3ページ目~パズルのピース
「…え、いいんですか?」
「構わん。学校祭は各クラスから数名実行委員も出るから人手は足りる。それに非公認の役員をコキ使うと私が怒られる」
学校祭が一ヶ月前に迫った今日、俺は…クビを言い渡された。と言うのも一応俺は会長があくまで容認した代理で、学校祭など大きな行事になると代理というのは認められないらしい
「じゃあ今日からしばらくの間は来なくて良いぞ。勉学に励みたまえ」
「…しばらくってどういう事ですか?」
「ん?まぁあくまで人手が集まるのは学校祭期間だけだからな。それが終われば再び手が足りなくなる。副会長代理の君に出てもらうのは私の希望なのだが」
さも当たり前のように十和田先輩が言う。この人は結構人望が薄いからか、数少ない人脈はこれでもかと使いまくる。…まぁ、恩を返す意味で俺は首を縦に振って了解し、部屋を後にする。…葵がいれば、もう少し先輩も楽になるのだろうか…
「…学校祭…?」
「そうだ。まぁまだ1ヶ月後だから内容とかは全く決まってないけどな」
「…お祭り…」
その日の夜、俺は葵の部屋で学校祭の話をしていた。…少し前に、彼女は何かを思いだしかけていた。だが結局は思い出せず、精神が不安定になってあれから外出出来ていない。本当なら葵と出店を観て回りたいが、彼女はそれを許すかどうか…
「…それなのに、勇樹君はお仕事に呼ばれなくなったの?」
「仕方ないさ、俺はあくまでお手伝いみたいなものだったからな」
「…ふ~ん…」
葵は少し何かを考えるように口に手を当てていた。…なにを考えているのかは分からないが…
「…来たいか?学校祭」
「…うん…」
葵は現在休学中で一応学生ではあるが、何が起きてしまうと大変だ。…葵の母さんに相談してみるか
「そうだ、母さん帰って来ないけどどうかしたのか?」
「…今日はお仕事が遅くなるかもって言ってたから…それかも」
「…まじか」
そういや最近不安定ながらもやっと葵が回復してきたので母さんも仕事に復帰したらしい。…となると、家には葵一人か…
「…帰っちゃうの?」
「…あ~…」
やはり聞かれてしまった。…こうなると帰るって言ったらついてきそうだな…
「…」
葵は俺の顔をじっと見つめている。…
「…仕方ないな…一緒には寝ないからな」
「…うん…ありがと」
俺はひとつ念押しして泊まることを承諾した。…泊まりは前にもあったのだが、少し前の泊まりの時に俺が寝てた布団に忍び込んできた時があった。…年頃の男子には物凄い精神をすり減らされる出来事だったな…
「…勇樹君?」
「…んぁ…あれ…?」
いつのまにか俺は寝ていたらしい、葵は俺の布団の近くで俺を起こしてくれた。…あれ、でも今日は確か日曜日だったような
「…電話、来てるよ?」
「電話?」
葵は俺に自分の携帯を差し出してきた。かけてきたのは…葵の母さん?母さんが俺に何の用事が…
「…もしもし、かわりました」
『あ、勇君?もしかして昨日は葵と一緒に居てくれたの?』
「あ、はい、まぁ…。そういえば帰ってきてないんですか?」
『そうなの~。それで勇君に1つお願いがあって~』
「何でしょう?」
『最近葵、外に出てないでしょう?だからどっかに連れていってあげてほしいの。良いかな~?』
「俺は別に大丈夫ですけど…」
『あ、お金なら後でキチンと払うから、いろんな所に連れていってあげてね?』
「…お金なら俺もしっかり持ってるんで気にしないで下さい」
昔から良く俺と葵は外で遊んでいた。その時に葵の母さんはよく俺にも小遣いを持たせようとしていた。本当に息子同然なんだな、俺
『でも…』
「遊びに行くだけですから、そんなにかからないですよ。…では、仕事頑張ってください」
『よろしくねー?』
…親公認で外出か…
「…なんだったの?」
「いや。それより葵、支度しな。…遊びに行くぞ」
「…?う、うん…」
「さて、どうする?」
「…ん~…」
やって来たのは近くの喫茶店。俺は葵にメニューを見せて注文が決まるのを待っている。俺と葵はよくここでパフェやらケーキやらを食べて時間を潰していたことがあった。最近は来る事は無かったが、どうせなら、と言う事でここにしたのだ
「…イチゴパフェ…」
「おぅ。…すいませーん」
俺は慣れた感じで店員に注文をする。そしてすぐに二人が頼んだものが運ばれてきた。葵はイチゴパフェ、俺はチョコレートケーキだ。…小さいときはよく半分ずつ交換して食べていた物だ
「…わあぁ…」
葵は目を輝かせてパフェを見る。こいつは甘いものには目がないからな
「葵、食べようか」
「…うん、いただきます」
そして二人とも食べ始める。…うん、いい感じの甘さだ
「…あ…」
だがここで異変が起きた。葵が何度かパフェを口に運んでいたが…今は手が止まってしまっている。目線はどこか遠くを見ているような…
「…葵?」
「…パフェ…ケーキ…半分こ……何、これ…?」
葵がうわ言の様に言葉を並べている。ただ、1つ気になる単語があった。…半分こって…まさか…?
