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二次元の向こう側で、私はあなたに恋をする ~オタク女子と外国人王子の甘い距離~  作者: 霧崎薫


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2/10

第一章:光の交差点

### 1


 それから一週間が経った。


 真奈は、いつも通りカウンターの中で働いていた。しかし、彼女の心はどこか落ち着かない。アレックスは初来店以来、毎日のように「ルーチェ」に顔を出すようになっていた。


「いらっしゃいませ」


 チャイムの音に振り返ると、そこにはまたしてもアレックスの姿があった。今日も完璧なスーツ姿。しかし、その表情には疲れが見えた。


「お疲れ様、真奈さん」


「アレックスさん、今日もお仕事ですか?」


「ああ、新しいプロジェクトの立ち上げで忙しくて……。でも、ここに来るとなぜか心が落ち着くんだ」


 アレックスは、いつもの窓際の席に座った。真奈は彼の好みを覚えていた。


「では、いつものホットコーヒーと、今日のケーキのマロンタルトを」


「君は僕の好みをよく覚えているね。嬉しいよ、ありがとう」


 その言葉に、真奈は頬が熱くなるのを感じた。


 支社立ち上げの仕事は想像以上に大変なようだった。アレックスは、日本での新しいビジネスモデルの構築に奔走していた。文化の違いや、時差のあるアメリカ本社とのやり取りも、彼を疲れさせる要因だった。


 しかし、そんな中でも彼は真奈との会話を楽しむ余裕を持っていた。


「真奈さんは、この仕事は好き?」


「はい。お客様の笑顔を見るのが嬉しいです」


「それ、すごく素敵な答えだね」


 アレックスは、相手の言葉に真摯に耳を傾ける癖があった。それは、真奈にとって新鮮な経験だった。


### 2


 その日の夕方、真奈は休憩室で新刊のBL小説を読んでいた。主人公は、完璧な御曹司。その彼が、平凡なサラリーマンに心を奪われていく展開に、真奈は胸を躍らせていた。


「その本、面白そうだね」


 突然の声に、真奈は飛び上がりそうになった。振り返ると、そこにはアレックスが立っていた。


「あ、これは……! そ、その……!」


 顔を真っ赤にして弁解しようとする真奈に、アレックスは優しく微笑んだ。


「大丈夫だよ。実は僕も少し知ってるんだ。アメリカの友人にBLが好きな人がいてね」


 その言葉に少し安堵する真奈。しかし、内心では動揺が収まらない。完璧な人に見える彼が、自分のような「オタク」の趣味を理解してくれるなんて。


「それに」


 アレックスは続けた。


「真奈さんが好きなものを恥じる必要なんてないと思う。熱中できるものがあるって、素敵なことじゃないかな」


 その言葉は、長年「オタク」であることを隠してきた真奈の心に深く染み入った。


「本当に……そう思いますか?」


「もちろん。僕は、真奈さんがそういう趣味を持っていることも含めて、とても興味深い人だと思っているよ」


 アレックスの言葉は、いつも真摯だった。その態度に、真奈は少しずつ心を開いていく自分を感じていた。


### 3


 週末、真奈は秋葉原でBL作家のサイン会に参加していた。お気に入りの作家の新刊発売記念イベントだ。


「ありがとうございました!」


 サインをもらい、会場を後にする真奈。胸の中は幸せな気持ちで満たされていた。しかし、その表情はすぐに曇る。


(こんな趣味のある私のこと、アレックスさんは本当に理解してくれているのかな……)


 不安な気持ちを抱えながら、真奈は電車に乗り込んだ。そして、「ルーチェ」に向かう。休日だが、シフトが入っている。


 カフェに到着すると、意外な光景が目に入った。


「アレックスさん?」


 カウンター席に座っていたアレックスが振り返る。


「やあ、真奈さん。サイン会、楽しかった?」


「え? どうしてそれを……?」


「君が楽しみにしていたって言ってたから、覚えていたんだ」


 その言葉に、真奈は胸が熱くなった。彼は、こんな些細なことまで覚えていてくれたのだ。


「実は、僕も少し勉強してみたんだ」


 アレックスはスマートフォンを取り出した。画面には、BL作品のレビューサイトが表示されている。


「君の好きな作品を理解したいと思って。確かに面白いものが多いね。特にストーリー性の高いものは、普通の恋愛小説としても楽しめる」


 真奈は、言葉を失った。これまで誰も、彼女の趣味をここまで理解しようとしてくれる人はいなかった。


「ありがとう……ございます」


 真奈の目に、涙が浮かんでいた。


 その日から、二人の関係は少しずつ変化していく。アレックスは、真奈の趣味について真摯に質問してくるようになった。そして真奈も、少しずつ自分の想いを言葉にできるようになっていった。


 それは、まるで閉ざされていた扉が、少しずつ開いていくような感覚だった。


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