表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

完全に女になった私 コスプレに彩られる新生活

 夏の学祭で最優秀賞を取ってから数週間。小鳥遊たかなし ひなの大学生活は、ますます充実したものへと変化していた。学祭が終わった後も、漫画研究部やコスプレ好きの仲間たちと連携し、新作コスチュームを作ったり撮影会を企画したり。SNSのフォロワーはさらに増え、投稿への反響は日ごとに膨れ上がっている。


 さらに、学内では「雛ちゃん、学祭で優勝したすごい子だよね?」と噂が広がり、他学部の学生からも声をかけられる機会が増えた。美人でスタイルが良く、それでいて控えめな性格(+運動音痴)というギャップがウケているらしい。キャンパスを歩くだけで「あ、雛ちゃんだ」「可愛いー!」という(ささや)きが聞こえてくるほどだ。


 当の雛は、「照れるからやめてよ」と言いながらも、まんざらでもない様子。コスプレイベントへのモチベーションは高まり続け、毎日のように「次は何着てみようかな」とワクワクしている。


(昔からアニメや漫画が好きだったし、私にはコスプレしかないよね……今はそれが何より楽しいし、大学でも公認されてるんだから、サイコー!)


 かつて「男の教師だった」という記憶は、もう微塵(みじん)も残っていない。「佐伯 剛」という名前を口にすることすらできず、もしその話題が出ても「誰それ?」と首をかしげるだけだ。Rewriteアプリの影響で、周囲の世界も完全に「雛は最初から女子学生」という認識に統一されている。何の違和感も、トラブルもない。


 一方、雛には新しい日常がもう一つあった。恋人となった織田(おだ) 翔太(しょうた)との甘い大学生活である——。


 ――――――


 昼休み。大学の中庭にあるベンチで、織田がスマホをいじりながら雛を待っていた。先輩男子である彼は3年生、雛は1年生という上下関係だが、恋人関係になってからの二人はすっかり自然体で過ごしている。


「お待たせ……先輩!」


 雛が小走りでやってくる。身長150センチにも満たない小柄な体で、揺れる大きな胸を押さえながら照れ笑いを浮かべている。その仕草が男たちの視線を集めてしまうが、雛本人は気づいていない。


「ああ、雛ちゃん。ちょうど今、学祭コンテストの写真を整理してたんだ。ほら、これ見てよ」


 織田がスマホの画面を差し出すと、そこには学祭当日のステージで踊る雛の姿が映っていた。ドレスが大きく翻り、豊満な胸が躍動感たっぷりに揺れている瞬間を捉えており、雛は見ただけで顔を赤らめる。


「うわぁ……こんなに胸強調されてたんだ……恥ずかしいよ……」 「いや、それがウケて優勝したんだろ? それに、雛ちゃんの可愛さが全部詰まったベストショットだと思うけどね」


 ニヤリと笑う織田。その目はどこか狡猾(こうかつ)な光を宿しつつも、雛に対しては優しく注がれている。雛は照れ笑いしながら、織田の肩に軽く寄り添う。


「……ありがとう。先輩が協力してくれたから優勝できたんだもんね……ほんと嬉しかった……」 「そう言われると照れるな。でも、雛ちゃんが頑張ったからこその結果だよ」


 そんな甘い言葉を交わし合いながら、いつの間にか二人はベンチで手をつないでいる。周囲の学生から「あれ? 織田先輩と雛ちゃん、付き合ってるんだって?」という視線を向けられても、雛はもう気にしない。むしろ恋人として堂々とイチャイチャしている姿を見られても嬉しいと思うようになっていた。


(ああ、私……高校の頃から先輩に片思いして、大学入ってからもずっと告白して……やっと彼女にしてもらえたんだよね。夢みたい……)


 Rewriteアプリが作り出した“都合のいい記憶”に、雛はもう完全に浸かっている。男だった記憶など、夢の中の幻ですらない。


「そうだ、雛ちゃん。この前話した新しいコスプレイベント、来月のコミック即売会でやるやつ……一緒に参加しない?」 「え、あ……もちろん行きたい! 衣装とかどうしようかな……最近流行りの魔法少女モノに挑戦するか、オリジナルで行くか……うんうん、悩む!」


