誘拐犯を迎撃
「こんなの、ちょっとばっかし本気を出せばなんの意味もないんだから。余裕よ、余裕!」
いつもより強く神獣の力を引き出して、私の体を強化させる。
それに伴って槌が金ピカの光をうっすら纏ったけど、これは仕様だから仕方ない。まあ、かっこいいからいいでしょ。
そうして力を引き出した後は、体にまとわりついてる網をぶちぶちっと引きちぎって、ちゃんと動けるようにしてから槌を構える。
ちぎったっていってもまだ残骸が体にくっついてるから体は重いんだけど、それだけ。ぶっちゃけなんの問題もなし。
生き物のように襲いかかってくる鞭。
べとべとした何かを撒き散らしながら迫ってくる鉄球。
とっても細くてすっごく見辛い鍼。
それらの陰に紛れてこっそり姿を消して近づいてくる変態。
そんな私を狙ってる全部を……
「叩き潰す!」
それが私の武器だもん。
ただ強く。ただ硬く。ただ大きく。ただ重く。
大きければ強い。重ければ強い。
どんな敵だったとしても、重さと硬さと大きさをいっぱい詰め込んだ武器で思いっきり殴る。そうすればきっと、どんな敵も生きてることはできないから。きっとそれが世界で一番強い攻撃だから。
だから私は、この武器を作った。
私自身の能力も、神獣の力も、全部を武器に込めて、思いっきり殴るため……ううん。叩き潰すため。
襲いかかってきた鞭を掴んで逆に敵を引っ張り寄せて、叩き潰す。
飛んできた鉄球も見えづらい鍼も、叩き潰す。
姿を消して近づいてきた変態も、叩き潰す。
「ぐがっ!」
「なんっ——」
なんか最後の言葉的なことを言おうとしながら、でも何にもいえずに私に吹っ飛ばされてそこらの壁や地面に叩きつけられる敵。
今ので大半を倒すことができたけど、それでもまだ遠巻きに残ってる奴らもいる。
そんな残ってる敵に向かって槌の先端を向けて、ポーズをとって一言。
「このくらいなんてことないわ! 私を倒したいんだったら、魔王でも連れてきなさい!」
私の魔創具じゃないけど、似たような魔創具を使ったって人は大昔にいて、その人は魔王とか危険な魔物を倒してたって話をお姉ちゃんから聞いたことがある。
その人はそれができたからこそ、王族でありながら王族から外れた魔創具を使っていても追い出されたり不遇に扱われたりしなかった。だって、その分野においてはとっても優秀だったから。つまり、対魔王専用って感じね。
私のこれも、それと同じようなもの。ただひたすらに大きく、強くと願って作り上げた私だけの武器。
だからこそ、そんな私を倒したいって言うんだったら魔王でも連れてこないとまともに相手になるはずがない。全部叩き潰しておしまいなのよ!
大きければ強い。重ければ強い。硬ければ強い。
強いのと強いのと強いのを混ぜれば最強でしょ? 全部まとめてこれ一本で解決よ! なんだって叩き潰して見せるんだから!
……でも、こっからどうしよっか? 殺しちゃってもいいって言われてるけど、流石にちょっとくらいは捕まえた方がいいわよね? これでも、まあ、多少はあいつに迷惑かけてる自覚もないわけでもないし、敵を生け捕りにすることで助けになるんだったらその方がいいと思うんだけど……うーん。私の武器って、そもそも手加減することを考えてないのよね。だって叩き潰すとみんな死んじゃうし。
でも他に何ができるってわけでもないし、このまま逃すわけにもいかないし……
「あ、こっちはまだ終わってなかったんだね」
なんて考えてると、屋根の上をぴょんぴょん飛んでルージェがやってきた。
よかった。これで相談する相手ができたわね。
でも、この口ぶりからすると、たぶんルージェの方にもこいつらの仲間が行ったっぽい感じよね。そいつらはどうしたのかしらね?
