スイーツは友情の味!?ござるランドから来た使い魔・ぽこべぇ!
放課後の教室。夕焼けの光が斜めに差し込み、机の上に長い影を落としていた。
窓際の席に座るいろはは、こっそりため息をついた。
「次なる使命は、いったいどこにあるでござるか……」
誰にも聞こえぬよう、心の中でつぶやいたそのとき――。
机の引き出しが、ほんの少しだけ勝手に開いた。
中から、ひょこりと現れたのは、小さくてふっくらした和風のたぬき。
「……ぽこべぇ!?」
思わず声が出そうになったいろはは、口元を両手で押さえる。
「しーっ! 声がでかいでござるよ、いろは殿!」
「そ、そなた……なぜここに!? まさか、ござるランドから……!?」
「うむ。久しぶりでござるなぁ。いろは殿をお助けするため、拙者、再びいろは殿の使い魔としてまかり越した次第にござる!」
「……本当に来てくれたでござるか、ぽこべぇ……!」
懐かしさと心強さが一気にこみ上げ、いろはは思わず頬をゆるめた。
――ぽこべぇ。いろはが“ござるランド”で修行していたときの、大切な仲間。共に忍術を学び、何度もふざけ合い、時に真剣な任務にも挑んだ、よき相棒である。
「変わっておらぬでござるな、その丸っこさ……」
「ふっふっふ、拙者の変化の術、今や三段進化するまでに極めたでござるよ!」
その瞬間、ぽこべぇの体がぼんやり光を放つと、小さな文鎮の姿に変わった。
「……まさか、それが変化の術の最新版でござるか」
「うむ。これで誰か来ても、完全に机の一部でござる!」
しかし、そこへ――
「いろはー、まだ教室にいたんだ? あ、机の上にかわいい文鎮あるね!」
「ばっ、ばかっ、見られるでござるっ!」
ぽこべぇは小さく震えながら、文鎮のふりを続けた。
「そ、それは……あの、骨董市で買ったレアものでござるよ!」
「あー、さすがいろは、趣味が渋い〜。じゃ、また明日ね〜」
ドアが閉まり、足音が遠ざかると――ぽこべぇはぶるるっ、と震えて元の姿に戻った。
「ふぅ〜〜、ぎりぎりでござったな」
「危なかったでござるな……しかし、相変わらず見事な変化術でござる」
「ふふん♪ 人に見られず支えるのが、拙者の流儀でござるからな!」
放課後、いろはの部屋。
こたつの上で、ぽこべぇはおせんべいを抱えながらも真剣な顔をしていた。
「さて、改めて申し上げるでござる。拙者、ぽこべぇは、いろは殿の使い魔としての任を再開しに参ったでござる」
「うむ、拙者も歓迎するでござる。これより、また共に戦う仲となるでござるな」
二人はぴしっと正座をし、小さな手と人間の手をしっかり合わせた。
「再びの契約、成立でござる!」
「契約、完了でござる!」
その瞬間、机のランプがふっと灯り、わずかに光が二人を包んだ。
「しかし……そなたがくるほどの事態とは、この人間界で一体何が起きようとしているのでござるか?」
「どうやら、“闇に心を染められし者”が、人間界に増え始めているらしいでござる。とくに、若き乙女たちの心は狙われやすいのだとか……」
「なんと……それは、拙者の通う学園が標的となっても不思議ではないでござるな」
「そういうことでござる。そなたの力が必要でござるよ、いろは殿」
ぽこべぇは真剣なまなざしで、いろはを見上げた。
いろははぐっとこぶしを握りしめる。
「わかったでござる! どんな闇が来ようとも、そなたと共に、拙者、立ち向かうでござるよ!」
「それでこそ、いろは殿! では明日からは、筆箱の陰に潜伏しつつ、授業にも同行するでござるよ」
「……まこと、頼もしき使い魔でござるな」
二人はほほえみ合いながら、ふたたび始まった“共闘の日々”に胸を躍らせるのだった。