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4ページ目~一枚の記憶のピース

とうとう学校祭当日、俺は今日、特別なゲストを連れて学校にむかっていた。…あれから一度、主治医の先生と話をしてOKが出たので葵を連れてきたのだ。クラスの皆も会いたがっているし、葵たっての希望でもあるから…


「…キツそうならすぐ言ってくれよ?母さんたちも心配しちゃうからな」


「うん…。…楽しみだね…?」


「…そうだな」


お弁当を持ってきてくれた日以来、葵は学校には来ていない。…何か思い出せるだろうか…




「葵ちゃん、お帰り!」


「「おかえりー!」」


「…あ、ありが、と?」


教室につくなりクラスメートに祝福される葵。皆、たとえ忘れられても信じてくれている。…良かったな、葵


「おーい、皆席につけ。…今日から二日間学校祭だ。そこで川原も一時的ながらクラスに帰ってくることとなった。皆、良い思い出作るんだぞ」


「「はーい」」


クラスに葵が戻って来た。…今の所、葵に変化は見られない。物珍しそうに辺りを見回してるくらいか…


「ユウ君」


「?…どうした、真実」


真実が俺に声をかけていた。その顔はどうやら雑談では無さそうだが…


「葵ちゃん、元気だね?」


「…少し静かになったが、まぁ大体はな。だけど記憶はまるでダメだ」


「それは仕方ないよ。…でもわたし、それが少し心配だな」


「…心配?」


「勇樹君。葵ちゃんは皆の事を覚えていないの。勇樹君の事は少しは覚えてるかも知れないけどね。と言うことは、ここでは君だけが頼りなんだよ?」


「…言われなくても分かってるさ」


「その意気だよ、勇樹君」


そして俺たちの学校祭が始まった…




「よし、お前ら準備は良いかぁ!?」


「「うぉっしゃぁ!」」


「行くぞぉぉ!!」


「「おぅぅっす!!」」


「…あれ、何してるの…?」


「葵、気にしちゃダメだ、あれはあいつらにしか分からない」


「…ふぅん…?」


とりあえず俺と葵は出店を見て回ることにした。…なんか葵、ラグビー部の作ってるお好み焼きがすごく気になってるらしい。…なんであんなに気合い入ってるんだよ…


「…でも…何か、食べたいな…?」


「う…じゃあ別の店にしような?」


「…うん…」


とりあえず葵の希望で何かを買おうと物色する。…あ、あそこの出店…


「と…松田先輩!」


「お、浅井…に、川原か?はるばるようこそ、だな」


「…ご無沙汰、してます」


ここは3年の出店だ。今は先輩の当番らしく何かを作っている。…クレープかな?


