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テーブルクロス売りのアルフ

 

 ——◆◇◆◇——


 少女の親を探すために市場を歩き続け、店舗を持たないフリースペースへと辿り着いた俺達だったのだが……


「——それで、なぜ俺はこうして貴様と並んでいるのだろうな?」

「そんなこと、こっちが聞きたいよ。なんでこんなことになってるの……」

「ならば、お互いに文句はあの阿呆に言うべきか」

「……あの自称お姫様なんなの? いきなりすぎない?」

「それは俺も思っているが、アレはああいうやつなのだ。納得できずとも理解しろ」


 現在俺は、赤髪の襲撃者——ルージャというらしい女と隣り合わせで座っていた。

 なぜこんなことになっているのかというと、この女が露店を出しているところを見かけたところから始まる。


 市をふらついていると、偶然この女と遭遇し、一度は交戦状態となりそうだったが、すぐに場所が場所だと考えてこちらから構えを解いた。

 するとこの女もそれに合わせ、警戒はしつつも構えを解き、そんな様子を見ていたスティアに絡まれて事情を話すこととなった。

 事情を、と言ってもあまり仲が良くない顔見知り、程度のことだが。


 だが、それを聞き、この女が露店を開いていることを見て、一つの考えを思いついてしまった。


 俺達は迷子の少女の保護者を探していたわけだが、このまま連れ回しても、すれ違うなどして見つからない可能性があると考え、ならば自分たちも露店を開いて一所に留まっていればいいと言い出したのだ。この少女の親であれば同じく銀の髪をしているだろうし、そうでなくても子供を探すような素振りをしているだろうから、見ていればわかるはずだ、と。


 だが、これだけ広い街だ。市場だけと範囲を絞ったところで、ただ留まっているだけではここに迷子がいるなどわかるはずもなく、一度迷子を連れてここら一帯をぐるりと回ってこようということになった。そうして、迷子を連れながらこの場所にいるとふれ回り、保護者を待つ。

 スティアと、この場所に留まっている俺とで分かれることになった。


 ついでに、スティア達がいなくなった後に近くにいた者を捕まえ、金を渡して迷子がいて自分たちが預かっていることを衛兵に伝えさせた。

 あの少女は衛兵に頼ることを良しとしていなかったが、こうしておけば、あちらに保護者が探しにいったり、何か問題があった場合にここに来るだろうし、万が一衛兵に尋ねられても俺達が誘拐として捕まることはない。


 しかし、この案には一つ問題があった。二手に分かれるのだから当たり前の話ではあるが、迷子の少女を連れて街を巡る者と、ここに留まる者に分かれる必要があるということだ。

 俺と仲の悪いこの女を一緒に置いてもいいのか、となったが、少女を連れ回しながら叫ぶのも嫌だったため、仕方なくここにいることとなった。


 他の場所で露店を開ければいいのだが、露店を開くためには前日には申請をしていないといけないようだったので、この女に頼んでここに居座るしかなかった。

 もっとも、この女も最初は文句を言っていたが、スティアの強引さに頷くしかなく、俺がここにいることを認めることとなった。


 そう言った事情で、俺はこの女と共に露店をやることとなっているのだ。

 尚、この場に留まる条件として俺も何か品を売れと言ってきたので、俺はフォークとマントを売ることにした。もちろん聖武具としてのものではなく、劣化版とすらいえないほどに性能を落としたものだが。それでも魔法の効果がかかった品ではあるので、そこらのものよりよほど高性能ではある。


 ちなみにだが、隣に座っているこの露店の本来の主人であるルージャは、俺と同じように自身の魔創具の劣化版を売っている。というよりも、むしろ俺がこの女の売り物を見て真似したのだがな。でなければ己の魔創具を売るという発想など出てくるわけがない。何せ、それは『聖武具』を売るのと等しい行為なのだから。劣化版とはいえ、そうそう思いつかないのが普通だ。


「あら、それはなにかしら? 綺麗な布だけど……」


 おっと、どうやら客が来たようだ。こんな寂れた露店ばかりが集まる通りに女性が来るなど珍しいと思ったものだが、普通の平民であっても『掘り出し物を探す』という娯楽のためにここに来る者はそれなりにいるようだ。おそらくはこの女性もその類いだろう。


「ふむ。良く来られた、ご婦人。これは……まあ、見ての通り布だ。こんなモノでも一応魔法の効果がかかっているので便利ではあるぞ」

「あら、そうなの? でも、魔法の効果があるとなると、うちじゃ買えないわね……」

「なに、心配されるな。これは魔法の効果があると言っても、所詮は布だ。大した効果などかかっていない。精々が汚れにくい、乾きやすいという程度のもの。金額としては、包丁一本よりも安く済む」