 目を輝かせる雛に、織田は「ふふ」と微笑んで頭を撫でてくる。長い髪を撫でられるのはくすぐったいが、雛は幸せそうに身を委ねる。


「よーし、俺もできる限り協力するからさ。せっかくだし、また目立って楽しもうよ」 「うん! 頑張る!」


 こうしてイチャついていると、さらに周囲の学生が冷やかし混じりに「キャー、バカップル!」と(はや)し立てたりする。雛は「バカ!」と軽く恥じらいながらも、内心「私たちお似合いだよね」と誇らしく思ってしまうのだ。


 ――――――


 その日の放課後。雛はメイド喫茶のバイトがない日だったので、部室で漫画研究部の先輩たちと次のイベント計画を練っていた。星川(ほしかわ) (れい)や他のコスプレ仲間も集まり、あれこれ雑談しながらコスプレ衣装の試作をしている。


「雛ちゃん、今度はウィッグ使うの? それとも自前の髪?」 「うーん、私の髪も長いからアレンジ次第なんだけど、キャラクターに合わせてウィッグを被ってみたい気もするし……どっちがいいかなあ?」


 そんな悩みを共有し合っていると、SNSの話題に移る。麗がスマホを片手に「あ、そういえば雛ちゃん、最近の投稿すごい伸びてるよね!」と驚いた声を上げる。


「ほら、学祭の写真とか、告白成功シーンの動画とか……バズりまくってて、一晩で数千いいねとかついてるじゃん!」 「えっ、ほんと……? そんなに多いんだ……」


 SNSのチェックは欠かさずしている雛だが、フォロワー数が一気に増えすぎて、どこまで拡散されたか把握できていなかった。改めてスマホを開き、通知を見てみると、たしかに「○○さんがあなたをツイートにメンション」などの記録が大量だ。


「すごーい、雛ちゃんもうちょっとでフォロワー3万人突破じゃない?」 「3万……!? うわ、前は1万いっただけでも大騒ぎしてたのに……」


 嘘のような急伸。それだけ「巨乳美少女がダンスステージで優勝、さらに先輩に告白して恋人に!」というドラマチックなシチュエーションが人々の注目を集めたということだろう。実際にはRewriteの改変要素も大きいが、今の雛にとってそれは“元から自分が積み上げてきた功績”だ。


「これなら、コスプレ関係の仕事のオファーとか来るかもよ? 企業案件とか……すごいね、雛ちゃん!」 「え、そんな大げさな……私なんかまだまだ……」


 雛は照れるが、周囲は大盛り上がり。星川 麗などは「私がマネージャーになってあげようか?」と冗談めかしている。雛は苦笑しつつも、「もっとクオリティの高いコスプレがしたいし、みんなにも褒めてもらいたい……」と欲張りな気持ちが芽生えているのを自覚する。


(もしかして私、このままコスプレの道を極めていくのかも……ううん、それも悪くないな)


 もうすっかり“コスプレ大好きな女子大生”がアイデンティティになっている。これからもファッションやメイクを研究し、どんどん新作をSNSに投稿してファンと交流していくのだろうと思うと、ワクワクが止まらない。


 ――――――


 部室作業を終え、夕暮れの校舎を後にした雛は、女子寮に戻る前に織田と待ち合わせて外食することになっていた。恋人同士になってから、二人でディナーに行く機会が増えたのだ。


 しかし、合流場所に行くと、織田は何やらスマホ画面を凝視しながらニヤニヤしている。雛が「先輩?」と呼びかけると、はっと顔を上げた。


「ああ、雛ちゃん。ごめんごめん、ちょっと面白いアプリ見ててさ」 「面白いアプリ……? どんなの?」 「へへ、企業秘密ってことで。そろそろ行こうか?」


 そう言って笑う織田のスマホ画面には、確かにあのRewriteアプリのアイコンが映っていた。雛は今やその存在をまったく意識できない。ただの“先輩のスマホ”という認識しかなく、深く突っ込むこともない。


(あの日、コンテスト終了後に告白してからは、もう『男に戻る』なんて話も消えちゃったよね……)