「ルージェ? あ、なあに? そっちにも行ったの?」
「うん。まあ、あの程度なら大した脅威ってわけでもなかったし、適当に焼いておいたよ」
「そうなの? 全部殺しちゃってよかったの?」
一応、捕まえてねー、みたいなことをアルフから言われてたから加減してたんだけど、やっちゃっていいんだったらもっと簡単に終わったのに。
「一応何人かは生きてるはずだよ。……けど、あれだけ殺すって堂々と言ってたくせに、気にするんだ」
「んー、まあね。せっかく頼まれたんだもん。対して強くもないし、余裕があるんだから捕まえるくらいいっかな、って。ただ……」
「なに? なにかあったの?」
「何かあったっていうか、なにもなさすぎて困ってる感じ? ぶっちゃけ弱すぎて、でも半端に力があるから加減してると逃げられるし、力を入れすぎると死んじゃうしで、どうしよっかなって」
「あー、確かに、裏の組織にしては弱すぎるね。どうせか弱い少女を攫う程度ならこの程度で余裕だとでも思ってたんだろうけど、勘違いも甚だしいよ」
襲撃者っていうくらいだからもっと強いのを考えてたのに、拍子抜けしちゃうわよね、これじゃあ。
「確かに、あの化け物を狙うよりはボク達の方が簡単だと思うけど、そんなのは鼠がドラゴンを倒すのとグリフォンを倒すのならどっちが簡単か、っていうようなもんだよ。どっちも変わらないさ。鼠如きが襲ってきた程度じゃ、どっちも化け物であることに変わりはない。……ま、ボクはドラゴンでもグリフォンでもなく普通の人間程度なものだから、頑張れば鼠如きでも倒せたかもしれないけどね」
あの化け物ってアルフのこと? 確かにあいつも強いけど、化け物って言うほどかしらね?
でもそれはいいとしても、一つ言わせてもらいたいことがあるわ。
「私ドラゴンでもグリフォンでもなく、獅子なんだけど?」
「あー、うん。そうだねー。じゃあ特殊個体ってことにしておいて。猫っぽいのも確かいたはずだからさ」
「ほえ〜。そんなのいるのね。別種じゃなくって?」
「普通のグリフォンと一緒にいる所が確認されてるはずだから、同種だと考えられてるね。……って、そんなことはどうでもいいよ。そんなことよりも、これをどうするかを考えなよ」
「あ、そうだった。でも、どうしよっか? 本当に弱すぎてどうしようもできないのよね」
敵の攻撃を潰すことはできても、敵を殺さないように潰すっていうのはちょこっと難しい。
くっ! これが強すぎることの欠点ね……。
なんて。でも本当にどうしよっか?
「処理しちゃえばいいんじゃないの? 殺してもいいって言われてるんだしさ。一応こっちでも確保してるから殺しちゃっても平気だよ」
「でもぉ……せっかくいるんだから捕まえたいじゃない? その方がアルフのことを驚かせることもできそうだし」
「まあ、だろうね。あっちもあっちで多分別口から情報を集めてるはずだし、敵を処理するってのは変わってないだろうけど、敵対している以上、情報は少しでも多い方がいいからね。こっちに来たのとボクの方にきたのじゃ持ってる情報が違うかもしれないし。まあ、同じだとは思うけどね」
んー……ならまあ、いいのかな? ルージェが捕まえたんだったら、そっちがいれば十分だと思うし……でもやっぱりできることなら捕まえたいわよねー。
「でもこのまま睨み合いをしてるってわけにもいかないし、ちょっとだけ目を集めてよ」
「なんかするの?」
「そう。なんかするの。だからよろしく」
「おっけおっけ。それじゃあ——これでどう!」
ルージェが何かするってことだから、そのためのお手伝いをするために、私は持っていた小槌を空に向かって掲げる。
「おっきくなあれ!」
そう叫ぶと同時に、掲げていた小槌が一瞬で大きくなって、周りにあった家よりもでっかくなった。
そんな私の魔創具に驚いたみたいで、敵はおっきくなった槌の先を見ようと全員が上を見上げてる。
「こっちの作戦ではあったけど、よそ見はしない方がいいよ」
こっからどうするんだろう、なんて思ってると、いつの間にか敵の背後に移動していたルージェが、そう呟きながら敵を殴り倒していった。
むう。相変わらずはっやいわねぇ。速さだけなら、私も負けるかも? まあ、戦ったとしても負けるつもりはないけどね!
「お疲れ様」
「お疲れさまー! やったわね!」
「スティア! 無事か!?」
なんか知らないけど、ルージェと敵を倒せたことを喜んでると、普段になく慌てた様子のアルフがやってきた。でも……どうしたんだろう? なんでこいつこんなに慌ててるわけ?
わかんないけど、まあいっか。……あっ! 敵を殺さずに倒せたことを褒めてもらわないとよね!
これで私がただのアホじゃないってことをこいつも理解するでしょ!




