澄清の暁
寝付けないまま空が明るくなっていくのが感じられた。
智は着込んで外に出た。
土曜の朝。
長らく吸わなかった煙草に興味が出て、吸ったことのない煙草を買って、公園でふかしてみた。
思いのほか、それは不味かった。
鳥達がまだ暗く、星の見える空の中を、太陽に向かって飛んでいくのが見えた。
葉が落ち切った木々の上に休んでいた鳥達も、やがて皆おなじように東に向かって飛んでいった。
るかにメールをした。
「今日休みだからさ、スーパーに買い出しくらいは行こうと思うんだけど、希望があったら教えてくれる?その結婚式はどうだった?あれ?まだ今日これからとか?」
あまりに多くメールを送り、演じ疲れたせいか、ともみんという「姿かたちのない空っぽの女」から離れたい自分と、マメで優しくて、しかも性に寛容な「理想的な女性」から離れたくない自分がいた。
男だったものが、性同一性障害やその他の事情で女性になることを決意し、姿かたちをどこまで変えたかは別として、男心をわかったまま女になると、男性にとっての理想的な女性になれる。智は、そんな話を聞いたことがあった。
智は、女に見えるような外見はなにひとつ持っていなかったが、ここ数日で、一本筋の通った揺るぎない女の人格を形成していた。
自転車をこぐ新聞配達員も、ランニングする中年男性も、コーヒーを買いに出てきた青年も、公園で背中を丸めて眠るホームレスも、いつも何とも思わないオトコ達に、なにか女性として、彼らが笑顔になりそうなこと、なにか優しさをかけてあげたい気がしてならなかった。
智は少し考えてから、ホームレスが眠る段ボールの家の前に置かれた紙コップに、小銭を何枚か入れて、公園をあとにした。
それくらいしかできない自分が、少し歯痒かった。
その時、空はもう青く、星たちは消えていた。




