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辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?  作者: U3
第4章:微笑みの鉄壁と叡智の集結

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第33話 王国の使者と論破祭り

 ヘレナとザラが加わり、テラ・テルマエの都市機能は飛躍的に向上した。

 特にザラの開設した「療養所」は、マザーの医療ポッドを使うほどではない軽微な不調や、日々の健康管理に大いに役立っている。


「はい、おしまい。……次の方」


 療養所の診察室で、ザラが優雅に手を振った。

 患者のエルフは「ありがとうございます、ザラ先生!」と顔を輝かせて出ていく。

 彼女が処方する薬は、効き目は抜群だが味が独特なことで有名になりつつあるが、その腕は確かだ。


「お疲れさん、ザラ」


 俺が声をかけると、彼女は気怠げに長い脚を組み替え、艶然と微笑んだ。


「あら、領主様。私の顔を見に来たの? それとも、またどこか調子が悪くて?」


「いや、差し入れだ。マザー特製のハーブティーと、焼き菓子」


「気が利くわね。……ふぅ、それにしても、ここの住民は皆、健康すぎて退屈よ。もっとこう、未知の奇病とか毒とかないのかしら」


 物騒なことを言いながら、彼女はティーカップを傾けた。

 その横顔は妖艶で、どこか危険な香りがする。


『マスター。緊急警報です』


 マザーのアナウンスが、穏やかな空気を遮った。


『北の街道より、武装した集団が接近中。……王国の紋章を掲げています』


「来たか……」


 俺は表情を引き締めた。

 いつか来るとは思っていた。俺を追放した、かつての雇い主たちが。


 広場に到着した馬車は、見覚えのある豪奢な装飾が施されていた。

 王家の使者が乗る馬車だ。

 護衛の騎士たちが展開し、威圧的に剣の柄に手をかけている。

 馬車から降りてきたのは、王宮で何度か顔を合わせたことのある、恰幅の良い内務大臣だった。


「アルド・グレイフィールド! おるか!」


 大臣が大声で俺の名を呼ぶ。

 俺は一歩前に出た。後ろにはマザーが控え、左右には頼もしい仲間たちが並んでいる。


「久しぶりですね、大臣。何の用です?」


「何の用だと!? 貴様、とぼけるな! 王都の結界が不調を起こし、勇者の聖剣にも不具合が出ている! 今すぐ戻って修理せよ! これは王命である!」


 大臣は顔を真っ赤にして喚き散らした。

 謝罪もなしに、いきなりの命令だ。相変わらずだ。


「……お断りします」


 俺が短く答えると、大臣は目を剥いた。


「な、なんだと!? 王命だぞ! 貴様、反逆罪で処刑されたいのか!」


「反逆も何も、俺は既に追放された身です。王国の民ではありません」


「屁理屈を言うな! 貴様の技術は国の財産だ! さっさと馬車に乗れ!」


 大臣が合図をすると、騎士たちが強引に俺を取り囲もうとした。

 その時だ。


「あら、随分と乱暴な求人活動ですこと」


 ララが扇子で口元を隠しながら、優雅に進み出た。


「商会『金色の風』のララ・ヴァレンタインです。アルド氏は現在、当商会と専属技術契約を結んでおります。彼を連れ戻すなら、まずは違約金をお支払いいただけますか?」


「い、違約金だと?」


「ええ。彼が抜けることによる逸失利益、および契約破棄に伴う賠償金。……ざっと見積もって、金貨10億枚ほどになりますわ」


 ララはニッコリと笑い、分厚い請求書を突きつけた。


「じゅ、10億!? 馬鹿な!」


「お支払いが確認できるまで、彼はお渡しできません。……貧乏な国は辛いですわねぇ」


 ララの煽りに、大臣が言葉を詰まらせる。

 すかさず、反対側からヘレナが眼鏡を光らせて歩み出た。


「そもそも、連れ戻したところで無意味ですわ」


「な、なんだ貴様は!」


「考古学者のヘレナです。……王都の大結界、その機構を拝見したことがありますが、あれは設計思想が古すぎます。500年前の『継ぎ接ぎだらけの骨董品』を、アルド様の職人芸で無理やり動かしていただけ。彼がいなくなった今、あれはただの粗大ゴミです」


 ヘレナは冷ややかな目で大臣を見下ろした。


「新しい術式を構築する知恵もなく、一人の人間に全てを押し付けた貴方たちの怠慢が招いた結果です。……学ぶ価値もない愚かさですわ」


「ぐぬぬ……!」


 さらに、ザラが俺の腕に絡みつきながら、妖艶に微笑んだ。


「それにね、大臣さん。この人は渡せませんのよ」


「き、貴様は……」


「薬師のザラです。……アルド様の診断記録を見ましたが、王都にいた頃の彼は、過労と度重なる心労で内臓がボロボロでしたわ。あのまま働いていたら、あと半年で過労死していました」


