#4 頭上の傍観者
倒れていたらしい。
頬が熱くて飛び起きた。
すると、目の前には。
「あ゛んだよ! ありゃぁ~~ッ‼」
鮫に似た何か。
獰猛な牙が口からはみ出している。
そして、その牙に血がついていた。
「‼ っつ?!」
慌てて入江が、二人を探した。
居ない。
「! あ゛っーー……」
そして、ようやく見つけたときには、
「あ゛ん゛で?! そんなッッ‼」
小林も、五十嵐も砂の上に倒れていた。
入江もーー震えた声を漏らす。
「俺を……俺なんかをかばったんかよ! OBコンビのくせに‼」
徐々に、入江の声が大きくなっていく。
キッ!
入江は怪物を睨みつけた。
「にやろう!」
足の上の痛みは、すでになくなっていた。
◆
「ハハハ! っざまぁないのォ~~! そう思わぬか?? クラリス、お主も!」
入江の遥か頭上に、彼らを視る影が、二つあった。
一人はーー…。
「クラレント。少し、黙っててくれないかな」
憂いた目、闇のように黒い髪は耳まできれいに揃っている。
頭にはベレー帽。複雑な文様が描かれている。
身体は少し大きめの着衣を着こまれており、性別は不明。
名前をーークラリスという。
もう一人はーー…。
右の前髪に大きな髪留めが特徴的だ。これにも、複雑な文様が彫られている。
しかし、クラレスとは違い開放的な女性の黒い洋服を着ていた。
紅葉色の髪は耳を隠し生きているかのようにうねっている。
目もとは細く吊り上がっていて、眉毛の左右に、小さなほくろがある。
名前をーークラレンスといった。
「アタシには分からぬわ。我が君の意志が」
下に居る入江に、ため息を漏らした。
「そうではないか?? だってーー……」
「主様のご意志に従う。分からないなら、それまでだ」
クラリスは、クラレントを拒絶するかのように言い放つ。
「つまらぬ奴じゃなぁ! お主は‼」
クラレンスが頬を膨らませた。
「おお! 【鋼硬尾】が攻めたぞ! そうじゃ! そこじゃあ‼」
クラレントが右腕を大きく回し、エキサイトする。
ちらりと、クラリスが視る。
(好戦的なんだよなぁーコイツはーー……)
ため息も、零れてしまう。
しかし、クラリスにもーー分からない。
「--主様の、ご意志、か」
仕える主の意志が。
◆
【鋼硬尾】は一見、鮫である。
ただ違うのは肌が鋼のように硬いのが特徴だ。
生半可な攻撃はーー効かないってこと。
シャーーーーク‼
「う゛お゛!?」
泳ぎ、突進してくる鋼硬尾を、入江も素手で薙ぎ払う。
「ヌルヌルしてて、気持ちが悪い‼」
しかし、なんとか獰猛なこれを倒さなければならない。
二人が、自分を庇って倒れている以上、やれるのは自分しかいない。
「やってやんよォーーー‼」
そんな入江に、鋼硬尾が突進していった。
◆
「さて、と」
クラリスが、種を投げ捨てた。
声を上げていたクラレントの眼にも、それが映し出される。
「あ゛! お主、まだ早いぞ‼」
クラレスの行動に、クラレントも抗議する。
「この指示をボクは、主様から受けている」
「まだ早いのではないか!? もっと、あの人間が~~~~」
ふい、と、クラレントから顔を背けた。
「死なれてからでは、遅いよ」
「--死んだら、誤魔化すに決まっておろう!」
意見が全く噛み合わない。
この話は平行線のまま終わった。
◆
ひゅるるるるううううううううううううううううううううううううう~~~!
クラリスが放った種は、
「数が多すぎだろぉ~~~~~がぁ!? ざっけんじゃあねぇっつーーの‼」
鋼硬尾に取り囲まれた入江の後ろに落ちた。
ヒュルン‼
「ん゛??」
後ろから聞こえた音に驚き、入江は振り返った。
すると、そこにはーー
「あ゛んだぁ?? こりゃあぁ~~!?」
蔓のかかった標識が生えていた。
そこには、三つの看板とボタンがある。
入江は呆然とする。
クラリスは呟く。
「選択を。坊や」
クラレントは、ただ、ただ、ニヤけていた。