「…葵、これ、食べるか?」
「……」
葵は虚ろな目でうつむき、何も答えようとしない。…まずい気がする
「…私…わたし…わ…」
すると急に葵の目から涙が流れ始めた。持っていたスプーンを落とし、肩を抱いて震え始めた
「あ、葵っ!しっかりしろ!」
「また、また来る…また…もやもやした…」
「っ…!!」
周りがざわめく。女の子が泣いているのだ、気にはなるだろう。だが、ここで目立ったら葵はっ…!
「浅井っ!!」
「!?」
するとそこに再びあの時と同じように…十和田先輩が現れた。十和田先輩は急いで俺たちの手を引くと、店から出してくれた
「その車に乗るんだ、早く!!」
「は、はい!…行くぞ、葵!」
「……ぁ…え…?」
俺はうまく歩けない葵を抱き抱えて車に乗り込み、その場を離れた
「…すいません、先輩」
「いや、良い。たまたま家の車で帰宅途中だったのだ」
「…本が、いっぱい…?」
葵は珍しそうに部屋の本を物色している。…あの後俺たちは喫茶店を出て、十和田家に身を寄せていた。…たまたま十和田先輩が来てくれて助かった。いまでは葵も落ち着いている。…そして俺は事の次第を先輩に説明した。先輩は少し難しい顔をしている
「…記憶が戻りそうなときに起こる症状、か」
「…はい、どうももやがかかって四方八方見えない不安…みたいですね」
「…」
先輩は葵を一瞥して、再び俺を見る。その目は少し悲しそうだった
「…そうか」
「?え、何が…」
「とにかく、送ろう。いつまでもここに居るわけにはいかないだろう」
「…よろしくお願いします」
そして夕方、俺と葵は十和田家の車で家に帰って来た。そして今は俺の家で休んで居る。葵は疲れたのか、俺の毛布にくるまって寝ていた。…どうやら、記憶はやはり思い出せなかったらしい。何かが霞んで、過去の記憶が見えないようだ。断片的に、点は見えているようだけど…弱ったな、これじゃあ学校祭に呼ぶのは難しいかも知れないな。何かの表紙でまた点ばかりが見えてしまったら…葵には負担になってしまう。そう思うと胸が痛んだ
「…」
またその頃、十和田雫は部屋のベッドに横になり、考え事をしていた。…自分が選んだ副会長は、おぼろ気ながら何かを覚えている。だがそれは形にならない。…松田雫と言う女子生徒の事も恐らく覚えては居ないのだろう、そう思うと寂しくてならなかった
「…私は、もう彼女の友人では…無いのだな」
十和田は、自分が理事長の娘だと言うのを疎んでいる。それで校内では松田という姓で生活をしている。…ただ、その松田が十和田だと知れたら恐らく孤独になってしまう。…松田でも十分孤独ではあるが、きっと皆、私に利害目的でしか接触してこなくなる。…川原は、その中でも特に大事な女子だったのだ
「…浅井も…」
そして浅井勇樹もその一人だった。彼はたまたま校長室に居た私とお父さんの会話を聞いていたらしく、それを最近聞かされた。…その彼は今、川原しか見ていない。…私には義理のみで付き合っているのだろうか。そう思うと、いっぺんに二人の友を失った気分になっているのだった…
―……うき、それ……だい―
―…仕方……な、そっ……も……くれよ―
―……った…よ、はい、はんぶんこ……よ―
霧がかかってよく見えないばらばらになったパズルのピース
手を伸ばしてかき集めようとしてる
でも
届かないよ
誰か
助けて
この霧がかかった、バラバラな絵を
もう一度、きれいに…