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辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?  作者: 伊達ジン
第5章:独立国家マザーランド

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第43話 戦場

 朝日が荒野を照らし出す頃、王国の第一、第二騎士団を合わせた三千の軍勢が、要塞都市テラ・テルマエの目前に陣を敷いた。

 先頭に立つのは、黄金の甲冑に身を包んだ騎士団長だ。彼は巨大な防壁と、その奥に見える魔力防壁のドームを見上げ、一瞬だけ怯むような表情を見せたが、すぐに声を張り上げた。


「聞け、反逆者アルド・グレイフィールド! 貴様が不当に占拠しているその土地と古代兵器、そして資源は、全て王国のものだ! 直ちに防壁を開き、降伏せよ! さもなくば、王国軍の誇りにかけて貴様らを殲滅する!」


 魔導拡声器を使ったその声は、防壁の上に立つ俺たちの耳にもしっかりと届いた。


「殲滅、だとさ。大きく出たな」


 俺は鼻で笑った。


「馬鹿ね。相手と自分たちの戦力差も測れないなんて」


 シルヴィアが冷たい視線を下へ向ける。


 俺たちが沈黙を守っていると、騎士団長はそれを「恐れをなした」と勘違いしたらしい。彼は剣を振り下ろし、攻撃の号令を下した。


「全軍、突撃! 攻城兵器を前に出せ! 結界ごと打ち砕け!」


 鬨の声と共に、三千の兵士たちが一斉に押し寄せてくる。

 巨大な丸太を抱えた破城槌部隊、後方からは投石機による巨大な岩の雨が放たれた。


 だが。


「マザー。迎撃開始だ。……ただし、命までは奪うな。武装の無力化に留めろ」


『了解しました。対人非致死性防衛機構、起動します』


 防壁の随所に設置された自動迎撃砲台が、一斉に駆動音を上げた。

 放たれたのは、実弾ではない。極限まで圧縮された空気の弾丸――衝撃波だ。


 ドォォォォンッ!!


 投石機から飛んできた巨岩が、空中で衝撃波に直撃され、粉々に砕け散る。

 さらに、破城槌を抱えて突撃してくる兵士たちの足元に衝撃波が着弾し、爆風が彼らを容赦なく後方へと吹き飛ばした。

 悲鳴を上げて宙を舞う兵士たち。

 マザーの精密な計算により、骨折程度の怪我で済むように威力が調整されているが、その圧倒的な力を見せつけられ、軍の足が完全に止まった。


「な、なんだと!? 一歩も近づけないだと!?」


 騎士団長が愕然と目を見開く。


「……ここからは、こちらの番ですわね」


 防壁の上で、ソフィアが一歩前に出た。

 彼女はギルド支部長としての制服の襟を正し、深く息を吸い込む。

 そして、彼女の得意とする精神干渉系・広域音響魔法が発動した。


『王国軍の兵士たちに告げます――』


 その声は、物理的な音というより、直接脳内に響くような不思議な浸透力を持っていた。


『貴方たちの王は、すでに国を捨て、貴方たちを無意味な死地へと追いやりました。王都は瘴気に包まれ、結界は崩壊しています。……貴方たちが命を懸けて奪おうとしているものは、ただの幻想です』


