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聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと追い出されたけど最強なので問題なし〜  作者: 農民ヤズー


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『揺蕩う月』

「『揺蕩う月』か」

「はい。おっしゃる通り、私達のギルドは『揺蕩う月』と名乗っております」


 やけにあっさり認めるものだ。それだけ誠意を見せていると言う意思表示か、あるいは言葉遊びをする余裕さえないような状態なのか、どちらだろうな。


 どちらにしても、この少女が『揺蕩う月』の一員であるのならば、その話は聞く価値がある。味方になるかどうかはわからないが、『樹林の影』の敵であることに間違いはない。であれば、お互いに利用し合う関係程度にはなれるのではないだろうか。


「それで、手を取るとはどう言う意味だ? まさか、俺たちに裏の住人になれとでも言うつもりか?」

「駆け引きなど邪魔なだけでしょうから単刀直入に言いますが、あなた方の敵対しているギルドは私たちにとっても敵で、邪魔者です。消えてくれるのならそれに越したことはないのです」


 聞き及んでいるこいつら『揺蕩う月』の状況からすれば、そうだろうな。もし俺がマリアのことを助けていなければ、マリアは殺され、その次はこいつらが標的として狙われたはずだ。と言うよりも、再び狙われる状態に戻る、と言った方が正しいか。これまでも狙われてきたわけだしな。


「あなたが戦った裏ギルド『樹林の影』。その者らに資金を提供している後ろ盾についての詳細も、放浪騎士についての情報も、望むものを差し出しましょう。もちろん、『影』そのものについての情報も」


 どうやら、こちらの情報も調べているようだな。その点で言えば、『樹林の影』の連中よりも優秀かもしれないな。何せあちらは俺たちの事情や方針など、何もわかっていないだろうから。


 俺としては話を聞くだけ聞いてみてもいいと思うのだが、この場にいるのは俺だけではない。スティアとルージェはどう考えるのかを問いかけるように二人に目配せをしてみる。


「とりあえず、話を聞くだけ聞いてみたらどう? 仮にボク達を騙すつもりなんだとしても、その情報は全くの嘘ってことはないはずだし、参考にする程度なら役に立つんじゃないかな」

「面白そうだしいいんじゃない?」


 まともに考えて言葉を返してきたルージェとは違い、面白そうなどと言う理由で決めたスティアには一言言いたくなったが、他人がいるこの場でする話でもない。今はこの少女との話を進めることに集中すべきであろう。


「ここで立ち話をするのもなんですから、どこか店にでも入りませんか?」


 そんな提案を受けた俺たちは、少女の案内を受けて食事処へと入っていき、個室へと進んだ。


「注文はご自由にどうぞ。ここの支払い気にする必要はありませんので」


 この言い方に、この場所に慣れたような振る舞い。それから従業員と接する態度から考えるに、ここはこの少女たち『揺蕩う月』の拠点、あるいは傘下の店なのだろう。先ほどは〝どこかの店に〟と言っていたが、それを真に受けるほど馬鹿ではない。おそらく案内された先は無関係の適当に選んだ店ではなく、この少女の仲間が集まっている、あるいは囲っているだろうとは想定していた。

 そしてそれは、ルージェも同じだろう。先ほどから笑みを浮かべて普段通りの振る舞いをしているが、纏う雰囲気は警戒心に満ちていた。


「えっ! いいの!? じゃあじゃあ、これとこれと——」


 もっとも、そんなことを気にせずにお気楽に注文をしている阿呆もいるが、なんというか、呆れるしかないな。これも強者故の傲慢なのだろうが……まあ、今はこいつのことは放置でいいだろう。


「まずは自己紹介をさせていただきます。私は『揺蕩う月』の副リーダーを務めているリリエラと申します」

「君みたいな女の子が副リーダー?」

「いいえ。この姿は幻影です。協力を持ちかけておきながら失礼かとは思いましたが、なにぶん現状では私たちが外を歩いているだけで襲われかねないので。——こちらが私の本当の姿となります」

「……若いな」


 変装をしているということなので、もっと高齢の者かと思ったのだが、どうやらそうではなかったようだ。先ほどまでの年齢を十歳前後として、今の姿は三十前後と言ったところか。

 元の少女の姿よりも歳をとっていることは確かだが、一つの組織の二番手を務めるには若すぎる気がする。

 もっとも、ここで嘘をつく必要はないどころか、嘘を吐いてはならない場面なのだから、この女性が『揺蕩う月』の副リーダーというのは事実だろう。


「お時間を無駄に使わせてしまいたくはありませんので、本題に入らせてもらいますが……まず敵である『樹林の影』の裏にいて、あなたたちの標的である人物は、この街で最大の商人です。実際に『影』とつながっている組織は、正確にはその商人の下請けと言いますか、分裂した店ですが、それは表向きの話。裏でまとめているのは引き続きその商人です」


