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誘拐作戦

「それで、いつ売ったかって話だが、あんたが聞きに来たその日にだな」

「二日前か。であれば、本当にもう動いてもおかしくはないな」

「ああ、あとさっきの情報の訂正がある。なんの動きもねえって言ったが、多分ありゃあ人を捕えるつもりだろうなあ」

「なぜそう思った?」

「人を捕えるってのは、意外と難しいもんでなあ。経路の確認や拠点の確保、周囲を彷徨く人物の調査。まあ色々あるもんだが、そういった動きが感じられたもんだ」


 なるほどな。確かに、誰にも知られずに確保し続ける、というのは難しいものだろう。


 しかし、先ほどは話さなかったことを話すようになったか……。


「先ほどは話さず今話したということは、俺は取引相手として格上げされたということか?」

「へへ。『影』が相手じゃあどっちについたほうが得かなんてのはわかりきってたが、これまで見逃してくれた礼だあ。〝これからも〟ご贔屓に」

「これからも、か。この街に定住するつもりはないが、必要になったら使うとしよう」


 そう口にしてから俺は男の元を離れ、大通りへと出ていった。


「しかし、人を捕えるか。それは、俺を捕えるつもりか? あれだけの仲間を殺した俺を捕えるということは、それだけの戦力が向こうにあるということか?」


 どこへ行くでもなく適当に歩き続けながら呟き、考えをまとめていくが、俺を捕まえようとするという考えはどこか違和感がある。


「あるいは、俺以外の何者かを狙って? だが、この状況で俺以外を狙うか?」


 狙うとしたら、他の組織か? まずは他の奴らを黙らせ、邪魔されないようにしてから俺やマリアを襲う。

 あるいは、殺すのではなく誰かを捕えるということから考えると、他の組織の重要人物を誘拐し、脅すことで裏の集団で連合を作って襲ってくる可能性もあるな。


 だが、どちらにしても時間がかかる。間違っても一日二日でできることではないし、一週間でも無理だろう。今の状況でそれだけの時間をかけるものだろうか? 俺たちが旅人だということは向こうも理解しているはずだ。であれば、明日にでも旅立ってもおかしくないと考えるだろう。

 そんな状況で、悠長に時間をかけて他の組織に対処してから、などと考えるものか? ないだろう。


 などと敵の狙いについて考えていると、街中出るにもかかわらず腹の底に響くような轟音が聞こえてきた


「今のはっ……!」


 まさか襲撃か? だが誰を狙って、と思ったのだが、音のした方向に俺の貸しているマントの反応がある。

 ということは、敵の狙いはスティアかルージェ? 方向とおおよその距離程度しかわからないが、偶然だと考えるのは楽観的すぎるだろう。


 だが、そうか。捕えるとはあいつらのことか。そういえばあいつは姫だった。であれば、誘拐の対象として真っ先に考えてもおかしくなかったはずだ。

 そうであるにもかかわらず、俺がスティアたちが拐われる対象に選ばれると考えなかったのは、スティアにもルージェにも、それを跳ね除けるだけの力があることを知っているから。


 とにかく急がなければ。


 ——◆◇◆◇——

 ・スティア


「まったくもう! なんなのよ。こいつら」


 これから狩りをするんだぞ、ってあれやこれや準備してあっちもこっちもってご飯を買ってたんだけど、なんか人気のないところに行ったあたりで変なのが襲ってきた。


 一応最初の攻撃は凌いだんだけど、せっかくの狩りの気分がぶち壊されて台無し感がすっごいするわね。まったくもう! きっとこいつらはあれね。アルフの言ってた襲撃者たち。えっと……なんとかの影? なんだっけ?


 まあいいわ。邪魔者だってことに変わりはないし、敵ってことにも変わりないでしょ!


「んー、もう! アルフのせいで私の優雅な一日が台無しじゃないの!」


 アルフは「狩りをすることは優雅なのか?」なんて言ってたけど、優雅に決まってんじゃない。だってお父様もお母様も、他の兄弟も、なんだったらお姉ちゃんだって暇ができると……ううん。暇を作って狩りをしにいくのよ? 狩りは王族の嗜みってやつでしょ。


「おい、話と違うぞ! なんでこいつこんな強いんだ!?」

「知るかよ! そんなことよりさっさと薬を使え! あれさえ使えれば一発で終わるんだ!」

「そんなこと、できたらとっくにやってんだよ!」

「襲ってきておいて何悠長に話なんてしてんのよ! そんなに話がしたいんだったら、私に捕まってから好きなだけ話してなさい!」


 襲ってきたくせに、敵の前でのんびり話してるなんて、こいつら馬鹿なんじゃないかしらね? 

 アルフは阿呆阿呆っていっつも私にいってくるけど、こいつらの方がよっぽどアホよ。


「ま、待——くそっ!」


 待ちませんわよ! おっほほほほっ!