 そう、思い返すことすらできないほどに、自分がかつて“男の教師”だったなどという事実は記憶から抹消されている。Rewriteが根こそぎ書き換えた世界では、織田がアプリを使って何を企もうとも、雛は「彼は面白がってスマホのゲームを見ているんだろう」くらいしか思わないのだ。


「今日のディナー、何食べる? パスタ? それとも和食?」 「んー、先輩は? あまり高いとこは無理だよ、学生だし……」 「適当にイタリアンでも行こうか。俺の(おご)りでいいよ。せっかく彼女が可愛いんだし、たまには贅沢させてあげたいしね」


 さらりと“彼女”呼びされると、雛は嬉し恥ずかしで「えっ……ありがとう。でも悪いよ……」と腰が引ける。それでも織田の手に導かれ、二人で仲良く歩き出す。周囲の学生カップルもそうだが、イチャつきながら歩く姿は微笑ましく映るだろう。


(何か、夢みたい。こんなに幸せでいいのかな、ひな……)


 自分で自分の名前を呼んでしまうのは、今や当たり前。雛は心の中でも、一人称が「ひな」か「私」になっていることにまったく気づかない。Rewriteアプリの効果により、完全に“小鳥遊 雛”として自分を受け止めている。


 ――――――


 その後、夜になって女子寮へ戻った雛は、大浴場で友人たちと談笑したり、部屋で衣装のアイデアをまとめたりしてから就寝の準備に取りかかる。下着の上下を脱ぐ際に、鏡に映る自分の身体を見ると、相変わらずそのプロポーションにドキッとするが、もう慣れたもの。いつしかブラジャーのホック外しも完璧にこなせるようになった。


「うーん、今日も暑いから髪乾かすの面倒だな……でも、女の子としてはしっかりケアしないとね」


 部屋の洗面所でドライヤーをかけながら、その髪をブラッシング。ふわりと広がる艶やかな黒髪が、鏡に映るスタイルをさらに引き立てる。豊満な胸から華奢(きゃしゃ)なウエスト、そしてすらりとした(もも)。背が低い分、全体が小動物的な愛らしさを(まと)っているのが雛の魅力だ。


 ドライヤーを終えパジャマに着替えると、隣のベッドで星川 麗がゴロゴロとくつろいでいた。やはり仲の良いルームメイトとして、今日の出来事をおしゃべりするのは恒例行事だ。


「雛ちゃん、織田先輩との仲はどう? 相変わらずラブラブなの?」 「も、もう、からかわないでよ。……まあ、うん。デートしたり、ごはん食べに行ったり、普通に楽しいよ」 「そっかー。ほんとによかったね。雛ちゃん、最初はあんまり自信なさそうだったのに、今や大学一の有名人だもんね!」


 そう言われて思い返すが、雛の記憶では「自信がなかった」というより「ずっと片思いして振られ続けていた」苦い過去がある。どこか切ない思いもあるが、今は晴れて恋人になれたのだから何も問題はない。


「麗先輩はどうなの? 最近、メイド喫茶で仲良くしてる男性スタッフとか、いないの?」 「んー、どうだろう。私にはまだ『この人!』ってほどの相手はいないかなあ。雛ちゃんのほうが先に幸せつかんじゃったよね」 「あ、そっか……ごめん、ひとりで幸せになっちゃって」 「何それ、謝らなくていいよ。私も雛ちゃんが喜んでると嬉しいもん。ルームメイトだし、仲間だしね」


 先輩の優しい微笑みに、雛は自然と顔を(ほころ)ばせる。こうして何気ない会話をする時間が、とても大切で愛おしい。男だった過去の記憶など足を踏み入れる隙もないほど、女子学生としての日常が幸せに満ちている。


「ねえ、明日……一緒に買い物行こうよ。コスプレ用のコスメとか新しい化粧品、見たいんだけど……」 「うん、いいね! じゃあ私も気になってるリップあるし、ついでに見てこようかな」


 コスメ。メイク。ファッション。すっかり「女子トーク」が板についた雛は、もう何の違和感もなくそんな話題に花を咲かせている。


(……これは当たり前のこと。ずっと昔から、そうだったんだよね)