 この街で一番の大商人。それが実は裏ギルドと繋がって非合法の商売をしている者達の元締めだった。

 だがそのことはすでに分かっている。と言うよりも、これは俺たちだけではなく、少し裏に入れば誰でもわかることだ。それくらい大きく動いているのだという。

 それでもこの街を治めている貴族から手が入らないと言う事は、裏で繋がっているのだろうな。


「分裂したことで業務を切り分け、自身の運営している表の顔は真っ当な商人として、分かれた裏ギルドとの繋がりがある方は、非合法な仕事を。非合法な仕事を、と言っても、一見しただけでは気づけないように真っ当な仕事もしていますが、調べれば真っ黒です」


 フロント企業、と言うやつだろうか。確かに、有効ではあるな。

 相手の手が届く範囲が裏だけであれば潰しておしまいだが、表ではいい顔をして街の住民たちの暮らしに根を張ってしまえば、それを無闇に取り除くことはできない。そんなことをすれば、住民たちの暮らしが壊れてしまう可能性があるから。

 やるのであれば慎重に、時間をかける必要があるが、時間をかけていればその間に動かれて証拠を消されるなどの対策をされてしまう。なんとも手を出しづらい相手だろう。だからこそ、これまで放置されてきたのかもしれないが。


「この商人……オンブロ商会を潰すにしても、『樹林の影』を潰すにしても、どちらを行おうともう片方にも影響が出てきます。それほどまでに深いつながりがありますので。私達の目的は『影』を潰すことですが、オンブロ商会が潰れれば『影』も弱体化し、その分私たちが動きやすくなります。ですので、あなた方の必要としている情報を全て差し出しますし、実際に動く際に協力もしましょう」


 そう言いながら、リリエラは何かが書かれた紙束をこちらに差し出してきた。

 紙束を受け取って軽く中を確認すると、そこにはオンブロ商会に関する情報がこれでもかと載っていた。

 これは協力する証拠ということか?


 しかし、まだ承諾もしていないのにここまでするか。これはそれなりに貴重な情報だと思うのだがな。


 俺たちが成功すれば自分達にも利があるので協力する。それはわかりやすいと言えばわかりやすいな。だが、それだけでもないはずだ。たかがその程度のことでこちらに人員を割くのか? ただでさえ追い詰められている状況なのに?


「その見返りに何を求めるのだ? ただ商会が潰れることで『影』が弱体化するから、などという〝ついで〟が目的ではあるまい」


 敵が俺たちの行動の余波で弱体化する。

 それは確かに襲う側としてはありがたいことだろうし、差がある相手であれば、その差を埋めるために少しでも策を弄したいところだろう。


 だが、今回の『樹林の影』が弱体化するという話は、そこまでするほどの価値があるのか?


 弱体化と言っても、所詮は混乱する程度のものだ。敵本拠地の戦力が落ちるわけでもなく、ただ混乱する。しかも、その混乱も数時間もすれば収まるはずだ。仮にも裏でトップ争いをするような組織が、たかが協力関係の相手が襲われただけでいつまでも慌てふためくなどということがあるはずもない。


 にもかかわらず、その程度のことのためだけに俺たちに接触して話を持ってきた? それも、組織の二番手がわざわざ?

 そんなことあるはずがない。ただ混乱させたいのであれば、自分達で全てやればいい。そのほうが無駄なすれ違いや問題も起こらんはずだ。


 俺の問いかけに、リリエラは一瞬迷った様子を見せたが、すぐにこちらのことを見据えて答えだした。


「……オンブロ商会が潰れる、あるいは損害を受けたことで『影』に動きに乱れが生じることでしょう。私たちはそこを仕掛けるつもりでいます」


 戦うつもりか。いや、元々戦っていたのだから、戦うつもりなのではなく、状況を覆す、あるいは勝敗を決めるつもり、と言った方が正しいか。


 しかし、この状況でこのような話をするのであれば、次の言葉は予想がつくな。


「ですので、『樹林の影』と戦う際にその力を貸していただけないでしょうか?」


 まあ、そうくるだろう。『樹林の影』とすでに戦っており、その構成員を余裕を持って倒した俺たちがいるのだから、放っておく手はない。


 しかし……


「断る。どのみち、俺たちはこの街には長く留まるつもりはないのだ。お前達のようなものと深く関わるつもりはない」


 ここでこいつらと手を組めば、後々面倒なことになる予感がする。

 もとより自分達でなんとかできるのだ。協力などなくとも問題ない。

 俺たちが動いた結果、『樹林の影』が混乱し、それに乗じて事を起こすというのであれば好きにすればいいが、俺はそれに合わせるつもりも手を貸すつもりもない。


「ですが……」


 俺の言葉が想定外だったのか、リリエラは眉を寄せて驚きを見せた。

 しかしそんなことは俺の知ったことではない。これ以上話をしたところで意味はないだろうと立ち上がり、この場から離れることにした。


「行くぞ」

「はーい」

「えっ!? まだ食べてるんだけど!」


 無駄に注文した料理が届き、食べ始めたばかりのスティアは文句を言いながらも無理やり書き込むように食べ始めたが、そんな阿呆な行動を無視し、無理やり引きずってその場を立ち去っていった。


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