 事実を冷徹に突きつける、氷のような声。

 兵士たちの間に、動揺が広がり始める。

 王都の惨状は、彼らも肌で感じていたはずだ。それを明確な言葉で突きつけられ、戦う意義が足元から崩れ去っていく。


『今すぐ武器を捨て、降伏しなさい。そうすれば、命だけは保証し、この地の外へ追放してあげます。……ですが、これ以上刃を向けるというのなら』


 ソフィアの声が、一段と低く、重くなった。


『次の一撃は、貴方たちの命を刈り取ります』


 戦意喪失。

 その言葉通り、兵士たちの手から次々と剣や槍が滑り落ち、地面に鈍い音を立てた。

 ただでさえマザーの圧倒的な火力の前に手も足も出なかったのだ。そこにソフィアの精神的な揺さぶりが加わり、三千の軍隊は完全に烏合の衆と化した。


「ええい、怯むな! 貴様ら、王命に背く気か! 立て! 突撃しろ!」


 騎士団長や一部の将校たちだけが、青筋を立てて怒鳴り散らしている。

 俺はヴァネッサたちに視線を送った。


「ヴァネッサ、シルヴィア、ザラ。……あのうるさい幹部どもを黙らせてこい」


「待ってましたッ!」

「任せなさい」

「お注射の時間ね」


 三人は、数十メートルの高さがある防壁から、躊躇うことなく飛び降りた。


 ドゴォォォッ!!


 ヴァネッサが大剣を地面に叩きつけて落下の衝撃を殺し、そのまま土煙を上げて騎士団長の懐へ飛び込む。


「なっ、貴様はSランク冒険者の……!」

「遅い!」


 大剣の腹が、騎士団長の胴体を鎧ごと薙ぎ払った。彼は一撃で数メートル吹き飛び、白目を剥いて気絶する。


 その後方で呪文の詠唱を始めようとした魔法兵の部隊は、シルヴィアの放った絶対零度の冷気によって、足元から氷漬けにされた。


「動かないで。砕け散りたくなかったらね」


 冷たい微笑みを浮かべる彼女の前に、魔法兵たちは歯の根を合わさずに震えることしかできない。


 そして、逃げ出そうとした騎馬隊の将校たちは、ザラの放った麻痺毒の煙幕に巻き込まれ、次々と馬から転げ落ちて泡を吹いた。


「悪い子には、少し強めの薬が必要ね。……大丈夫、三日ほど身体が麻痺するだけよ」


 紫のドレスを翻し、妖艶に微笑むザラ。


 幹部たちが瞬く間に各個撃破されたことで、王国軍は完全に崩壊した。

 圧倒的。

 これが、俺の築き上げた国と、最強の仲間たちの力だ。


「勝負あり、だな」


 俺が宣言すると同時に、荒野にエルフの若者たちとガムリの親方たちが一斉に繰り出し、戦意を喪失した兵士たちを武装解除し、捕虜として拘束し始めた。


 戦後処理は、ソフィアの神がかった事務能力により、あっという間に片付いた。

 一部の反抗的な将校たちは近隣諸国へ引き渡され、強制労働の刑に。そして、王都の惨状に絶望し、テラ・テルマエでの生活を望む真面目な下級兵士たちは、厳しい審査を経て新たな開拓の労働力として受け入れられることになった。


