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辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?  作者: U3
第5章:独立国家マザーランド

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第42話 要塞都市テラ・テルマエ

「――敵の数は約三千。正規の装備で固めた王国の第一、第二騎士団だ」


 急遽開かれた軍議の場。

 大きな円卓を囲む仲間たちの顔には、一様に厳しい緊張が走っていた。


「三千……。王都の防衛を司る主力部隊の半数ですわ。狂気としか思えません」


 ソフィアが眉間を押さえながら嘆息する。


「自身の失政を隠すために、責任を全てこちらに押し付け、さらにはこの地の富を力ずくで奪おうという腹でしょう。……もはや一国の王の判断ではありません」


「馬鹿げているわね。自分の首を絞めていることにすら気づかないなんて」


 シルヴィアが冷ややかに鼻を鳴らした。


「旦那! 俺たちも武器を取る! 命を救われた恩、ここで返させてくれ!」


 同席していたドワーフの鍛冶師、ガムリの親方が拳を突き上げた。彼に続くように、難民の代表者たちや、リーリャをはじめとするエルフの若者たちも次々と戦闘への参加を志願する。


「親方の気持ちはありがたい。だが、素人が正規軍の密集陣形に突っ込めば犬死にだ」


 俺は立ち上がり、全員を見渡した。


「皆には、大切な役目がある。高齢者や子供たちを、マザーが地下に作った避難所へ誘導し、安全を確保してほしい。……戦いは、俺たちでやる」


 俺の言葉に、ヴァネッサが獰猛な笑みを浮かべて大剣の柄を叩いた。


「そうだ。足手まといは不要だ。前衛は私に任せておけ」


「王国の兵士など、私の氷でまとめて凍らせてあげるわ」


 シルヴィアも自信に満ちた笑みを返す。


「マザー」


 俺は懐の通信機に呼びかけた。


「街の『防衛形態』を起動してくれ。……王国の連中に、俺たちの本気を見せてやろう」


『了解しました。テラ・テルマエ、要塞形態へ移行します』


 その直後だった。

 ズズズズズズ……ッ!!

 大地の底から、腹の底を揺さぶるような重低音が響き渡った。


「な、なんだ!?」

「地震か!?」


 驚く難民たちをよそに、テラ・テルマエの風景が劇的に変貌していく。

 居住区や商業区の外周、あらかじめマザーが掘り進めていた深い溝から、厚さ数メートルにも及ぶ鋼鉄と魔導生成岩の複合防壁が、天を衝くようにせり上がってきたのだ。


 ガキンッ! ガゴンッ!

 重厚な金属音と共に装甲板が噛み合い、街の周囲を完璧に囲い込む。

 さらに、防壁の一定間隔ごとに、マザーの子機たちが操作する迎撃用の魔導砲台が展開される。


「ひぃぃっ! まるで街が生き物みたいだ……!」


 ガムリの親方が、目をひんむいて驚愕の声を上げた。


『続いて、対物・対魔力防壁を展開します』


 地下深深くから汲み上げられた莫大な地熱エネルギーが、マザーの炉心で純粋な魔力へと変換される。

 防壁の頂部に設置された尖塔から、黄金色に輝く光の帯が空へと放たれ、それは巨大な半透明のドームとなって、街全体をすっぽりと覆い尽くした。


 物理的な超装甲と、魔力的な絶対防壁。

 そこに出現したのは、開拓村などという生易しいものではない。

 いかなる軍隊の侵攻も退ける、難攻不落の『要塞都市』だった。


「これで、第一段階の準備は完了だ。皆、明日の夜明けに備えて休息をとってくれ」


 深夜。

 住民たちの避難誘導を終え、静まり返った要塞の中で、俺は一人、厨房に立っていた。

 寝ようとベッドに入ったものの、明日への緊張で神経が昂り、どうにも目が冴えてしまったのだ。

 こんな時は、手を動かして何かを作るに限る。


「……こんな夜更けに、何を作っているのかしら?」


 不意に、背後から艶やかな声がかけられた。

 振り返ると、紫色の豪奢なドレスを纏ったザラが、入り口の壁に寄りかかって微笑んでいた。


「ザラか。……眠れないのか?」


「ええ。少しね。貴方と同じよ。……でも、厨房からとても良い匂いがしてきたから、誘い出されてしまったわ」


 彼女はゆっくりとした足取りで近づき、俺の手元を覗き込んだ。


「夜食を作っていたんだ。ザラも食べるか?」


「ふふっ。喜んでいただくわ」


 俺が調理していたのは、荒野の湖で狩猟班が獲ってきてくれた水鳥の胸肉だった。

 分厚い皮目に格子状の切れ目を入れ、塩と香辛料をすり込む。

 油は引かず、熱した鉄板に皮側から乗せる。


 ジュワァァァッ……!


