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辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?  作者: U3
第1章:追放と最強のオカン

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第5話 初陣、対ワイバーン戦

 荒野の朝は早い。

 地平線が白み始めたかと思うと、瞬く間に強烈な太陽が顔を出し、凍てついた大地を灼熱へと変えていく。

 そんな過酷な環境の中を、俺とマザーは移動していた。


 遺跡の拠点から北へ数キロ。

 ゴツゴツとした岩場が続く悪路だが、マザーの乗り心地は驚くほど快適だった。

 6本の多脚が独立して動き、先端についた高性能サスペンションが凸凹した地面の衝撃を完全に吸収しているのだ。コクピットに座っている俺には、揺れ一つ伝わってこない。まるで高級馬車……いや、王族専用の魔導リムジンに乗っているかのようだ。


『マスター、空調の温度はいかがですか? 外気温はすでに35度を超えていますが』


 スピーカーから気遣うような声が響く。


「ああ、完璧だよ。涼しくて最高だ。……正直、今まで野営で寝ていたのが馬鹿らしくなるな」


 俺は苦笑しながら、シートに深く身を預けた。

 昨日のスープの温かさが、まだ心に残っている。

 追放されて、絶望して、死にかけて。

 なのに今は、こんなにも満たされた気分で朝を迎えている。人生とは分からないものだ。


『ふふ、それは良かったです。しっかり休養を取るのも、良き開拓者の条件ですからね』


 マザーは上機嫌に答えながら、さらに歩みを進める。

 今日の目的は、昨夜の調査で見つけた「地下水脈」の確保だ。

 水は生命線だ。飲み水としてはもちろん、生活用水、そして何より――。


『マスター、目的地周辺の地質調査が完了しました』


 マザーの声と共に、メインモニターに地形図が表示される。

 荒涼とした地表の下に、網の目のように走る青いライン。地下水脈だ。

 そして、その一部が赤く表示されているエリアがある。


「……やっぱりか」


『はい。地下マグマ溜まりの影響を受けて、水温が上昇しています。深度3200メートル。岩盤は硬質玄武岩の層が厚いですが……』


 マザーは自信たっぷりに続けた。


『私の超硬度タングステン・ドリルなら、豆腐のように貫通可能です。間違いありません、ここなら極上の「天然温泉」が湧きますよ!』


「ビンゴだ! さすがマザー、仕事が早い!」


 俺は思わず拳を握った。

 温泉。

 それは、疲れ切った職人にとって、何よりも心が躍る響きだ。

 王都にも温浴施設はあったが、貴族専用だったり、魔道具で無理やりお湯を沸かしただけの銭湯だったりで、本物の天然温泉に入る機会なんて皆無だった。

 まさか、こんな辺境でその夢が叶うとは。


「よし、早速掘削開始だ! 今日中に一番風呂といくぞ!」


『はい、マスター! 安全第一で参りまし――……あら?』


 不意に、マザーが言葉を切り、足を止めた。

 滑らかだったコクピット内の照明が、スッと赤色に切り替わる。

 警告音が鳴り響く。けたたましい音ではなく、低く、腹に響くような警戒音だ。


『索敵センサーに反応。上空より接近する高熱源を探知。……高速でこちらに向かっています』


「熱源……?」


 俺は慌てて外部カメラの映像を上空へ向けた。

 雲ひとつない抜けるような青空。

 その彼方から、黒い点が急速に大きくなってくるのが見えた。

 鳥? いや、違う。もっと巨大で、禍々しいシルエットだ。

 翼を広げれば10メートルはあろうかという巨体。全身を覆うのは、鉄よりも硬いと言われる赤黒い鱗。

 そして、獲物を引き裂くための凶悪な鉤爪と、燃え盛る炎を宿した口腔。


「ッ……! 嘘だろ……!?」


 俺の背筋が一気に凍りついた。

 見間違うはずがない。

 かつて、勇者パーティの遠征で遭遇し、死ぬ思いで逃げ延びたことのある天敵。


「『レッド・ワイバーン』……!」


 Bランク指定の高等魔物。

 「空の暴君」とも呼ばれる捕食者だ。

 そのブレスは岩をも溶かし、その突撃は城壁を粉砕する。

 王国の正規騎士団であっても、討伐には一小隊規模の戦力と、入念な準備、そして犠牲を覚悟しなければならない相手だ。


 記憶がフラッシュバックする。

 あれは3年前、北の山脈でのことだ。

 遭遇した瞬間、カイルはパニックになり、聖女は腰を抜かした。

 俺が全魔力を振り絞って多重結界を展開し、彼らが逃げる時間を稼いだ。結界はブレスの一撃で飴細工のように溶かされ、俺は全身に大火傷を負った。

 あの時、俺たちには「聖剣」も「攻撃魔法」もあった。それでも、撤退するのが精一杯だったのだ。


 だが、今はどうだ?