 そしてその日の夜。

 広場の中央では、テラ・テルマエの完全防衛を祝う、盛大な戦勝祝いが開かれていた。


「さあ、今日は特別だ! 俺の故郷の味を振る舞うぞ!」


 俺は、マザーが今日のために特別に組み上げてくれた巨大な石窯の前に立っていた。

 作るのは、赤い果実と白い乾酪を乗せた、円盤状の平焼きパンだ。


 前日から仕込んでおいた小麦粉の生地は、長時間の低温発酵を経て、たっぷりと空気を抱え込んでいる。

 俺は生地の玉を台に乗せ、指の腹を使って優しく押し広げていく。

 外側の縁には空気を残し、中央部分だけを薄く伸ばす。空中で生地を回転させ、遠心力で美しい円盤状に仕上げた。職人技だ。


「そこに、この赤い果実の汁を塗る」


 荒野で栽培に成功した、酸味と旨味の強い赤い果実。これを煮詰めて作った鮮やかな赤いソースをお玉で掬い、生地の中央に丸く広げる。

 その上に、水牛の乳から作ったばかりの、弾力のある真っ白な新鮮乾酪をちぎって乗せる。

 さらに、芳香を放つ緑の香草の葉を散らし、仕上げに上質なオリーブの油を回しかける。

 赤、白、緑。目にも鮮やかな彩りだ。


「よし、焼くぞ!」


 巨大な木のヘラに生地を乗せ、超高温の魔導石窯の中へと滑り込ませる。

 窯の中の温度は、四百度以上。

 入れた瞬間、生地に含まれた水分が一気に蒸発し、縁の部分が風船のようにプクゥッと膨れ上がる。


 一分足らず。

 縁に香ばしい焦げ目がつき、白い乾酪が溶けてグツグツと沸騰したところで、窯から引き出す。

 小麦の焼ける香ばしい匂い、果実の酸味、そして乾酪の濃厚な香りが、広場中に爆発的に広がった。


「うおおおっ! なんだその美味そうな匂いは!」

「旦那! こっちに早くくれ!」


 ガムリの親方や難民たち、そしてエルフたちが皿を持って押し寄せてくる。

 俺は焼き立ての円盤パンを切り分け、次々と配っていった。


「ふはぁっ! 熱っ、でも美味え! 表面はサクッとしてるのに、縁のところはモッチモチだ!」


 親方が目を輝かせる。


「この赤い汁の酸味と、とろける白い塊の相性が抜群ですわね……。それに、この緑の葉の香りが、とても爽やかですわ」


 ソフィアも上品に口元を拭いながら、絶賛の声を上げる。


「さて、この脂っこい料理に合わせる、とびきりの飲み物がある」


 俺はマザーの冷却装置から、黒い液体が入った大きな樽を取り出した。


「それは……先日飲んだ黒い麦酒とは違うのかしら?」


 ヴァネッサが興味深そうに覗き込む。


「アルコールは入っていない。香辛料と柑橘、そして少しの薬草を煮詰めた蜜に、強烈な発泡水を合わせたものだ」


 これは、マザーの成分分析能力を駆使して再現した、俺の故郷で最も愛されていた「黒き甘草の飛沫水」だ。

 氷を満たしたグラスに、シュワシュワと弾ける黒い液体を注ぐ。

 肉桂や甘草に似た甘い香りと、柑橘の爽やかな香りが、弾ける泡と共に立ち上る。


「飲んでみてくれ」


 俺がグラスを渡すと、ヴァネッサとシルヴィアが同時に口をつけた。


「……ッ!! なにこれ、口の中でパチパチ弾けるわ!」


 シルヴィアが驚きに目を丸くする。


「甘い……が、ただの甘水じゃない。香辛料の複雑な風味の後に、喉を突き刺すような爽快感があるぞ」


 ヴァネッサが喉を鳴らして飲み干す。


「さあ、その爽快感のまま、この円盤パンを頬張るんだ」


 言われた通り、二人は熱々の円盤パンを一口かじり、すぐに黒い発泡水を流し込んだ。


「……!! これは……犯罪的ね!」


 シルヴィアが頬を押さえて叫んだ。


「乾酪の濃厚な脂と塩気を、この黒い水の泡が完全に洗い流して、リセットしてくれる。……いくらでも食べられそうだ」


 ヴァネッサも驚嘆の表情を隠せない。


 熱くて濃厚な焼き立てのパンと、極限まで冷えた甘く刺激的な炭酸水。

 この最高の組み合わせを前に、戦いの緊張や疲労は完全に吹き飛び、広場は人々の笑顔と歓声で満たされた。


 足元では、シロが自分の分のパンの端っこを嬉しそうに齧っている。


「アルド様。素晴らしい夜ですわね」


 ヘレナがグラスを片手に、俺の隣に並んだ。

 彼女の眼鏡の奥の瞳には、夜空の星と、燃える石窯の火が映っている。


「ああ。俺たちの国は、これで一つ大きな壁を乗り越えた。……だが、王都が崩壊した以上、まだ逃げてくる民はいるはずだ」


「ええ。私たちは、この箱舟をさらに強固で、豊かなものにしていかなければなりませんね」


 俺はヘレナとグラスを合わせ、漆黒の発泡水を飲み干した。

 戦いは終わった。

 ここからは、本格的な「国造り」の始まりだ。

 最強の重機と、最高の仲間たちと共に。


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