 Rewriteされた記憶は、雛の心に絶対的な現実として根づいている。


 ――――――


 翌日。雛は朝から織田と連絡を取り合い、軽いメッセージを交わしていた。まるで普通のカップルのように「おはよう、昨日はゆっくり眠れた?」などという何気ないやりとりだが、雛にとっては胸がキュンとする甘い時間。


「ふふ……幸せ……」


 ポツリと呟き、ベッドで体を伸ばす。こぼれ落ちそうな胸の重みも、いまや愛しく思える。これが“私”なんだ、と自然に認めているのだから不思議なものだ。


 支度を済ませ、麗と外出する前に、雛は自分のスマホをチェックする。SNSではフォロワーから「次のイベント楽しみにしてます」「雛ちゃんいつか会いたい!」というコメントがたくさん。さらにダイレクトメッセージでもファンアートを送ってくれる人がいたり、企業っぽいアカウントから「コラボしませんか?」という連絡が来ていたりする。


「うわ、私なんかが企業コラボなんて……大丈夫かな」


 少しだけ躊躇(ちゅうちょ)しながらも、「興味あります」程度の返信をしてみる。もし実現すれば、コスプレ活動の幅が大きく広がるだろうし、大学生のうちからプロの仕事に触れるチャンスでもある。


(ひな、もっと頑張って、みんなに喜んでもらいたい!)


 そんな意気込みを抱きつつ、寮を出る。これから麗と合流し、駅前のショッピングモールでコスメや衣装用の素材を探す予定だ。


 ――――――


 午後いっぱい買い物を楽しんだあと、夜は麗と二人でファミレスに入り、軽く食事を済ませる。帰り道、ふと空を見上げると星が綺麗で、雛は「なんだかロマンチックだね」と笑みをこぼす。


「そういえば、織田先輩は今日はバイトって言ってたっけ?」 「うん、夜遅くまで入るって。終わったら連絡くれるって言ってたよ」 「そっかー。雛ちゃん、夜中に電話来たら対応するの?」 「もちろんだよ。先輩なら何時でも大歓迎」


 恥ずかしげもなく言う雛に、麗は「アツアツね~」とからかう。だが、雛もそれを楽しそうに受け流している。何気ない、けれども幸せに満ちた女子トーク。数ヶ月前には想像もつかなかった日常だが、いまの雛には唯一無二の“当たり前”だ。


 寮へ戻り、バスタオルを片手に「お風呂行こ!」と誘われ、大浴場でのんびり湯に浸かる。今日も別の友人が来ていて、あれやこれやの大学ネタや恋愛話で盛り上がりながら、裸でわいわいと過ごすのが楽しい。その中で「雛ちゃんの胸、相変わらずすごいね~」とつつかれても、今は照れながら笑い返すだけだ。


(昔の私だったら——いや、もういいや。そんなの思い出せないし、必要ないよね)


 ぼんやり湯気の向こうを見つめながら、胸の奥がじんわり温まる。Rewriteアプリが引き起こした奇跡(あるいは悪戯)の末端で、雛は完全に自分を確立していた。あとは、この幸せな日常を存分に楽しむだけ。大学生活はまだ始まったばかりだし、コスプレ活動も更なる飛躍が見込める。


 ――――――


 翌朝。目を覚ました雛は、スマホに届いているメッセージをチェックする。織田から「おはよー、今日も頑張って!」と一言入っていたので、「うん、頑張るね。先輩もファイト!」と返事。バイトで疲れているだろうに、律儀に連絡をくれるところが嬉しい。


「さあ、ひなも負けずに頑張らなくちゃ……」


 パジャマのボタンを外して着替えながら、鏡に映る自分の姿を見て微笑む。可愛い下着をつけ、ちょっと甘めのファッションに身を包む。大学の授業がある日は、動きやすいコーディネートにしつつも、女子力を感じさせるポイントを忘れない。そういうおしゃれの積み重ねが、今は何より楽しくて仕方ない。


 星川 麗が「おはよー、今日早いんだね」と声をかけてくるので、二人で軽く朝食を摂ってからキャンパスへ向かう。木々が生い茂る小道を歩けば、周囲の学生が「あ、雛ちゃんおはよー」「昨日の投稿見たよー」と声をかけてくる。オープンキャンパスの案内ポスターが貼られた掲示板では、友人が「今度の夏イベント、参加しようかな」と話しており、雛も「じゃあ一緒にコスプレしてみる?」と自然に誘っている。


