2ページ目~微かに動く人達
「…失礼します」
「お、よく来たな浅井!今日は学校征服の為、会議をするぞ!」
「…帰っても良いですかね」
「む、それは困る。この後少し作業があるのだが、それを手伝ってもらうつもりなのだが」
「…帰す気無しですね。というよりそうならそうと行ってください。征服とかなんとかと言わずに…」
「それもそうか、すまんな!とにかく今日は諸作業を片付ける!浅井、一日よろしく頼むぞ!」
「分かりました」
今日は生徒会での手伝いの日、生徒会室には俺と会長の松田雫先輩と一緒だ。この人は常に明朗快活、皆の姉貴的存在だ
「…ん、どうした浅井、何か分からない事でもあったか?」
「…いえ…」
…この生徒会は、雫先輩と葵の二人だけの生徒会だ。それがあの事件により葵が居なくなり、一人で最近まで支えていたらしい。…聞いた話だと、雫先輩は快活ではあるが独裁的だとイマイチ評価は高くない。自分と葵以外にに役員が居ないのもそのあらわれなのか…?
「…出来ました」
「お、すまんな。じゃあ次はこの書類に判子を押していってくれ」
「了解です」
…葵から取り巻きを遠ざけてくれたのは、間違いなくこの人…そんな人がそんなだとは思えないよな…
「…そういえば、浅井」
「…なんでしょう?」
「川原は元気か?」
「…えぇ、記憶がない以外は健康ですよ。…まぁ、一番問題はそこなんですけど…」
「余計なお世話かも知れないが、あまりお前が気を使ったらいけないと思うぞ?川原は右も左も分からないんだ、心を痛めやすいだろうからな」
「ありがとうございます。葵の心配をしていただいて。出来ればここに連れてきたいんですが…」
「いや、無理しないほうがいい。私の事も覚えてはいないのだろう?」
「…」
あれから何度か覚えてる事、思い出した事を聞いたのだが…まだ何も思い出せて居ないらしい。おぼろげに引っ掛かる所もあるらしいのだが…
「それならまだ私に会う機会ではないだろう。かえって罪悪感を覚えてしまいかねない」
「…すいません」
「なっはっはっは!!君が謝ることは無いだろう!?今生の別れでも無いのだ。前に電話でも言ったが、私は諦めないぞ、川原とこの学校を征服するという夢をな!」
「…記憶が無い内は葵に会わせるべきじゃないですね」
「何故だ、少しは君も協力してくれても良いだろう?」
「絶対にイヤです」
…葵と先輩は接触させるべきでは無いと改めて感じさせられた。今の葵は真っ白なノートみたいなもの、それにアホみたいな事に描かせるわけには行かない…
「…やっと着いたか。今日は少し遅くなっちまったか」
生徒会活動も終わり、帰路。早々に松田先輩と別れた俺は足早に家に着いた。辺りはもう暗い。…しばらく振りに葵と会わない一日になったな
「…今日は適当に温めて食べるか…」
そして家の前にたどり着くと…驚いて目を見開いた
「…へ!?」
「うぅ…」
…俺の家の玄関前で体育座りをしている女性が居た。歳は俺と同じくらい、少し色が抜けたような髪が肩にかかってて、全体的に大人な感じな人だ。…ただ、覇気が無い。目は虚でこっちを向いてはいるけど、見えてるのかどうか…
「…あ、あの~…」
「…ここの、家の、人…?」
「え?あ、はい。そうですけど」
「…お願い…何か…」
「…何でしょう」
女性がかなり弱った顔で言葉を繋ぐ。…困ってるみたいだし、ここは助けてあげるのが筋か
「…ご飯を…食べさせてください…」
「…へ??」
「いや~、ごめんね?気付いたらお金無くなってるし、携帯も持ってないし…それで行き倒れみたいになっちゃったの」
「…ま、ちょうどよかったですよ、俺も晩御飯まだでしたし、今日は余裕もありましたし…」
ひょんな事から行き倒れ(?)の女性とご飯を共にすることになった。…お腹が空いてただけらしい。まぁ、怪我とかしただけじゃなかったから良かったけど…この時間に何も持たずに外出って…
「…」
食事が終わると、とりあえず彼女を居間に座らせお茶を飲んでもらっている。…とりあえず、経緯を聞くことにする
「…ええと…あなたの名前は?」
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は紫谷野 沙亜弥。十和田高の2年だよ」
「え?2年…?」
2年となると同学年と言うことになる。…ただ、そんな名前の子は聞いたことは無いような…
「無理は無いかもね、最近は休みがちだったし」
「そうですか…」
まぁ、今家の前で行き倒れたりするくらいだ、中々いけないのだろう。家庭の事情か…
「あ、そんな考えなくても良いよ?一応生きていけてるし」
「でも…目の下の隈、酷いですよ」
「え?…あららら、大分浮き出ちゃってる」
鏡を見た自分を見て驚く沙亜弥さん。…それくらい切羽詰まってるのか?