 ザラの瞳が、スッと細められる。


「私の患者を、死地へ送り返すような真似はさせません。……もし無理に連れて行くなら、貴方たちの飲み水に『特別な薬』を混ぜさせていただくことになりますけど?」


 さらりと脅迫。大臣の顔色が青ざめる。


 そして、トドメとばかりに、ソフィアが完璧な制服姿で現れた。

 その顔には、「微笑みの鉄壁」の名にふさわしい、冷たく美しい笑みが張り付いている。


「そこまでになさいませ」


「そ、ソフィア監査官!? なぜここに!?」


「現在は、テラ・テルマエ支部・支部長です」


 ソフィアは眼鏡の位置を正し、宣言した。


「本拠点は、冒険者ギルド法に基づき『特例Sランク保養拠点』として認定されています。ここの住民および領主に対する不当な拘束、または強要は、ギルドに対する敵対行為とみなします」


「て、敵対だと!? たかがギルド風情が、王国に楯突く気か!」


「ええ。国際法第5条。『ギルド認定拠点への武力介入は、全加盟国への宣戦布告に相当する』。……ご存じありませんか?」


 ソフィアはにっこりと笑った。


「貴国の要求は、国際法およびギルド法に違反します。……これ以上騒ぎ立てるなら、即刻、全冒険者の王国からの引き上げと、物流の停止を勧告させていただきますわ」


 詰んだ。

 金、技術論、健康管理、そして国際法。

 四方向からの完全論破。

 大臣は口をパクパクさせ、脂汗を垂らして後ずさった。


「く、くそっ……! 覚えておれ! このまま済むと思うなよ!」


 捨て台詞を吐いて、大臣は逃げるように馬車に乗り込んだ。

 騎士たちも、マザーとヴァネッサ、そしてシルヴィアの圧力に耐えかね、慌てて撤退していく。


『敵性反応、退去を確認。……皆様、お見事でした』


 マザーが感心したように言った。


「ああ。頼もしすぎて、俺の出る幕がなかったよ」


 俺は苦笑いしながら、彼女たちに礼を言った。

 本当に、最高の仲間たちだ。


 その夜。

 騒動の収拾と、今後の対策会議を終えた俺は、ザラに呼び出されていた。

 場所は、夜の薬草園。

 月明かりの下、様々な薬草が怪しく、そして美しく咲き乱れている。


「お待たせ、ザラ。……話って?」


「ええ。ちょっと、手伝ってほしいことがあって」


 ザラは月下美人のような白い花の前で振り返った。

 夜風が彼女のドレスを揺らし、エキゾチックな香水の香りが漂う。


「この『月光草』、満月の夜にしか蜜を採取できないの。……でも、一人じゃ寂しくて」


 彼女は小瓶を俺に手渡した。

 どうやら、採取の手伝いらしい。

 俺たちは並んで、光る花から慎重に蜜を集めた。

 静かな時間。虫の音だけが響く。


「……さっきはありがとうな。あんな風に言ってくれて」


 俺が言うと、ザラはふふっと笑った。


「事実を言っただけよ。貴方は、自分の体を粗末にしすぎ。……もっと、労ってあげなさい」


 彼女は作業の手を止め、俺の頬に触れた。

 冷たくて、心地よい指先。


「私がここにいる間は、貴方の健康は私が管理するわ。……心も、体もね」


 意味深な言葉。

 その瞳は、昼間よりも甘く、潤んで見えた。


「……頼りにしてるよ、先生」


「ええ。任せておいて」


 採取を終えた後、俺たちはテラスでザラ特製の「薬膳酒」を飲んだ。

 数種類のハーブと果実を漬け込んだ、琥珀色の酒。

 口に含むと、芳醇な香りと共に、体が芯から温まっていくのを感じた。


「これは……美味いな。薬臭さがない」


「でしょう? 元気になるわよ、これ」


 ザラが悪戯っぽくウインクする。

 月明かりの下、二人だけの密やかな宴。

 昼間の騒々しさが嘘のように、穏やかで、少しだけ艶めいた時間が流れていった。


 王国の脅威は去ったわけではない。

 だが、この頼もしい仲間たちがいれば、どんな困難も乗り越えられる。

 そんな確信を抱きながら、俺はグラスを傾けた。


 足元では、シロが薬草の匂いにくしゃみをしていた。

 平和な夜だ。


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