第二話
なんか一日経ってないのに300pvとかブックマーク5件とか……有り難う御座います! 頑張ります!
私が転生したと自覚してから一年が経った。
文字にしろ、季節にしろ、日本製ゲームなだけあって苦労は無い。
……いや、いけない。この世界は確かにゲームに酷似しているけど、似ているだけ。全て現実だ。
そこを間違えると大変な事になる、気がする。
「アリア、見て。街が見えてきた」
隣から聞こえてきたシャロンの声に馬車の窓から顔を出し、外を見る。
アリアの視界には遠くに見える城の尖塔とそれを囲む大小様々な建物が映った。
「本当……流石王都ね。規模が違うわ」
アリアとシャロンは現在六歳。
この世界の初等教育を受ける為に親元を離れて学園のある王都を目指していた。
六歳児が親元離れて? なんて思うかもしれないが、貴族の子供の世話なんて元々乳母やナニーがするもので、父親は勿論母親もしない。夏には領地にある屋敷から王都にある別荘へ親も(社交界の為に)来るし、乳母であるナナや護衛の人達、それから別荘を管理している使用人達もいるので問題無い。
「アリアお嬢様、窓から顔を出しては危ないですわ」
「ごめんなさい、ナナ」
直ぐに顔を引っ込め、深く馬車に座り直すと、ナナはにっこりと微笑んだ。
馬車、というと座り心地が悪く長時間乗っているとお尻が痛くなるイメージがあるが、科学の代わりに魔法が発展したこの世界ではそうでもない。
この世界の馬車はゴーレムの馬が板を引き、その板の上に馬車が浮かぶ。前の世界の物で例えるならモノレールのレールを引きずり回す感じだろうか。
昔は板が石や水溜りによって上下し、馬車もよく揺れたらしいが、自動重心なんちゃら機能とかのお陰で今ではよっぽどの悪路でもない限り滅多に馬車は揺れない。
後、空飛ぶ機能はあるが空路の整備というか管理が大変なので、国営の飛行船や乗合馬車くらいしか空飛ぶ乗り物は無く、今だ馬車は陸路を走り、船も水面を走っていたりする。
街に入ると露店で売られている様々な食べ物の匂いが鼻を擽った。
前世の祭での夜店を思い出す。
急に前世では簡単に手に入ったチープな味達が懐かしくなった。
しかし、今は年齢もあって一人ではそう簡単に出歩けない。
外から漂ってくる魅力的な匂いをした食べ物達は暫くは諦めるしかないだろう。
「アリアお嬢様、シャロン、屋敷に着きましたわ」
ナナに手を引かれ、馬車を出ると実家より二回り程小さい、しかし十分豪邸と言える大きさの屋敷があった。
「「「お帰りなさいませ。アリアお嬢様」」」
ずらり、と道の両側に並んだメイドと執事。
因みにメイド服のスカート丈は膝下だ。
そこ、なんだミニじゃないのかとか言わない。メイド長とか中年なんだぞ。ナナも一児の母だし。
メイド服は洗練された上品なデザインで、ある種の人達には膝上丈よりずっと垂涎の逸品であろう。
「お帰りなさいませ。アリアお嬢様。大きくなりましたねえ」
「ただいま、アビー」
メイドの群れからふくよかな中年女性が進み出て来て、満面の笑みで私達を出迎えてくれる。
王都の別荘のメイド長、アビーだ。
「ささ、お疲れでしょう。お部屋でゆっくりなさいませ。それとも中庭でお茶に致しましょうか?」
「そうね……夕食が入らなくなりそうだからお茶はいいわ。学園の教科書はもうあるかしら? 部屋で読みたいのだけれど」
「それでしたら既に部屋の本棚に有りますわ」
「そう、有り難う」
「身に余るお言葉ですわ」
にこりと微笑み、お礼を言えば恭しくアビーは頭を下げる。
使用人にお礼を言う貴族は少ない。しかし、いないこともない。そういう貴族からの礼を使用人達は殊勝な態度で受け取るのだ。
「またね、シャロン」
母親と共に地下の使用人部屋へ行くシャロンに別れを告げ、アビーに自室へ案内される。
アビーが部屋を去ってから本棚から適当に一冊本を取り、天蓋付きの大きなベットにダイブし、仰向けに寝転がった。
「学園かあ……」
この世界の初等教育は義務化されていないものの、国民の殆どが受ける。
商人は商人の、貴族は貴族の学園が各都市にあり、農民は近所の教会へ農業の閑散期に学びに行く。
お陰で期間もレベルもバラバラだが、読み書き、四則計算が出来ない国民はほぼゼロなのだ。
勿論、伯爵令嬢であるアリアが通う初等学園は貴族の物であり、お付きのシャロンもそこに通う。
つまり、貴族階級及びそのお付きの攻略対象と会うことになるのだ。
「うわー、憂鬱」
まだゲームが始まるどころか舞台も役者も揃ってないのにアリアはこれからを思い、ベッドの上で呻くのであった。