時間に指定されたサロンに行くとそこは女子で溢れかえっていた。
あの軟派野郎、やりやがった。
「こ、これは……」
この光景に引いてるシャロンを黙って隅へ引っ張っていく。
そこではリアンを初めとしたAクラスの男女数名がお茶をしていた。
「あれ、いいんですの? リアン様」
「別に。いつもの事だし。ルミリオも馬鹿じゃないからヘマなんか踏まないでしょ。後、俺に『様』は付けなくていいよ。それより、見ての通りルミリオはこちらにいないんだけど?」
「あの姦しい一団に飛び込めというの? お断りよ。ここでお茶を飲んでた方がまだ有意義な時間の使い方だわ」
「あのお嬢さん達はそう思って無いみたいだけど?」
「腹の探り合いは止めません? 私は今、お茶を飲みたいの」
「……ふふっ。ルミリオ、振られてやんの」
「貴方、いい性格してますわね……」
前世知識で知ってたけどこいつの腹黒さ、この頃からかよ! まだ六歳だぞ⁉︎ 怖っ‼︎ 王都在住貴族怖っ‼︎
リアンに勧められるままシャロンに引かれた椅子に座る。
テーブルを囲う椅子は全部で五つ。
内空席は二つで残りの席に二人の男子生徒が、それぞれの後ろに一人の少年と少女が控えていた。
「始めまして。私、ローズクォーツ伯爵家のアリアと申しますの。こちらはシャロン・アメシスト。お二人のお名前を伺っても?」
「サフィルス侯爵家のチェイスだ。こっちは俺の付き人のロゼ」
「チェイス坊ちゃんの付き人をさせて頂いてます、ロゼ・ラピスラズリと申します」
眼鏡を掛けてない事に違和感を覚えるほど知的な雰囲気を纏った少年の後ろで、黒髪をショートカットにした少女が礼儀正しくお辞儀をする。
「チェイスのところは主従揃って堅いなあ。俺はエヴァン・オストラム。こいつはノア・アゲード。宜しく、アリアちゃん」
「エヴァン様、はしたないです」
「す、すまん。ノア……」
「全く。気を付けて下さいね」
そしてたった数分の会話で見事真の主従関係を示してくれたのがエヴァンとノアの二人。
言うまでまなくチェイス、エヴァン、ノアは攻略対象であり、ロゼはライバルキャラに当たる。
のだが。
「眼鏡(本体)がログアウト……」
「は?」
「いえ、何でも有りませんわ」
うふふと笑って誤魔化すが、チェイス様まだこの頃眼鏡掛けてなかったんですねー。この人の回想で最小年齢って十歳くらいでしたし。新鮮です。
暫し三人でお茶を楽しむこと十数分。
サロンの女の子が一団と騒ぎ出した。
「……何かしら?」
「……うわお。ルミリオのやつ、とんでもない奴呼んでたみたいだぜ?」
「エヴァン、殿下に『とんでもない奴』は無いだろう」
「……は?」
チェイスの言葉に驚いて目を凝らせば。
そこにはスフェラ王国第二王子、ライアン・スフェラがお付きのルイス・オニキスとギャレット・パールを連れて立っていた。