「先輩、チョコとイチゴを1つずつ」


「おうよ。お前たちなら半額で作ってやるからな」


「…え…悪いですよ…」


「遠慮するな、川原。もう知らぬ仲でもあるまい」


「…えへへ…なら、お言葉に甘えて…」


そしてすぐに二つのクレープが作られ手渡される。…うん、うまいな


「…おいしい…」


「うむ、そう言ってくれるならありがたいな」


「…あれ?」


すると校門に黒塗りの高級車が停まり、女子が降りてきた。…あの子、どこかで…


「…勇樹君?」


「え?あ…いや、何でもない」


…どこであったんだったかな…


「…ま、良いか。…じゃ、先輩、失礼します」


「おぅ。良かったら後でステージにも来たら良い。今年は面白い奴にも来てもらったからな」


「…面白い奴、ですか?」


「ま、来てからのお楽しみって奴だ。…いらっしゃいっ!」


そこで再び客が集まりだした。…俺らは葵と共にその場を離れた…




「…にしても、どこも似たようなものを出してるよな」


「…それが、お祭り…」


「葵は満喫してるよな~」


「…私には、何でも珍しく見えるから…」


最近の葵は自分の記憶がないことを少しずつ割りきり始めている。記憶が戻りそうな時の症状も見せてないと言うことは、最近はめっきり思い出せないんだろうか…


「…そういえば、先輩が言ってたステージの時間か…」


壁の時計に目をやると、さっき先輩が言っていた時間になっていた


「…葵、ステージに行ってみるか?なんかおもしろいことが観れるかもしれないしな」


「…うん」


とりあえず葵を連れてそのステージに向かうことにした。…いったい誰が…


「…とりあえずついたか。良いか、葵。大分騒がしいと思うからはぐれるなよ?」


「…う、うん…」


葵は控えめに俺の服の裾を掴んだ。…体育館への扉を開くと、そこでは…


「ハァ~イ、皆!次も燃えていくよー!!合言葉ちょうだい!」


「「ボンバァァー!!」」


「な、何だぁ…?」


そこではライブのようなものが行われていた。そのステージに立っているのは…


「…谷野サヤ、か?」


最近人気急上昇中のアイドル、谷野サヤ。そんな彼女がステージの上に…?


―「面白い奴にも来てもらった」―


「あ!まさか…」


先輩が言ってた人物はどうやらこの人らしい。…どんな人脈…って…


「…そういえば、彼女、どこかであったような…」


そうこう考えていると服の裾が少しきつく引っ張られた。…周りの騒がしさに葵が怯えてしまったようだ。俺はとりあえず彼女の頭に手を置く


「…つらいか?別のところに行った方がいいか?」


「…でも…皆、楽しそう…」


「まぁ、今人気急上昇の売れっ子アイドルが目の前に居るからな、騒ぎたくもなるだろ」


「…そう、かな?私知らない…」


「ま、出たしたのは最近だし、お前は興味無いだろうな」


ライブは曲も終わり、どうやら休憩に入ったようで現在はトークを行っている。そこで俺は先程から気のせいかも知れないが、その谷野サヤから視線を向けられてる気がした。体育館を埋め尽くす人数から俺を見つけ出すのは難しいとは思うが…


「さて、では私のライブ恒例のプレゼント投擲をやるよー!」


「「おぉぉー!」」


どうやらサヤのライブでは観客席にプレゼントを投げ込むことが恒例行事らしい。…まるでもちまきみたいだ


「約束は1つだけ!その場から動かないこと、だよ!守れる?」


「「バーニィィン!」」


どうやら事故を防ぐ為にそれに向かって取りに行くのは禁止らしい。考えたが…客がそれに素直に従うのか?


「…取れたら…いいね?」


「ん?まぁ…飛んでは来ないだろ、そう出来てるからな」


俺たちのいる位置は入り口近く、ステージとは正反対の位置になる。ここまで投げるとなると、かなりの距離がある。…女子がここまで投げるのは苦しいだろうな


「じゃあ、まずは…1個目ー!」


まず1個目、体育館の左側に投げられる


「次は…2個目ー!」


2個目は右側に投げられる


「3個目と4個目、一気にそれー!」


3個目と4個目はステージ近くに投げられる。物を見る限り、次がラスト…か


「…なにが入ってるんだろうね?」


「そうだな…多分メッセージカードと、なんかアクセサリなんじゃないか?」


「…ありそう…」


葵はこの光景を見て楽しんで居るようだ、さっきから肩の力が抜けてきたように見える


「じゃあ…最後…そーれっ!!」


そして最後のプレゼントが投げられる。それは大きな弧を描き、ゆっくり近づいて…ぇぇ!?


「ぅがっ!?」


「…あ、わわ…」


見事俺のおでこにヒットし、跳ねたそれを葵が見事キャッチした。…まさか、俺たちの所に投げるとは…


「…ん?」


気のせいか…今おでこを押さえながらステージに目を向けると、サヤはステージに入る間際にこっちに向かってピースサインをしたような…?


