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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです
——十五年後
銀竜ソラは、ぐったりと目を覚ましました。初産はしんどい、と聞いていたとおりです。あのまま手術室で死ぬんじゃないかと思いましたが、こうして病室の天井が見えるということは、ちゃんと生きているのでしょう。
人生で一番と言っていいくらいの大仕事を終えた後なだけに、いまはどんな場所でも眠れそうな気がしました。シーツのすべすべ感が心地いい。このままもうひと眠りしようと、目をつむりかけたときです。
病室じゅうを揺らす泣き声が、枕元から飛び出ました。
その声さえ愛おしいのですが、身体が重いのもまた事実……どうしようか悩んでいると、傍にいた男性が赤ちゃんを抱いて、よしよし、と優しくゆすりました。男性の腕が心地よかったのか、赤ちゃんはまた、安らかな寝息を立て始めます。
「わたしにやらせてよ」
「抱き上げる気力もないくせに」
旦那はよく見ています。ソラは観念して、赤ちゃんのことは旦那に任せました。彼の腕が自分だけのものでなくなったのは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ悔しく思います。
窓の外に目を向ければ、病院の中庭で、大きな桜が咲きほこっています。暖かい風に吹かれ、桃色の花が気持ちよさそうに揺れていて……
ソラが言います。
「名前、どうしよっか」
ふたりでそれとなく考えてきましたが、納得いく案が出ないままでした。
男性が言います。
「女の子か」
「女の子ね」
かわいい子に育ってほしい。でも、おかあさんなんて嫌い、とは言われたくない。生まれたばかりの赤ちゃんに、将来旦那を取られるとは思わないけど、やっぱり、その愛らしい顔が、ちょっとだけ憎らしくなる。
ふと、ソラは、ぴったりな名前を思いつきました。
名前というか、ただの愛称なのですが、これ以上ないと思います。
男性が言います。
「思いついたんだけど」
「奇遇ね、わたしも」
と言っている間に、赤ちゃんがまた、目を覚まします。くりくりとした瞳で、はじめての世界を覚えようとするように、真っすぐ男性を見つめています。
その頭に輪っかはなく、白い翼もありません。
ですが、ふたりには、この子が本物の天使のように見えました。
男性は、眼鏡越しに優しい瞳を浮かべ、その子の名前を呼びました。
「おはよう、くーちゃん」
——FIN——
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