#1 それは唐突に起こった
「だから! ここはどこなんだよ!」
◆
入江出口がそう叫ぶ。
「叫んだところで、何が解決するの」
「アンタもびっくりするとか、慌てるそぶりとかなんでしねぇんだよ!」
言い返された小林 理生人が呆れる表情をする。
「君のおかげです。君なんかでも役に立つことがあることに驚いたわ」
錯乱する入江を、小林が一蹴する。
「アンタさーこんなときでも冷静とかっ、本当に顔の面が厚ーー……」
ぐいーーと入江の頬が引っ張られた。
「小林 主任にアンタはやめろっての」
「あだだだだ! 五十嵐チーフっっ! ひっぱんなよ‼」
最後に五十嵐冬生。
この三人は、今ーー砂漠の真ん中にいるのだ。
小林は宙を見上げた、そして、五十嵐も。
「「太陽がーー」」
ただ一人、入江だけは視ていなかった。
見たって仕方がないからだ。
◆
「ふぁああ~~、眠ィ~~」
入江は普段通り早番勤務の為、職場へと向かっていた。
途中、煙草を取り出し咥えた。
しかし。
「ぁだぁ゛ーー‼」
突如、頭部に鈍い痛みが走った。
その原因を見るべく振り返るとーー…。
「吸うんじゃない、行儀が悪い」
不機嫌な顔をした、小林が立っていた。
「っげ!」
本人を前にしたまま、入江は嫌なものを見る顔をしていた。
小林も口をへの字にする。
「別のいいですけどね。いつものことだし」
そして、仏頂面で入江を追い越していく。
「あんだよ!」
入江が勤務するのは銀河エンタテインメント施設。
いろんな職種が入ったテナントビル。
この銀河エンタテインメントは、高校も創設していた。
そこの生徒も二年生になってから、仕事に入ることとなっている。
勿論、給料は出た。
そのまま卒業するのか。
社員になるか、アルバイトかは。
個々の自由でもある。
小林は卒業生だった。
そのままアルバイトを経て、臨時社員からの正社員となった人物。
逆に、入江は中途採用で、当時の店長が知り合いでコネ入社。
ただ、この二人はメダルコーナーとコインコーナー。
部署が違うため、滅多に会うことはなかった。
しかし、どうしてだか入江は小林のいるコインコーナーへ。
そこから、意見の食い違えや衝突するようになり、今では犬猿の仲とまで比喩されるようになった。
◆
(どうやったら、このおっさんを、ぎゃふん! て言わせられんだ??)
◆
イライラしながら入江は、小林を追い抜き、従業員入口に入っていく。
「あーおはよー。入江くん」
「うっす! あ。誰かもう居んの??」
「ははは。いつも君が一番じゃないか」
「あーそ~~っすねーー」
和やかな空気の中。
「おはようございます、赤井 警備長」
「! あ、おはようございます! 小林 主任‼」
赤井は恐縮する。
「誰かーー」
「来てねェーーみてェーーですよ~~」
入江が棒読みで伝える。
「…へーそー」
小林も棒読みで言い返す。
ハラハラ、と赤井警備長は二人を見るしか出来なかった。
◆
「そーだよ! 俺は出勤して、着替えてて‼」
一つ、一つ確認するかのように絶叫する入江。
「いちいっち、うっせえ~~よ! この禿!」
そんな入江に五十嵐が吠える。
「そうだーこの禿ーー」
五十嵐の言葉に続くように小林が棒読みで言った。
(この卒業生コンビわ‼)
入江が歯ぎしりをする。
この時点で、何も、全く解決はしていない。
三人の周りに吹く風が砂を巻き上げていく。
現実味の感じない光景を、ただ入江は他人ごとのように視ていた。