「…今日、これからどうするんですか?」
「ん~?まぁおかげお腹も一杯になったし、お家に帰ろうかなぁって」
「…家にたどり着けなかったんですか」
「いやー、ちょっと色々あってね~。ま、もう平気だから♪」
見た目はボロボロだが、ニカッと笑う顔は何か様になっていた。…あれ?そういえばこの顔、どこかで…
「じゃ、これで私は失礼するね。またいつか、お礼させてもらうから」
「あ…」
俺がその答えにたどり着く前に沙亜弥さんは去ってしまった。…どこかで会ったような…そんな気がした
「勇樹君、今日は学食~?」
「あぁ、行くか?」
「そだねー」
その次の日、俺は普通に登校してお昼、真実と共に学食でごはんを食べていた。俺はラーメンをすすりながら、昨日の人物の話をしてみる
「なぁ、俺らの学年に紫谷野って女子居るのか?」
「ん?そんなこと急にどうしたの?」
「いや、昨日ちょっとな。…で、居るのか?」
「ん~…となりのクラスに一人、休みがちの子がいるって聞いたことはあるけど…むしろ会長とかの方が詳しいような気がするんだけど…」
「そうか…ま、それだけ分かれば良いかな、サンキュー」
「…私さー、思うんだよねー」
その話が終わると、真実が何か言いたそうにする。…何を思ったのか…?
「最近勇樹君の周りって女子だらけだよね~」
「女子だらけって…そんなにいないだろ」
「居るよ~、葵ちゃんに松田先輩、私にその紫谷野さん…だっけ。男子居ないじゃん」
「…そういわれたら…確かにそうだけど、ちゃんと男子の友人も居るからな?」
一応違うクラスに三吉 友晴と言う名の友人が居る。だが最近は葵やら生徒会やらで全然話してない。…そろそろまた遊びに行きたいな
「ま、良いけどさぁ…時々私とも絡んでよ?最近暇なんだよ~」
「あぁ、また近々な」
…時々、こいつとも遊んでやらなきゃな
「…おかえり」
「!?」
そしてその日の夕方、家に帰宅すると、居るはずのない人物…葵が居た。…パジャマ姿で
「…なんでお前が…?」
「…窓開いてたから、なんとなく楽しそうだから…潜入してみた…よ」
「潜入って…どこでそんな事覚えたんだよ…」
「…あのね…?」
急に葵の表情が沈む。…寂しかった訳では無さそうだけど…
「…そんな、気がしたの。前のわたしが、そんな事をしてた様な気が…」
「…!?お前、記憶が…!?」
「…でも、ぼやけてるの…よく分からないの…怖いの…」
どうやら少しずつながら記憶が戻って来ているようだが…中途半端になってるがゆえに恐怖になってしまったようだ。俺は咄嗟に近づき、頭を撫でてやる
「…大丈夫だ、無理はするな。…思い出せなくたって、傍にいてやる」
「…うぅう…」
葵はついに泣き出してしまった。…胸を貸して、泣き止むまで一緒に居ることになった…
―おい、お前また勝手に家……りこんだな!?―
―……って、鍵を……ないから……るい…しょ―
―ったく…―
思い出せそうなのに思い出せない
断片的に流れる記憶
私は一体誰"だった"
今の私は誰"なのか"
怖い、恐い
一体、私は…わたしは…