「あら、それはすごいわね。そんな安い魔法の道具があるだなんて」

「そも、魔法の効果がかかった道具とは、それを必要としている者の願いを最大限叶えるためのものであるのだから、どうしても高くなるのだ。頑丈な鎧を求めている者がいる場合、少しだけ衝撃を和らげるものと、どんな攻撃を受けても傷つかないもの。どちらを選ぶのかと言ったら後者だ。それを買えない様な者は、そもそも魔法の効果がついているものを買おうとは思わん。そのため、半端な効果の魔法の道具はあまり出回らないのだが、ないわけではない。この布の様にな」

「へえ〜、そうなのねぇ〜」

「うむ。して、いかがする? この布はテーブルクロスと呼ばれたことがあるが、それ以外にもどこかの工房に持ち込むか、あるいは自前で縫えば服とすることもできるが?」

「そうねえ……」


 女性は迷っているそぶりを見せるが、この布はそれなりの質だと思うのだがな。言うなれば聖武具もどきなのだから、貴族が使っている布よりも上質なものだ。

 もっとも、色自体は白しか用意していないので服の生地というよりは、それこそテーブルクロスの方が相応しいかもしれないがな。


「汚れにくいって、どれくらいなの? 土や油がついてもすぐに落とせばシミにはならないのかしら?」

「どのくらい、か。ふむ。では実演して見せよう」


 どのくらい汚れないのかとい口で言ったところで、信じられないだろう。どんな汚れもつきませんと言ったところで、過大に言っていると思うに決まっている。

 故に、実際に見せた方が早い。


「この布を、このように地面に叩きつけ、擦ったとしよう」


 立ち上がった俺は売り物として置いていた布の一部を地面へと放り投げ、踏みつけ、足を擦る事で布へダメージを与える。


 そんなことをしてもいいのか、という目でこちらを見ている婦人とルージャを無視し、ある程度ダメージを与えただろうというところでその布を持ち上げ、軽く叩いて土を落とす。

 布はあれだけ踏みつけたのに傷はなく、軽く叩いただけでついていた土は全て落ち、新品のごとき状態だった。


「まあっ!」


 そんな様子を見ていた婦人は声をあげて驚きを見せ、隣のルージャも目を見開いて驚いている。


「すごいわね……。それじゃあ、一巻き貰おうかしら」

「承知した。こちらが商品になる。少し重さがあるが平気だろうか?」


 金を受け取り、商品である布の束を渡すが、布というのは意外と重いものだ。女性に持てるだろうか?


「ふふ、ありがとう。でもこの程度なら大丈夫よ。帰ったらさっそく縫おうかしらね。娘がもうすぐ成人するのよ。だから少し奮発してもいいわよね。その時に綺麗な服の一つくらいは贈ってあげたいもの」

「娘か……貴女はよい親であるのだな」


 この女性は、これまでの言動や身なりからしてさほど裕福ではないだろう。貧民、とまでは言わないが、それでも平民の中でも下の方の暮らしをしているはずだ。

 そんな女性であっても、自身の娘のために贈り物を用意するのだという。


 体裁のために嫌々用意するのではなく、娘のために心を込めて贈り物を用意するというその姿を見て、俺はとても羨ましく思えた。

 俺は、純粋に自身の子供のことを思っての贈り物など、受け取った事がないのだから。


「あらやだ。そんなことないわよ。成人のお祝いだなんて、普通よ普通」

「……親から子への贈り物が普通か。……ふっ。確かに、普通のことだったな」


 親が子のことを心配するのは当たり前で、幸せを願うのも当たり前。祝い事があったら共に喜ぶし、笑うし、それを形で示すために贈り物を贈る。確かにそれは普通のことだ。

 親からいらないと放逐された今の俺には、そんな普通が、なんとも眩しく遠いものに思えた。


「?」


 そんな俺の反応に、隣のルージャが眉を顰めて首を傾げたが、それを無視して女性へと笑いかける。


「では、娘への贈り物というのなら、このフォークもつけさせてもらおう。あいにくと他の食器はなくフォークだけではあるが、こちらも汚れづらく壊れづらい一品となっている」

「あら、そう? 悪いわねえ」


 羨ましさすら感じる親子愛を見て、無償でフォークを数本追加することにした。こんなフォークをいくつかもらったところでなんの役に立つのかと思わなくもないが、それでも女性はありがたいと笑った。


 その後女性はフォークのお礼やちょっとした世間話などを少し話してから去っていった。


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