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聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと追い出されたけど最強なので問題なし〜  作者: 農民ヤズー


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捨てられない場所

 様子を一変させたリリエルラの姿を見つつルージェやスティアへと目配せをしたが、二人とも話は俺に任せるようで口を開こうとはしない。


「……それは、昼間断ったはずだが」


 未だに頭を下げ続けているリリエルラを見下ろしながら、わざわざリーダーがここまで来た理由を探るように言葉を紡ぐ。


 おそらくではあるが、リーダーが来た理由はわかっている。ルージェに調べてもらった情報もあるが、それを元にして考えると、それだけ追い詰められている状況だということだろう。


 だが、それはあくまでも俺の予想だ。その真意がわからないことには動きようがない


「はい。ですが、その上で再びお願いに参りました。どうか、協力していただけないでしょうか」

「なぜそこまで俺たちにこだわる」

「現在の私達『月』とあなた達を襲った『影』の状況はご存知でしょうか?」

「敵対関係であろう。そして、現状そなたらの方が圧倒的に押されていると」

「……はい。悔しいことですが、その通りです。ですので、一度『影』と戦い、退けた実力をもつあなた方と手を組む……いえ、てを貸していただくために、こうして私自らお願いに参りました」


 まあ、そうだろうな。そう言うだろうとは思っていた。

 問題なのはこの言葉がこの者の本心なのか否かだが……


「お願いします。私たちのギルドは闇ギルドではありますが、無法者の集まりというわけではありません。無辜の民を傷つけたこともありません。ただ、訳あって虐げられているものを保護し、生活しているだけなのです」

「訳あって、か。例えば、そなたら夢魔のように、か?」

「はい。まさしく」


 裏ギルドであっても無法者ではない、か。全ては弱者を助けるため。そのために『揺蕩う月』と言う裏ギルドを作った。

 もしそれが本当なのであれば、その在り方は俺の求めた、俺が目指したものなのではないだろうか?


 そう考えたところで、それまで俺に話を任せていたスティアが疑問の言葉を挟んできた。


「どゆこと?」

「世の中には、ただ生きているだけで責められるものがいるのだ。そのもの自身がなにをしたと言うわけでなかったとしてもな」

「なにそれ。そんなひどいことがあるの!?」


 スティアは俺の言葉を聞いて憤りを見せたが、こんな話はそう珍しいことではない。


「ある。親が奴隷だったからと言うだけで生まれた子供は奴隷として扱われ、親が人殺しであったのなら子も人殺しだと虐げられる。ただ特定の種族に生まれたから。ただ親が普通でなかったから。ただ見た目や能力が普通とは違っていたから。そういった些細なことで虐げられるものはどこに立っているものだ。魔創具による違いもその一つだな。俺や、お前のように」


 本人が何かをしたわけではなく、自分達の常識から外れた存在だから悪魔の子や異端と呼ぶ地域は存在している。自分達の不都合を隠すために理由をつけて追い出す者達も存在している。


 喩えば、俺やスティアのように、親が望んだ魔創具を作らなかった、あるいは作れなかった者のようにな。


「なら、アルフの魔創具が〝特殊〟だ、って知ったから声をかけたってのもあるのかな?」


 スティアにつづき今度はルージェがそう問いかけたが、なるほど。それならばただ〝自分達の敵と戦ったから〟というだけの理由よりも頷けなくもない。断られてもなお、こうしてリーダーが頼みにくるのも、ようは同情してもらおうとしたのだろう。

 事実、昼まにリリエラから話を聞いた時よりも、些細な違いではあるが心情的には『揺蕩う月』に傾いている。


「……はい。あくまでも予想ではありましたが、アルフ様の魔創具は通常ではありえないものでした。あれだけの武を収めておきながら魔創具がアレというのは、少々おかしく思えます。加えて、その振る舞いが平民にしては気品で溢れすぎていました。平民に紛れてもおかしくない程度には抑えられていましたが、それでも過去にはそうした教育を受けたものだろうと予想できました。おそらくは貴族……それも高位の貴族か、あるいは王族ではないかと」


 まあ間違いではないが、俺の魔創具がアレ——フォークだと知っていると言うことは、こいつらはどこかで俺たちのことを監視していたな。敵意がなかったので気づけなかったが、いつから見ていたのだろうか。


 あるいは、俺が思っている以上に街に『揺蕩う月』のメンバーが散っているのか? 構成員は減ったと聞いているが、普段は裏ギルドとしての活動はしておらず普通の住民として暮らしている者——準構成員とでも呼ぶような者がいるのであれば、俺が戦った時に近くにいたとしてもおかしくはない。