 俺には武器がない。剣も、杖も、防御用の魔導具すら取り上げられた。

 あるのはこの重機だけ。

 彼女はあくまで「開拓用」だ。ドリルやショベル、クレーンといった土木作業用の装備しかない。

 いくら巨大でも、空を飛ぶ怪物を相手に、どうやって戦うというのか。


「マザー! 回避行動だ! 全速力であの岩陰に隠れろ!」


 俺は叫びながら、操縦桿を思い切り引こうとした。

 冷や汗が止まらない。手が震える。

 見つかったら終わりだ。ブレスを撃ち込まれたら、いくらマザーの装甲が厚くても蒸し焼きにされる。


 だが、マザーは動かない。

 微動だにしない。


「おい、どうした!? 故障か!? 早くしないと――」


『回避? ……いえ、その必要はありません』


 マザーの声は、驚くほど冷静だった。

 いや、冷静というよりは……少し不機嫌そうだった。


『せっかくの食後の運動を始めようとしていたのに。……それに、あの子、こちらを明確に「餌」だと思って見下していますね。非常に不愉快です』


 モニターの端に、ワイバーンの解析データが次々と表示されていく。

 速度、高度、熱量、推定攻撃力。

 そして最後に、真っ赤な文字で危険度判定が表示された。


 Target Status: PEST


「害虫って……おいおい! 相手はワイバーンだぞ!? 空飛ぶ戦車みたいなもんだ! 捕まったら鉄屑にされるぞ!」


『戦車? ……ふふ、アルドさん』


 マザーが、クスリと笑った気がした。

 その笑いは、慈愛に満ちたオカンのものではなく、絶対的な強者の余裕を含んだものだった。


『私を誰だと思っていますか?』


 カシュゥゥゥン……!

 突如、コクピット内に油圧の作動音が響き渡った。

 機体の外部から、蒸気のような排熱が激しく噴き出す。

 コクピットのシートが自動的に変形し、俺の肩、腰、太ももを包み込むようにガッチリと固定していく。

 G対策モード。戦闘用シークエンスへの移行だ。


『私は超古代文明の結晶、『汎用』開拓重機です。開拓の邪魔をする障害物の排除も、立派な私の仕事の範疇ですから』


 ズウンッ!

 マザーの6本の脚が、大地に深々と突き刺さった。

 パイルバンカーのようなアンカーが岩盤を砕き、巨大な機体を地面に完全に固定する。

 姿勢制御完了。固定砲台モードへ移行。


 空からは、ワイバーンが耳をつんざくような咆哮を上げて急降下してくるのが見えた。

 獲物を見つけた歓喜の叫びだ。

 口の端からドロリとした炎が漏れている。ブレスの予備動作。

 距離、1500メートル。1200。1000。

 速い。このままでは数秒でブレスの射程内に入る。


「来るぞ……! 防御シールド展開!」


 俺が身構え、叫んだ瞬間。

 マザーの背部に装備されていた「筒」のようなパーツが、音もなく展開した。

 ただの排気ダクトだと思っていたそれは、複雑にスライドし、砲身が二段階、三段階へと伸びていく。

 さらに周囲の装甲板がパージされ、冷却用のフィンが花弁のように展開した。

 現れたのは、美しいまでの長砲身を持つ、大口径の荷電粒子砲――レーザーキャノンだった。


『お食事の邪魔をするなんて、お行儀が悪いですね』


 マザーの声は、いたずらをする子供を叱るオカンのように厳しく、そして氷のように冷徹だった。


『教育的指導が必要です』


 ヒュオオオオオオオオ……!

 空気が震えるような高周波音が、荒野に響き渡る。

 マザーの体内にある超小型魔力炉が唸りを上げ、莫大なエネルギーが砲身の根元に集束していくのが分かる。

 モニターのエネルギーゲージが、一瞬でMAXを振り切った。


 照準サイトが、空中のワイバーンを捉えた。

 高速でジグザグに飛ぶ相手の動きを、AIが未来予測し、赤いマーカーがその眉間にピタリと吸い付く。


『対空障害物排除レーザー、充填率120%。――発射』


 音は、一瞬遅れて聞こえた。


 カッッッ!!!!!!