 話しながらも攻撃の手を休めることなく思いっきし殴りかかる。敵はその攻撃を必死になって避けるけど、ついには避けられなくなって一人殴り飛ばされちゃった。ふい〜、これで一人減ったわね!


 ……あれ? 今気づいたけど、もしかして誰か巻き込んだりしちゃった? 飛んでったあいつが落ちた場所に誰かいたりするとなんかまた怒られそうな気がするんだけど……まあ、しゃーなし! これは仕方のないことよ。不可抗力不可抗力!


 にしてもこいつら、本当に弱いわね。まだ魔創具を使ってないのにこんなに飛んじゃうなんて、ちゃんと鍛えてるのかしら? 

 せめてアルフくらいには強くないと、私を襲撃するなんて無謀なのにね。もうちょっと強かったらあんなに飛んでいくこともなかったのに。


「個人じゃ勝てないから集団でってこと? まあ、その方が正しい戦術ってやつかしらね? でも……」


 最初に攻めてきた一人がやられたことで、残ってた敵もみんな一斉に襲いかかってきた。


 えっと……いちにいさん……八人? このくらいなら拳でも倒せるけど、ちょっと面倒ねー。


 っというわけでっ! ここで魔創具の出番よ! こういう時に使うとまとめてぶっ飛ばせて気持ちいのよね〜。


「あっまーい! その程度の数なんて、まとめて処理しちゃえば……って、あ」


 魔創具を作っておっきくしようとしたところで気づいたけど……そういえば、周りの建物は壊しちゃいけないんだった。


 まあ、流石にね。私だってそれくらいわかってるもん。家を壊したらダメだってことくらいわからないわけないわ。


 けど……う〜ん。どうしよっかなー……


「うぬぐ〜……仕方ないわね。ほどほどで済ませておいてあげるわ!」


 十メートルの大槌にはできなくても、二メートル程度なら振り回しても大丈夫! ……あ。植木鉢壊しちゃった。……ま、まあ大丈夫でしょ! 私は悪くないもん。全部こいつらのせいなんだもんね!


「非力な少女じゃなかったのかよ!?」

「多少の戦闘能力はあると予想されていただろ!」

「あれが多少か!? ふざけんな! ありゃあ化けもんの類いだろうが!」

「魔創具を使ってるやつのどこが非力な少女だ!」

「俺だって文句言いたいに決まってるだろ!」


 誰が化け物だってのよ。まったく、失礼しちゃうわね!

 この怒りは、こいつら自身に償ってもらいましょーっと。ベコっと吹っ飛ばせば気も晴れるでしょ! たぶん?


 というわけで、早速一人飛んでけー! ……あ、二人飛んでったけど、まあいっか。


「だが、ネタは破れてんだ。巨大化する武具なら、他に特殊な効果はない。通常の魔創具は身体強化の他に何か効果を加えるとしたら一つか二つだが、巨大化した武具を軽々と振り回せるほどの身体強化の強度であれば、あとは武器を巨大化する効果だけだ。つまり……」

「あの武器さえ無力化できればただの力が強いだけの女ってことか」

「問題はその武器が厄介ってことなんだけどな!」


 なんか敵が文句を言いながら戦ってるけど、もうちょっと真面目にやったらどうなのって感じがするのよね。

 そりゃあわかるわよ? 私ってばめちゃんこ強いし、話し合って作戦でも立ててからじゃないと勝てないってのは百も承知ってもんよ。


 でもさぁ、私の武器を見てただおっきくなるだけって、バカなんじゃないの?

 おっきくなる武器を振り回すだけだから、武器さえどうにかできれば余裕って?


 はんっ! そんなのちゃんちゃらおかしいわ。武器の無力化? できるもんならやってみなさいってのよ!


「隙は俺が作る! その間にやれ!」


 敵の一人が決め技を使ってくる。そう判断して槌を構えたところで、網が飛んできた。

 その網はまるで生きてるみたいにうねうねって動いて私のことを包もうとしてきたけど、それを槌で絡め取って防いだ。


 ——かと思ったけど、ダメだった。

 槌で絡め取ろうとした網は一瞬だけ水みたいに形をなくしてそのまま私の所まで辿り着いて、巻きついてきた。


 それから、それだけでも動きづらいんだけど、他にも効果があったみたい。


「うにゅ? なんか重い?」

「今だ!」


 たぶんだけど、あの網はとっても重いか、重さを変えることができる魔創具なんじゃないかしらね? だからこんなに体が重くなったんだと思う。


 うん。まあ、ね? 確かに、普通ならこんなに重くなったらどうしようもないのかもしれないけど、いっちゃえばただ重いだけなのよね。……あ。あと一応網のせいで体が動かしづらいわね。でも、やっぱりそれだけのことなのよ。


 動きづらくしてから一斉に、なんてやられても、なんの危機感もないっていうか……ねぇ。


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