 水鳥自身の豊かな脂が溶け出し、香ばしい煙が立ち上る。

 溢れ出た脂を匙ですくい、何度も肉の上からかけながら、じっくりと火を通していく。

 皮が飴色にカリッと焼けたら裏返し、身の方はサッと火を通すだけ。

 中心が美しい桜色の状態のまま火から下ろし、温かい場所で肉汁を落ち着かせる。


「次はタレだ」


 肉を焼いた鉄板にそのまま、細かく刻んだ玉ねぎと、少量の蜂蜜、そして柑橘の絞り汁を入れる。

 強火で煮詰め、最後に少しの冷たい手練り場を加えて乳化させ、とろみと艶を出す。

 甘酸っぱく、そして水鳥の旨味が凝縮された濃厚なタレの完成だ。


「それに合わせる飲み物は、これよ」


 ザラが持参したカゴから、赤葡萄酒の瓶と、幾つかの小瓶を取り出した。


「私が調合した特製の香辛料よ。肉桂に丁子、それに八角ね。これを赤葡萄酒と一緒に温めてちょうだい」


「熱い葡萄酒か。なるほど、寝付けない夜にはぴったりだ」


 俺は小鍋に赤葡萄酒を注ぎ、ザラの香辛料と、輪切りにした柑橘を加えて火にかけた。

 湯気と共に、ふくよかな葡萄の香りと、薬膳のような複雑で甘い香りが厨房を満たしていく。


「お待たせしました」


 俺は切り分けた水鳥の直火焼きに甘酸っぱいタレをかけ、熱い葡萄酒を入れた陶器の杯と共に、カウンターに並べた。


「いただきますわ」


 ザラが水鳥の肉を口に運ぶ。

 カリッとした皮の食感の後に、野性味溢れる濃厚な肉の旨味と、柑橘の爽やかな香りが広がる。


「……美味しい。お肉の味が濃いのに、この甘酸っぱいタレのおかげでいくらでも食べられそうね」


 彼女はうっとりと目を細め、熱い葡萄酒の杯を両手で包み込むようにして啜った。

 ほう、と色っぽい吐息が漏れる。


「体が芯から温まるわ。……不思議ね。明日には三千の軍隊が押し寄せてくるというのに、貴方の料理を食べていると、そんなことどうでもいい些事に思えてくる」


「そう言ってもらえると、料理人冥利に尽きるよ」


 俺も自分の杯を口に運んだ。

 香辛料の刺激が胃の腑を温め、強張っていた肩の力がゆっくりと抜けていくのを感じる。


「私ね、色々な街や国を渡り歩いてきたの」


 ザラが、杯を見つめながらポツリと語り始めた。


「どこの権力者も、薬師である私を『便利な道具』か『愛人』のどちらかにしか見ようとしなかったわ。自分の保身と欲望のためにしか力を使わない、腐った連中ばかり。……王国の連中も、その典型ね」


 彼女は顔を上げ、妖艶な瞳で俺を真っ直ぐに見つめた。


「でも、貴方は違う。貴方は自分の技術を、人を活かすため、笑顔にするために使っている。……だから、惹かれるのよ」


 ザラが身を乗り出し、俺の顔にそっと手を伸ばした。

 彼女の冷たく滑らかな指先が、俺の頬を撫でる。

 香辛料の香りよりもずっと甘く、危険な大人の香りが鼻腔をくすぐった。


「ねえ、アルド。……この戦いが終わって、もし無事に生き残れたら。私に『特別なご褒美』を、いただけるかしら?」


 それは、明らかな誘惑だった。

 彼女の瞳には、冗談やからかいではない、切実な熱情が宿っている。


 俺は彼女の指先に自分の手を重ね、静かに微笑んだ。


「ああ。最高の湯と、とびきり美味い飯を用意しておくよ。……それに、それ以上のものも、な」


「ふふっ。言ったわね? その言葉、絶対に忘れないでちょうだい」


 ザラは満足そうに微笑むと、最後の一口の葡萄酒を飲み干した。


「さあ、少しは眠りなさい。明日は、忙しくなるわよ」


 彼女の薬草の効果か、それとも温かい時間のおかげか。

 俺の心からは、先ほどまでの不安は完全に消え去っていた。


 そして、運命の夜明け。


 朝の光が、荒野を黄金色に染め上げていく。

 要塞都市テラ・テルマエの巨大な防壁の上に、俺たちは並び立っていた。

 俺の両脇には、大剣を肩に担いだヴァネッサと、冷気を纏うシルヴィア。

 そして背後には、臨戦態勢に入った巨大なマザー。


「……来たな」


 俺が呟いた視線の先。

 地平線を黒く塗り潰すように、巨大な砂埃が巻き上がっていた。

 整然と並んだ無数の槍の穂先が、朝日を反射して不気味に光っている。

 王国の旗印を掲げた、三千の正規軍。


 彼らは俺たちを蹂躙する気満々で、歩みを進めてくる。

 だが、俺の心は驚くほど静かだった。


「さあ、迎え撃つぞ。俺たちの国に、指一本触れさせるな!」


「「「おうっ!!!」」」


 仲間たちの力強い鬨の声が、荒野の風を切り裂いた。

 かつて全てを奪われた男と、彼を信じる者たちによる、国を挙げた大反撃が、今まさに始まろうとしていた。


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