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辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?  作者: U3
第2章:エルフの難民と温泉リゾート

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第16話 ミスリル鉱脈発見

 『マザー式・ハイブリッド温室』の完成により、テラ・テルマエの食卓事情は劇的に改善された。

 朝採れのシャキシャキした葉野菜、甘みの詰まった根菜、そして香り高いハーブ。

 それらが毎日のように収穫され、エルフたちの手によって丁寧に調理される。

 食が充実すれば、心も豊かになる。領内には常に笑い声が絶えなかった。


 そんなある日の午後。

 俺はマザーと共に、拠点の北側に広がる岩山地帯へ来ていた。

 将来的な居住区の拡張を見越して、さらなる整地と資材確保を行うためだ。


「わんっ! わんっ!」


 シロが尻尾を立てて、岩場を駆け回っている。

 最近の彼は「穴掘り」に目覚めたらしく、あちこちの地面を前足でガリガリと掘り返しては、鼻を突っ込んでフンフンと匂いを嗅いでいる。

 本人は狩りのつもりなのかもしれないが、その小さなお尻を振って掘る姿は愛らしさの塊だ。


「こらシロ、あまり遠くに行くなよ。崩れやすい場所もあるからな」


 俺が注意すると、シロは「わふっ」と元気よく返事をして、また別の場所を掘り始めた。

 今度は大きな岩の根元だ。

 ガリガリ、ガリガリ。

 必死に前足を動かしている。


『マスター、シロちゃんが何か見つけたようですよ?』


 マザーがアームのカメラを向ける。

 シロが「くぅ〜ん!」と興奮した声を上げ、俺の方を振り返った。

 口に何かをくわえている。

 キラリと光る、銀色の石だ。


「ん? 綺麗な石だな。お手柄だぞ、シロ」


 俺はしゃがみ込み、シロから石を受け取った。

 ずしりとした重み。

 そして、指先に伝わるビリビリとした微弱な振動。


「……待てよ。なんだこれ?」


 ただの石じゃない。鉱石だ。

 しかも、俺の【魔力変換】スキルが、その石から発せられる澄んだ波動に激しく反応している。

 俺はマザーに石をかざした。


「マザー、これの成分分析を頼む」


『了解しました。スキャン中……。……えっ?』


 マザーの電子音が、驚きで裏返ったように聞こえた。


『こ、これは……「神銀」です! それも、純度99.9%というありえない高純度の原石です!』


「……は?」


 俺は手の中の石を凝視した。

 ミスリル。

 その名は、職人ならば知らぬ者はいない。いや、子供のお伽話にすら出てくる伝説の金属だ。

 鉄よりも軽く、ダイヤモンドよりも硬く、そして何より「魔力を通す」性質において他の追随を許さない。

 王国の宝物庫にある聖剣や、大賢者の杖に使われているのが、このミスリルだ。

 市場に出回ることは稀で、もし出れば小指の先ほどの欠片でも金貨の山と交換されるほどの代物。


「嘘だろ……。こんな、庭先の岩山に?」


『シロちゃんが掘っていた場所をスキャンしました。……間違いありません。岩盤の奥深くに、巨大なミスリル鉱脈が走っています。シロちゃんは、その鉱脈からこぼれ落ちた欠片を見つけたようです』


「でかしたぞ、シロ!」


 俺はシロを抱き上げ、高い高いをした。

 シロは嬉しそうに俺の顔を舐め回す。

 この子はただの可愛いやつじゃなかった。伝説のお宝探知犬だったのだ。


「これだけの量があれば……何でも作れるな」


 俺は武者震いをした。

 最強の剣、最強の鎧。あるいは、マザーの装甲を強化して無敵の要塞にすることも可能だ。

 だが。

 俺の職人魂が、もっと別の、生活に密着した「可能性」を囁いていた。


 ミスリルの特性。

 高硬度、軽量、そして高熱伝導率。

 魔力を通しやすいということは、熱伝導率も極めて高いということだ。

 つまり……。


「……マザー。このミスリル、精錬できるか?」


『もちろんです。私の体内プラントなら、不純物を完全に取り除き、インゴットに加工可能です。何を作りますか? 魔導ライフル? それとも対ドラゴン用のパイルバンカー?』


 マザーが物騒なラインナップを提案してくる。

 俺はニヤリと笑って首を横に振った。


「いや。俺が欲しいのは、そんなもんじゃない」


 俺は宣言した。


「『フライパン』と『包丁』を作るぞ」


『…………はい?』


 さすがの超高性能AIも、一瞬フリーズしたようだった。


『ええと……聞き間違いでしょうか? 今、キッチン用品の名前が聞こえたような……』


「聞き間違いじゃない。ミスリル製の調理器具だ」


 俺は熱く語り始めた。

 鉄のフライパンは重い。手入れを怠ると錆びるし、食材がくっつく。

 だが、ミスリルならどうだ?

 羽のように軽く、熱伝導が良いから弱火でも瞬時に全体に熱が回り、ムラなく焼ける。

 そして魔力コーティングを施せば、絶対に焦げ付かない夢のフライパンになる!


