転校してきた魔法少女!?正体は秘密でござる! ②
昼休み。学園の屋上は春の陽気に包まれていた。薄く吹く風が髪を揺らし、遠くで遊ぶ生徒たちの笑い声が聞こえる。
さくらは屋上のベンチに座り、サンドイッチをかじりながら、少し眉をひそめて隣の風間いろはを見る。
「ねえ、あんた……本当に何者なの?」
いろはは空を見上げて、ぱっと笑顔を輝かせる。
「拙者はござるランドの魔法少女、風間いろは。選ばれし姫にして、密偵でござる!」
さくらは苦笑した。
「密偵っていうわりには、派手すぎるし、隠密の気配ゼロじゃん……」
「拙者、隠密は苦手でござる。堂々と正義のために立ち向かうのが信条でござるよ!」
天然でまったく隠そうとしないいろはに、さくらは呆れながらもどこか憎めない気持ちになる。
「ま、まあいいわ。そんなことより……」
その瞬間、空気が突然ひんやりと冷たくなり、周囲の空が暗く曇った。
「……来たな、アクダイカンの眷属」
遠くから黒い霧がもくもくと湧き上がり、校庭を覆い尽くし始めた。
「これはただ事じゃない……!」
さくらが慌てて立ち上がると、いろははにっこり笑い、刀のような杖「チャキ丸」を背中から取り出した。
「いざ、参るでござる!」
夕暮れの商店街は、いつもと違う異様な空気に包まれていた。
和菓子屋の前で、巨大なシュークリームの怪物が暴れ回っている。真っ白なクリームが飛び散り、濃厚な甘い香りが鼻をつく。
「甘いものを粗末にする奴など、絶対に許せぬモォ〜〜!!」
その怪物は巨大なフォークのような手で、店先の和菓子や買い物袋を次々とひっかき回し、子供や通行人たちは悲鳴をあげて逃げ惑う。
しかし、その怪物の正体は、甘いものを禁止された女子中学生だった。
彼女は家族から「甘いものは禁止」と厳しく言い渡され、毎日我慢を強いられていた。甘いお菓子への強い憎しみとストレスが、闇の力によって怪物化を引き起こしてしまったのだ。
「あわわ、どうしよう……!」
混乱する人々の中で、風間いろはは悠然と草鞋を脱ぎ、静かに地面に杖を突き立てた。
「さくら殿、ここは拙者に任せるでござる!」
「……本当に大丈夫なのよね?」
「安心するでござる。拙者の力、見せるときでござるよ!」
周囲の空気が一変し、いろはの身体を柔らかな魔法の光が包み込む。袴が瞬く間に輝く魔法袴に変わり、背中の杖は眩しい刀の形状に変化した。
「まじかる☆変化!GOZARU☆モード!」
いろはは軽やかに宙を舞い、キラリと光る刀「チャキ丸」を抜いた。
シュークリーム怪物が大きな口を開けて襲いかかる。
「チャキ丸!斬りっ!!」
刀が弾く風の音が響き渡り、いろはの動きはまるで舞踊のようにしなやかだ。
しかし、いろはの攻撃はまさに「刀で斬る」物理的な一撃そのもので、光や魔法陣のような派手な魔法のエフェクトはほとんどない。
さくらは目を見開いて呟いた。
「それって……本当に魔法……?」
「ふふん、魔法でござるよ!魔法は形にとらわれぬのが真髄でござる!」
いろはは天然の自信満々で言い放ち、再び怪物に斬撃を繰り出した。
「GOZARU☆GOZARE!」
刀先から放たれた光の斬撃が怪物のクリームの表面を裂き、その身体をビシッと真っ二つに切り裂いた。
怪物はふわりと蒸気をあげて崩れ落ち、中から現れたのは泣きじゃくる一人の女子中学生だった。
「どうして……?」
涙を拭いながら彼女はぽつりとつぶやく。
「甘いものは、みんなで分け合って笑いながら食べるからこそ、美味しいんだよ……だから、無理に禁止しないでほしい……」
いろはは優しく彼女の肩に手を置き、まっすぐに目を見つめて答えた。
「そうでござるな。拙者も皆の笑顔を守りたいでござる!」
商店街には再び平和が訪れ、春の柔らかな陽射しがいろはの背中を暖かく包んだ。