浮気 - 1 -
「智さんとメールできてるだけで毎日が楽しいの。早く会ってみたいなぁ。わたしのことわかってくれるのは智さんだけだよ。ずっと一緒にいたいな」
会ったわけでもなく、付き合う運びまで至ったわけでもなく、それでもお互いの存在がなければ自分の笑顔は存在しえない。
ネット上で知り合ったカヨからのメールは、そんな風に彼を思わせていた。
「じゃあ来週の週末、会ってみない?映画とかどうかな?今流行ってる漫画原作の…」
サクラかもしれない。メール送信は仕事で、すべて嘘かもしれない。嘘じゃなくても、バックに怖い男が付いていて、恐喝されるかもしれない。
それでも1人の女性をたのしませている優越感、背徳心からの掻き立てられる興奮、味わったことのない高揚感、彼は足取りを止めることはできなかった。
お互いの顔さえ見ずに待ち合わせした2人は、ぎこちなく映画館に入った。手をつなぐことはなかった。映画の内容に多少のツッコミを入れつつも、お互いの顔もあまり見ずに、映画はハッピーエンドを迎えた。
お互いが上の空のまま、たわいもない話をしながらパフェを食べて、空が赤から紫に変わった頃、2人はもう駅にいた。
カヨは帰ることを拒んだ。
しかし、智は初めて手を繋いで、さっとおでこにキスをして、
「また会おう」
と言った。