「包丁も同じだ! 鉄より硬いミスリルなら、鋼の切れ味を永続的に保てる。金属臭も移らない!」


『なるほど……。伝説の金属を台所で使うなんて、古代人でも思いつかなかった贅沢ですね。……いいでしょう! その狂った職人魂、全力でサポートします!』


 採掘と精錬は迅速に行われた。

 純銀のように輝くミスリルのインゴットが次々と生成される。

 俺はマザーの工作機械を使い、まずは自分用のフライパンと包丁を叩き上げた。

 青白く輝く刃紋、手に吸い付くようなグリップ。完璧な仕上がりだ。


「さて、まだミスリルが余ってるな」


 俺は足元で作業を見守っているシロを見た。

 シロは首をかしげ、「なになに?」という顔をしている。


「今回の大発見は、シロのお手柄だ。シロにも何かご褒美がないとな」


『そうですね。最高級のジャーキー一年分などいかがでしょう?』


「それもいいが、もっと形に残るものがいい。……そうだ」


 俺は閃いた。

 シロは今まで、居住ユニットの中で俺と一緒に寝ていた。

 それはそれで可愛いのだが、これだけ大きくなってきたし、自分だけの「城」があってもいい頃だ。


「シロの家を作ろう。それも、ミスリルを使って」


『ミスリル製の犬小屋ですか!? ……斬新すぎます。シェルターの間違いでは?』


「頑丈で、夏は涼しく冬は暖かい。最高の素材だろ?」


 俺は早速設計に取り掛かった。

 マザーもノリノリで、3Dホログラムの設計図を展開する。


『壁材には断熱加工したミスリル・コンポジットを使用。床には床暖房システムを内蔵しましょう。屋根は雨音を軽減する吸音構造で』


「入り口はシロが出入りしやすいアーチ型だな。ネームプレートもミスリルで彫ろう」


 俺とマザーの悪ノリ……いや、情熱が暴走する。

 作業開始。

 マザーのアームがミスリル板を加工し、俺が組み立てていく。

 カンカン、キンキン。

 小気味よい音が響く中、シロも「わんわん!」と周りを飛び跳ねて応援している。時々、ビスをくわえて持ってきてくれる。


 そして、夕暮れ時。

 居住ユニットのテラス横に、白銀に輝く小さな建物が完成した。


「完成だ……!」


 一見すると、お洒落なミニチュアコテージだ。

 だが、その素材は国宝級のミスリル。

 屋根は滑らかな曲線を描き、壁にはシロの肉球マークが刻印されている。

 内部にはマザー特製のふかふかクッションが敷き詰められ、自動給水器と空調まで完備されている。


「どうだシロ! お前の新しい家だぞ!」


 俺が指差すと、シロは目を輝かせて駆け寄った。

 クンクンと匂いを嗅ぎ、恐る恐る中へ入る。

 そして、中でくるりと一回転し、クッションの上で伏せをした。

 ふかふかの感触が気に入ったのか、尻尾をバタバタと床に打ち付けている。


「わふぅ~!」


 満足げな声。

 顔を出して、ニパッと笑うような表情を見せた。


『気に入ってくれたようですね。強度計算上、ワイバーンのブレスを受けても無傷です』


「過剰性能だが、まあいい。愛犬の安全は何にも代えがたいからな」


 その夜。

 新築祝いと、ミスリル調理器具の性能テストを兼ねて、俺はテラスで夕食の準備をした。

 メニューは「厚切りステーキ」だ。

 もちろん、シロの分もある。


 ミスリルのフライパンを熱し、バイソンボアの熟成肉を乗せる。

 ジュウウゥゥッ!!

 素晴らしい熱伝導だ。一瞬で表面が焼け、肉汁を閉じ込める。

 ミスリル包丁で野菜を刻む。サクッ、サクッ。まな板に吸い込まれるような切れ味。


「よし、焼けたぞ!」


 俺は焼き上がったステーキを皿に乗せ、シロの分は冷ましてから専用のボウルに入れた。

 シロはもう待ちきれない様子で、新しい家の前でお座りをしている。

 涎が垂れそうだ。


「よし!」


 合図と共に、シロが肉に食らいつく。

 ハグハグ、ムシャムシャ。

 いつも以上に美味しそうに食べる。

 やはり、自分の家で食べるご飯は格別なのだろうか。


「俺もいただくか」


 一口食べる。


 ……美味い。


 道具が良いと、ここまで味が変わるのか。

 表面はカリッと香ばしく、中はジューシー。火の通りが均一で、肉の旨味が最大限に引き出されている。


『マスター、最高の出来栄えですね。ミスリルの無駄遣い……いえ、有効活用です』


「だろ? これからは毎日これが食えるぞ」


 俺はワインを傾けながら、夜空を見上げた。

 足元では、満腹になったシロが、新しいマイホームの中で丸くなって眠り始めている。

 ミスリルの壁が、月明かりを浴びて淡く光り、シロの寝顔を優しく照らしていた。


 なんて贅沢で、穏やかな夜だろう。

 伝説の金属で作った調理器具と、犬小屋。

 世界中の職人が聞いたら卒倒するかもしれないが、俺にとってはこれこそが「最高の宝物」の使い方だ。


 明日からは、この道具を使ってエルフたちにも美味しい料理を振る舞おう。

 そして、シロと一緒にこの領地をもっと住みやすくしていくんだ。


 俺は幸せそうに寝息を立てるシロの頭を一度だけ撫でてから、自室へと戻った。

 夢のような開拓生活は、まだまだ続く。


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