隣の君
今回は少しコメディ要素があります。雰囲気壊してしまったらすみません。
木曜日の一時間目、一週間の10080分の中で君を近くに感じられるのは、この50分だけ。
緊張した胸がせかす様に高鳴る。
だから、もう少し…。
無情にも、授業終了の鐘が鳴る。わらわらと群れる友達集団の隙間を縫いながら君はまた嫌悪感むき出しにして、1人で教室を出て行った。僕はまた君と話す機会を失ってしまったわけで。
窓の外から僕の事を嘲笑うように蝉の声が聞こえる。
君を追いかけようとした中腰のまま、夏の到来を実感する事しか出来なかった。
君とは一年の頃に知り合ったんだ。知り合ったというか顔を見た。君が初めて僕の隣に座った時、なんて綺麗なんだろうって、思わず見とれてしまった。君の全てが僕の網膜の裏に焼き付いて消えなかった。
もちろん君の事を知りたくて、話しかけたりもした。
「あ、あの…。」
「何?」
君がこちらを向いて目が合った瞬間、心臓がとまったように感じられ、その後破裂してもおかしくないくらいに高鳴りだした。
正直なところ、君に聞きたい事はたくさんあった。でも、実際は…
「あ、えぇと。い、いい天気ですね。ハハッ。」
絶対おかしい奴だと思われた……。
先ほどの嫌悪感はきっとほとんど僕に対してですよね…。
しょうがない、僕でも初対面であんな事を言われたらドン引くレベルだ。しかし言ってしまった事は変わらない。今更どうしろというのだ。
残念ながら僕には恋の悩みを相談できるような友達もいないので自分で解決するしかないのだ。その事は痛いくらい理解しているつもりだ。そして、その事についての自問自答を繰り返した挙句たどり着いたのが「唯一隣の席になれる木曜一時間目の音楽のときにとりあえず距離を縮めよう!」というどうしようもないくらい初歩的なものだった。しかも音楽の時間、君は必ずと言っていいほどつまらなさそうに机に突っ伏しているのだ。距離の縮めようがない。これほどまで自分に落胆した事があっただろうか。
「ねぇ。」
自分の世界に浸っていると、いつの間にやら君が目の前に立っていて、ひどくぶっきらぼうに声をかけた。案の定僕の心拍数は急上昇を見せた。
「な、ななに…?」
口を動かそうとするが痙攣を起したように上手く喋れない。心臓はもう引きちぎれるのではないかと心配になるほど脈打っている。君が話しかけてくれるなんて、さすがに予想外で僕はもうしどろもどろ。先程の「とりあえず距離を縮めよう!」などと言っていた脳内作戦はどこへ行ったのだろうか。
このままでは、更に引かれてしまうだけではないか。しかし脳が思うようなパフォーマンスを見せてくれず、自ら変人の道をたどっていた。
「好きです。付き合ってください。」
それが君の口から出た言葉だと理解するには数秒はかかった。恥ずかしすぎて目を合わせていなかった所為もあるが、何より信じられなかったのだ。
君の声が割と大きな声だった事もあり、教室中の目線が僕と君に集中した。……いや、そんな事はどうでもいい。君の顔が徐々に赤くなっていく。あぁ、おそらく僕も同じような事になっているのだろう。
真剣な君の言葉を僕はクソ真面目に答える事しか出来なかった。だって言う事は決まっていたから。
「はい。」
次回はこれの女の子目線の話を書こうかと思っています。