 世界が白に染まった。

 荒野の太陽など比較にならない、純粋で暴力的な光の奔流。

 直径2メートルはあろうかという極太のレーザービームが、地上から天空へと駆け抜けた。

 大気が瞬時にプラズマ化し、雷鳴のような轟音が遅れて鼓膜を叩く。


 それは一直線にワイバーンへと吸い込まれた。

 回避? 防御?

 そんな暇はなかっただろう。

 光速に近いエネルギーの鉄槌は、ワイバーンが吐こうとした炎ごと、その鋼鉄の鱗を、骨を、細胞の一つ一つまでを飲み込んだ。


 ジュッ、という音が聞こえた気がした。

 それは、水滴が熱した鉄板に落ちて蒸発する音に似ていた。

 だが、蒸発したのは水滴ではない。全長10メートルの巨大な魔物だ。


 光が収束し、空に静寂が戻る。

 俺は恐る恐るモニターを見た。


 空には、何もいなかった。

 雲にぽっかりと開いた大穴と、黒い灰がパラパラと風に舞っているだけ。

 肉片ひとつ残っていない。

 断末魔を上げる間もなく、分子レベルで消滅していたのだ。


「…………は?」


 俺は口を開けたまま、呆然と空を見上げていた。

 言葉が出ない。思考が追いつかない。

 あれはレッド・ワイバーンだぞ?

 王国の精鋭部隊が、命がけで、血を流してようやく撃退できる相手だぞ?

 それを、一撃?

 しかも、対空ミサイルとかじゃなく、ビームで?

 魔法ですらない、純粋なエネルギー兵器による破壊。


『ターゲットの沈黙を確認。周辺空域、クリア。……ふぅ、やっと静かになりましたね』


 マザーが何事もなかったかのように、砲身を収納モードへと戻していく。

 プシュウゥゥ……と冷却ガスが排出され、アンカーが解除される。

 まるで、庭の雑草を一本抜いた程度の手軽さだ。


『まったく、最近の若い魔物は礼儀がなっていませんね。食事や作業の時間は神聖なものだと教わらなかったのかしら。これに懲りて、二度とうちの敷居を跨がないことですね』


「い、いや……マザーさん?」


『はい、なんでしょう? お茶にしますか?』


「お茶じゃなくて! 強すぎないか!? 今の、王国の戦略級魔法より威力あったぞ!?」


 俺の叫びに、マザーはきょとんとした様子で答えた。


『これくらい標準装備ですよ? 私が造られた時代には、もっと大きな「空飛ぶクジラ」みたいな害獣がたくさんいましたから。あれを落として整地するには、これくらいの出力がないと作業効率が落ちてしまいます』


 俺は戦慄した。

 超古代文明、恐るべし。

 彼らにとっての「開拓」とは、つまり「戦争」に近いものだったのかもしれない。

 いや、そもそも彼らにとってワイバーン程度は「害獣」でしかなく、駆除対象でしかなかったのだ。


 だが。

 その圧倒的な、理不尽なまでの武力が、今は俺の味方だ。

 これほど心強いことはない。

 今まで俺を怯えさせてきた魔物の脅威も、理不尽な暴力も、この「オカン」の前では無力なのだ。


『さあ、邪魔者も綺麗サッパリ消えましたし、お風呂掘りを再開しましょう! 汗をかいてサッパリしたいですものね!』


 マザーは楽しげに鼻歌を歌いながら、再びドリルアームを展開した。


「……ああ、そうだな。頼むよ、最強のオカン」


 俺は苦笑いしながら、深くシートに身を預けた。

 身体の震えは止まっていた。

 恐怖は消え、代わりに奇妙な安心感が胸を満たしていた。

 このマザーがいれば、この過酷な荒野でも生きていける。いや、ただ生きるだけでなく、最高に贅沢で、誰にも邪魔されない暮らしができるかもしれない。


 俺たちの前途は明るい。

 ワイバーンを一瞬で灰にする、あのレーザーの光のように。


 俺はニヤリと笑うと、操縦桿を握り直した。


「よし、掘るぞ! 今夜は温泉で祝杯だ!」

『はい、マスター!』


 ドリルが唸りを上げ、硬い岩盤へと突き刺さる。

 その音は、俺たちの新しい生活の始まりを告げるファンファーレのように響き渡った。


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