「…勇樹、君。開けて…いいかな?」


葵が持ってたそれは四角い箱だった


「じゃあ教室にでも行くか。ここじゃ落ち着けないだろ?」


俺がそう葵に促す。今サヤが再びステージに登り、ライブが再開されていた。…この騒がしさの中では落ち着けないだろう


「…うん、分かった…」


葵はそれを受け入れ、俺と一緒に教室に足を運んだ…




「…さて、開けてみな?」


俺と葵は祭りの喧騒を抜け教室にたどり着いた。うちのクラスは外に出店を構えているため今教室には俺たちしかいないのだ


「…いいの?勇樹君に当たったのに…」


「良いんだ、キャッチしたのは葵だからな」


「…じゃ、じゃあ…」


葵は遠慮がちに箱の包みを解き、蓋を開けた。中には…


「…?」


中にはメッセージカードのみが入っていた。…ショボいな~…


「何て書いてある?」


とりあえず文章を葵に読んでもらう。そこには…


「…1日目終了後、屋上で待つって…?」


「…屋上?」


この言葉の意味が分からない。手に入れた人たちに何かそこでサプライズが…


「…まだ少し時間あるね…?」


「そうだな…もう少し観て回るか?」


「…うん」


俺たちはとりあえずその時間になるまで適当に出店を観て回ることにした。そして1日目終了後、俺たちは屋上に向かった…




「…いいか、開けるぞ?」


「…うん」


俺たちは屋上に続く扉の前に立っていた。本来なら居そうなSP的な存在が近くには居なかったのを見ると、まさか入れ違ったか…という不安にかられながら、扉を開ける。そこには…谷野サヤ本人が居た


「あ、ちゃんと読んでくれたんだね、良かったよ~」


「…本物…?」


葵が少し輝いた目でサヤを見ていた。サヤは一度葵に目を向けると、前に進み出た、そして…


「…待ってたよ、浅井君、川原さん」


「…?」


サヤは笑顔で俺たちを迎えてくれたが、俺は少し引っ掛かりを覚えた。…何で俺の名を


「…やっぱり、お前は…」


「うん、浅井君の推測通り。…谷野サヤ改め、紫谷野沙亜弥だよ。お久しぶり」


「…どうりで見たことがあると思ったよ。あの時初対面の筈なのに」


「ふふっ。やっぱり気付いてたか~、まぁ別に隠してないんだけどね~」


「…勇樹君、知り合い…?」


そんな会話に葵が不審がっている。そういえばこの話、葵にしてなかったな


「前に一度あっててな、実はクラスは違うが同級生なんだぞ?」


「…身近なアイドルさん?」


「そうだね~、まぁ皆気付いてないけど」


「よく気付かれないな」


「まぁ、まだ駆け出しだしー」


「…で、何で俺たちをここに?」


少し予想とは違って、どうやら俺たち以外に人は居ない。…何で俺たちだけ?


「あぁ、それはねー…はい、これ」


俺の問いに沙亜弥は一枚の写真と手紙を手渡してきた。…写真には…


「…うちのクラスの集合写真?」


それは去年撮影された1組2組合同の集合写真だった。この写真は卒業アルバムにのせられる為基本販売はされない。…そこには葵と俺と沙亜弥が写っていた。そして手紙には…


「…!!」


「…え…?」


俺は言葉を失い、葵の手は震えていた。…



『お帰り、葵!!たとえ覚えて無くても、皆は葵の友達さ!! 2年1、2組一同』


「…川原さん。私たち…待ってるからね?」


「……」


気付いたら葵は目から涙が…涙…?


「…葵、お前、記憶が…?」


「…ううん…でも…忘れちゃいけないの…。思い出せないのに…すごく温かいのが、胸に…つらいよ…」


「川原さんは、大丈夫、皆が信じてるから。だから今を…しっかり生きてね?」


「…?」


葵が泣いてるのをなだめる中、沙亜弥は少し引っ掛かる発言を残した。…皆が、信じてる…?


「…勇樹君…私…」


「あ、あぁ…大丈夫さ、皆待っててくれる、だから焦るなよ?」


「…うん…」


こうして1日目は幕を閉じた。ただ俺の中には少し気になるものが胸でモヤモヤしてしまっている。…紫谷野沙亜弥は、あの事件について何かを知っているかもしれない、と…



―よし、皆…いか?…撮るぞー―


―優、もうちょ……くにき…―


―もうこ…だけ近くに……だからむ……って―


―……ら……すれ……いよね―


―った………かしいっ……に―



何かが見えた気がした


沢山の人


賑やかな時


でも次第にやはりぼやけてきた


見えなくなった


私は…


このまま何も思い出せないの?


勇樹君の事も


皆の事も…

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