「そんなアルフ様がこんな場所にいるのには何か訳があるはずだと考え、仕事であれば供がいないのはおかしい。仕事をしている様子がないのはおかしいと」

「その理由として、俺が家から外れた存在だ、と考えたわけか」

「……失礼しました」


 元貴族だったものが家を追い出されたなど、不名誉なことこの上ない。人によってはそのことを言及されただけで逆上する者もいるだろう。

 そのようなことを本人に直接言うなど、失礼なことこの上ない。


 実際、俺も家を出された直後はなぜ自分が、などという思いばかりが頭にあった。


 俺という人柄を見ての言葉なのかもしれないが、それでも元貴族であったことに言及すれば敵対する可能性はあったのだ。にもかかわらず正直に話したのだから、これも誠意ととるべきか。


「いや、いい。考えること自体は人の自由だ。それに……事実だからな」

「言っていいの、それ」

「言ったところでなんの問題にもならん。もとより自分から口にしていることだしな。もっとも、口にする相手は選んでいるがな」


 俺が正直に認めたことをルージェは不思議そうに問いかけてきたが、どのみちばれているのだ。であれば、必要以上に隠すこともないだろう。


「しかし、やはり答えは変わらん。無辜の民に仇なす存在ではないというのであれば、こちらから襲うことはないと約束しよう。だが、だからと言って協力するかどうかは別だ」


 こいつらの理念は理解した。

 だが、正式に手を取り合って協力するかと言われると、頷けない。

 今協力したところで、最終的にはこいつらのためにはならないのだ。


「私達にできることであれば、なんでもします。この体であろうと差し出します。他のギルド員も、あなたのために生きます。だからどうか、私たちの居場所を守るために、共に戦ってください」


 土下座をしながら、今に至るまで一度も頭を上げることなく頼み続けているわけだが、好きにしろと言われたところでリリエルラは少女だ。実際の年齢がどうこうではなく、肉体的な年齢はまだ幼い。

 夢魔の少女など、愛好家にはたまらない〝物〟なのかもしれないが、俺にとってはなんの価値もない。


「お前達の体など要らん。そちらが勝手に動いて俺たちに合わせる分には止めはしないが、そんなことを言ったところで、俺は協力などしない」


 この少女とて、俺の言葉の真意は理解しているだろう。協力関係にはならないが、利用し合う関係であるならばなることはできると。

 ここまで話して理解できないようならば、リーダーなど務まるまい。


 だがその上で、それでは足りないと考えているようだ。

 土下座をしているリリエルラの手が震え、わずかに拳を握るかのように曲がった。きっと、悔しさや口惜しさ、あるいはここまで行っても協力しない俺への怒りなどがあるのだろう。


「ですがそれではっ——」

「あああああ! 思い出した! そうよ、あの匂いよ!」

「……なにを思い出したというのだ」


 俺の言葉になおも言い縋ろうとしたリリエルラだが、その言葉を最後まで紡ぐことはできず、この場の空気をぶち壊すかのようにスティアが馬鹿みたいな叫び声をあげた。


 その声に驚き、それまで決して頭を上げなかったリリエルラまでもがスティアへと視線を向けた。


「だから、匂いよ。さっき言ったでしょ。嫌な匂いがするって。この匂いあれよ。あの、時期になるとやたら匂ってくるあれのせいで、私大変な目にあったんだから。兄や姉の情事に遭遇しちゃって怒られて、もう大変だったのよ!」

「……ああ。発情期のフェロモンか」


 何を思い出したかと思えば、そんなことか。確かに気まずい匂いだと言っていたが、それはそうだろうな、家族の情事に出くわした時の思い出など、気まずいに決まっている。

 だが、最初に夢魔だといったのだから、〝そういった匂い〟がするのも当然だろう。何を今更……。

 さてはこいつは、夢魔がどんなものだか理解していなかったな。


「まあ、夢魔だしねぇ。そこら辺は仕方ないというか、当たり前のことなんじゃないかと思うけどね」

「阿呆のせいで話が逸れたが、話はこれでしまいだ」


 話はそれたが、そのおかげで話が切れたので、ちょうど良いと言えばちょうどいい。

 顔を上げ、唇をかみながらこちらを見つめてくるリリエルラを見下ろすように見つめ返す。


 だがそれも数秒のことで、リリエルラはすっと立ち上がると見た目にふさわしい少女のように、だがどこか哀愁を漂わせた笑みを浮かべた。


「……また、話に来るわ」

「それでも結果は変わらんがな。俺は、お前達に手を貸して商人や裏ギルドを討つつもりはない」

「それでも来るわ。何度でも、どれだけ断られたとしても。この場所は、私達にとって捨てられない場所だもの」


 そう口にしてから、俺たちの答えを聞く前に窓に足をかけて飛び出して行った。

 落下したのではなくふわりと舞うように上昇していったのは、おそらくそういう魔法を使ったからだろうが、その魔法は中々に見事なものだった。

 あの練度で魔法を使うことができるのなら、実際に戦ったとしても十分に戦うことができるだろう。俺でさえも状況や向こうの手次第では苦戦するかもしれない。


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