#11 いま、会いに行きます
「あの男の力を感じますわ! ねぇ! クラリス‼ 貴女も感じたわよねッ?!」
江頭が術式を唱えた瞬間。
クラレントが、大きい叫び声を発した。
ピリリリーー……ッ!
「--いいや。ボクは感じない。クラレントは少し過敏過ぎる」
クラリスは素っ気なく、同意を求めるクラレントを突き放す言い方をした。
「何も感じない」
「‼ 嘘じゃッ! そんなの嘘じゃッ‼」
クラレントがクラリスの胸もとを掴みかかる。
「何度でも。ボクはーーそう言う」
っぱ!
「--アタシ、が? このアタシの勘違い??」
クラレントは額に手を置いた。
「さ。主様の元に戻ろう、クラレント」
「ええ。そうですわねーー……」
黒いドレスのスカートを揺らしながら、クラレントが飛び跳ねる。
(全くのーー嘘だけど……)
クラリスが目を泳がせた。
「--……牢獄からも、手助けしたいのか。あの男を」
そして、自身の八重歯を嘗めた。
「面白いんだから、邪魔をしないでおくれよ。クラレントちゃん」
ニィヤヤヤヤアヤヤヤヤアッヤーー……!
喜びのあまり、クラリスの表情が歪んだ。
◆
ドタン!
「ってェ!」
入江の尻が床に落ちた。
「--……更衣室、戻って……来たンか??」
床に手をつき立ち上がろうとするも、膝がガクガクと震え、起き上がれない。
「あ゛んだっていうんだよっ」
苛立った入江の視線に、サラサラとした髪が映った。
どっから生えているのか、入江が引っ張った。
「っいってェ‼」
入江の頭髪から生えている。
「ななななあななあななあなななななあななななな、あんだってェ?!」
勢いよく壁にかけられている身だしなみチェック用の鏡を手で持ち上げ、自信を映し出した。
「?!」
不機嫌そうに眉を潜める女が映っている。
髪質はビューティフルにサラサラしている。
ただ、髪の量がある。重い。
しかも、そんな髪が尻のあたりまで伸びていた。
「重ェ~~~~~ッ‼」
◆
気を持ち直して、ゆっくりと立ち上がる。
すると、ビキビキ! と足の裏が悲鳴を上げた。
そして、床へと腰が落ちてしまう。
「あ゛だだだだだだだだだッッ!?」
コロン。
床で悶絶している入江のポケットから瓶が転がり落ちた。
あの医療道具だ。
寝ころびながら、入江は焼け溶けた靴下を脱ぎ捨てて、クリームを塗った。
「おぉ! っすっげェ~~~~ッッ!」
効果は抜群で、すぐに効果が出る。
痛みも、皮膚の爛れも治った。
「これで、ノーベーー……」
入江がホクホクしていると瓶は煙となって消えた。
「っちょ! 待てよっっ‼」
チッ!
「ったく。出勤してやっかな」
ゆっくりと入江は立ち上がった。
長い髪を耳にかけながら。
「アイツらに会いに行ってやるべか」