(私、本当に充実してる……)


 改めてそう思う。かつては“男”として生きていた——などという事実は、もはや思い出せない幻。Rewriteがもたらした新しい日常は、違和感なく雛を幸せへと導いていた。


 ――――――


 そして物語の幕引きは、大学の中庭で織田 翔太がスマホを手に、物憂げな笑みを浮かべているシーンだ。傍目には、単にスマホを操作しているだけに見えるが、そのアプリはRewrite。アイコンをタップすると、ターゲット一覧がズラリと表示され、彼は指先でスクロールしながら独り言をこぼす。


「雛ちゃんの書き換えは大成功だったな……あれだけ男気質だった教師が、今じゃあ可愛いコスプレ女子。俺の彼女ってわけだ。いやあ、最高に愉快だよ」


 誰に話すでもなく、独りごちる。周囲の学生は何も知らず、織田をただの漫画研究部の先輩だと思っている。だが彼は、とんでもない力を手にしてしまったイタズラ好きの青年というわけだ。


「さて……次は誰を変えようか? もっと派手なやつを探してみるのも面白いし、あえて地味な誰かをド派手なギャルにするのもいい。はたまた別の教員……いや、いっそ学長でも変えちゃう? うふふ……楽しみは尽きないな」


 Rewriteアプリの画面が妖しい光を放ち、織田の指先がタッチパネルをなぞる。もし、これが次のターゲットを確定させる行為だとしたら、この大学にはまた新たな「書き換えられた人物」が誕生することだろう。


 カメラはそのままズームアウトし、織田が不敵に微笑む姿を映し出す。彼のスマホ画面に映るアイコンの奥で、世界はゆっくりと書き換えられる準備を整えているのだ——。


 ――――――


 一方、雛はキャンパスの廊下でメイクを直しながら、次の授業へ向かうところだ。明るい笑顔で「じゃあ行ってくるね!」と友達に手を振り、胸を揺らしながら小走りで移動する。その姿を見て「雛ちゃん、可愛い~」と言う男子学生がいるが、雛は「えへへ、ありがとう!」と照れ笑いを浮かべる。そこにかつての“教師としての厳格さ”は微塵もない。


(これからも、ひなは“ひな”らしく、コスプレやSNSを頑張っていくんだよね。だって、ずっと好きだったことなんだから……)


 何の疑いも抱かないまま、彼女は新しい未来を歩んでいく。大学1年生の夏、コスプレデビューで最優秀賞を勝ち取り、恋人まで手に入れた彼女には、まだまだ無限の可能性が開けている。


 もう“男だったころ”の人生は帰ってこない。Rewriteアプリの存在を知る者はほとんどおらず、雛自身もその記憶を全く失っている。残されたのは、女子大生としての賑やかで楽しい日々。そして、愛する先輩との甘い恋愛。


 これが——“書き換えられた新入生女子”の、最後の風景だ。

 胸の鼓動は軽く、メイクを整えた可愛い顔に笑みが咲き、周囲の友人たちから注がれる称賛にも笑顔で応える。男だった記憶の哀愁は、一片の名残も残されず、陽射しに溶けるように消えてしまった。雛は心から、今の自分を肯定して生きていく。


―――――――――――――――――――――



<エンディング>

 かくして、体育講師・佐伯 剛はRewriteアプリの力で完全に“女子大生・小鳥遊 雛”へと変化し、最後の記憶すら消え失せた。彼(彼女)は学祭で華々しく優勝し、先輩への告白を成就させ、周囲の祝福を浴びて新しい人生を歩み始める。

 一方、Rewriteアプリを操る織田 翔太は、次なるターゲットを探しては、不敵な笑みを浮かべている。世界をいくらでも書き換えられるその力は、まだ尽きることなく、キャンパスのどこかで新たな書き換え劇を準備しているかもしれない。

 しかし雛にとっては、そんなこととは無縁の幸せが待っていた。もう二度と“男だった自分”は戻ってこない。今の彼女は、心から自分が女子大生であることを受け入れ、コスプレやSNSを楽しむ日々を満喫しているのだ——。


(完)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