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拒否した男

 一人、男の声に拒否した者、八神アキラは会議室のような場所にいた。

 アキラはその場所に覚えがあった。


「夢落ち……という事はないよな」


 そこは生前アキラが勤めていた会社の会議室だった。


「あぁ、それはきれいな落ちにはなるけど劇的ではないね」


 アキラの自問に対してどこからともなく先ほどの男の声が響いてくる。

 それは特に意外なことでもないのかアキラは来ていたスーツの内側からタバコとライターを取り出して声を上げる。


「ここ禁煙だっけか? 」


「くくく、いや別にかまわないさ。

僕の話を聞いてもらえるならね」


「聞くだけなら」


 謎の声に動じる様子もなく、ひたすら我を行くアキラに対して男の声は不快感を示すでもなく愉快そうに話を進めていた。


「それでさっきはどこまで話したっけ」


「世界がどうたら」


「あぁそうそう、最近世界を管理しているものの中に勝手に転生だのトリップだのをさせて困っていてね。

その対処に追われているんだよ。

そこで考えたのが輪廻からあぶれた者達を利用する方法さ」


「それも転生だのトリップだのと変わらないだろ」


「警察や軍人が銃を持てるのと同じ理由さ。

もっというなら正当防衛とかに近いかもね。

例外というものだよ。

投入できる数に限りがある上にその能力も限定的だけどね」


「意味ないだろそれ」


「意味は関係ないんだよ。

行動しましたという結果が大切なんであってね。

ほら、犯罪者を野放しにしたのと行動したけど結果は出ませんでしたというのでは感じ方も違うでしょう」


 アキラはなるほどな、と一言つぶやいてから紫煙を吐き出す。

 それからしばらくはタバコの煙を目で追い、一言切り出した。


「それで、俺はいい加減につかれたんで悠久の時間とやらを寝て過ごしたいんだが」


「残念ながらそうはいかないよ。

あの教室は自己を保てる人間を探すための試験でね、君みたいな自分のために生きられる人を探していたんだよ。

まぁまさかそれが過労死するような人間だとは思わなかったけれど」


 アキラの死因は過労死だった。

 生前はプログラム関連の仕事についていたアキラだったが、趣味と仕事の両立のために体調管理を疎かにしてしまったが故の過労死だった。


「仕事は好きだったからな。

自分の行動が形になる、なかなかに面白かった。

だからと言って趣味を疎かにするのは気が済まない。

だから削れる時間を削っただけの事だ」


 アキラが削ったのは睡眠時間だった。

 また食事の時間も削り、仕事と趣味の片手間に食べ物をつまむような生活をしていた。

 その挙句の喫煙者、つまりは体調を崩してしかるべきということだ。


「なるほどね、自分に正直に生きたがための過労死か。

おもしろいね。

そんな君に朗報だ、これから君が行く世界というのはだね」


「断る」


「だから君にその資格はないんだって、死刑囚が死にたいからって処刑を免除できるわけないだろう?

大丈夫、これから君が行く世界は君にとっての天国だ。

僕が保証する」


 男の声は、いつしか虚空からではなく目の前に置かれた椅子から発せられていた。

 正確にいうなれば椅子に腰かけた妙齢の男から発せられるようになっていた。

 

「死刑囚ね……まあいいけど」


「話を戻して君の行く世界というのはまだ生まれて間もない世界だよ。

大体2000年くらいかな。

とはいえ文明はある程度発展していてね。

少なくとも風呂やシャワー、水洗トイレや水道は完備されているよ。

空調なんかは用途によっては有るけどまだ一般的ではない感じかな。

あと科学技術より魔法技術が発展しているね。

そのおかげで兵器の発展はだいぶ違うけれどその辺りは追々話していこうか」


「魔法……大体予想はつくけどな」


「その予想は大まかには合っているよ。

さて今回の問題はだ、その世界は生まれて間もないが故に僕達みたいな観察者にとっては注目の的なんだ。

それ故に適当に転生者やトリップが多くなっていてね。

普通に転生させるだけなら問題ないんだけれど、たまに自分の不手際で死んだ人を送り込んだり、娯楽のために魔王みたいなのを送り込んだりする輩が多いのなんの。

その大半は逮捕して、問題の転生した人達は適切な処置を施したけれどまだ何人か持て余していてね。

僕たちみたいに外側から同行するには限度があるんだ。

そこで君みたいなのをこちらも送り込んで内側から対処しようという事になったわけだ」


 アキラはその言葉を聞きながら二本目の煙草に火をつける。

 それから呟くように疑問の言葉を発した。


「それ問題解決してないよな」


 男、仮に管理者とでも呼んでおこうか。

 彼らの方法は体内に入りこんだ異物を排除するために別の異物を埋め込むという方法だ。

 しかし彼らの考えでは管理できていない異物よりも管理下にある異物のほうが良いと考えているのだろう。

 

「だから行動しましたという事実があればいいんだよ。

世界の一つや二つ、どころか1000個くらい消えたところで問題はないからね。

というよりは最近では無断転生などを防ぐために全ての世界に僕たちの息のかかった手駒を配置しようという風習が強いよ。

成功例も多く、失敗しても世界が滅びるだけ。

しかもこちらから手心を加えておけば世界が滅びても手駒だけは無事回収なんてこともできるからね」


「ということは……自己のある存在を求めたのはおかしくないか? 」


 自己がある、それはつまり自由意志の強い存在という事だ。

 早い話が我の強い人間という事になるだろう。


「そのあたりの選定基準は人それぞれという事さ。

僕なんかは自己があることを重要視しているけれど、ほかの人なんかはあんなテストは行わずにくじ引きで決める奴もいるくらいだからね。

そもそも何かある度に現場の判断で動いてもらうつもりだから人形じゃ応用が利かないからね。

だからこその自由意志さ」


「そうかい」


「うん、それで君にやってもらうことなんだけれどね」


 男はそこで言葉を区切り、そして紫煙を燻らせるアキラに向き直り言い放った。


「神様になってほしいんだ」

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