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アルフへの褒美

 ——◆◇◆◇——


 スピカを保護した後、事態は収束へと向かっていった。

 まだ街で暴れていた者や、戦闘による被害などはあったが、明確な危機と呼べるような状況は去った。


 首謀者は捕えたし、その一味も全員ではないが捕える事ができた。それによってスピカに聖剣を埋め込んだ組織は正式に世界の敵とされることとなった。


 だが、全てが綺麗に終わったわけではない。他国の人間を招いている伝統的な大会の最中にこれだけの騒動が起こったのだ。その責任は取らなければならなかった。

 幸いなこととして、各国の代表は特に怪我をすることもなく守り切る事ができたようだが、それだけだ。

 今回の騒動を事前に抑える事ができなかったとして、リゲーリアは他国への謝罪等の対応で追われていたようだ。


 そして、当然ながら天武百景などやっている場合ではないので中止となった。優勝者はおらず、あの時点で本戦を勝ち抜いていた者達に聞き取りを行なって、常識の範囲で叶えられるものはある程度は叶える、という微妙な結果に終わった。それでも何ももらえずに終わりとなったよりはマシだろうし、元々勝ち目の薄いと思っていた参加者達としては何かもらえるだけでもありがたい状況だろう。

 だが、優勝するつもりでいた俺のような者からしてみれば不満が残る結果だが、こればかりは仕方ないと諦める他ない。


 そういった問題がありながらもなんとか一区切りついたようで、事件のあった日から一月経った今日、俺は事件解決の功労者として王宮へと呼ばれることとなった。

 一区切りついたと言ってもまだ完全に終わったわけではないのだから他国のことを優先すべきだと思わなくもないが、大方他の些事を先に片付けてしまおうという考えだろう。


「想定外の騒動が起こった中で、事を迅速に収めることができたのは其方の功があってのことだと言えよう。天武百景においても並ならぬ成績を収めた。あいにくと大会そのものは中止とせざるを得なかったが、そなたの力を認めぬわけにはいくまい。故に、優勝者のように全ての国の王が、と言うわけにはいかないが、この国の中、我が権限が及ぶ範囲内であれば大抵の願いは叶えることとし、それを事件解決の功労者に対する褒美とする」

「はっ。陛下のお心ありがたく頂戴いたします」

「して、其方は何を欲する」


 事前に天武百景の商品として聞き取りが行われていたので俺の願いはすでに伝えてあるのだが、それでも周りに貴族達が集まっているこの場で言うことに意味がある。

 そのことを理解しているため、一つ深呼吸をしてから俺は己の願いを口にした。


「……私は、貴族になることを……このリゲーリアにて、再び貴族の地位につくことを願います」

「貴族か……。その程度のことで良いのか? そなたであれば、国を起こすこともできよう。何も天武百景は此度だけというわけでもないのだ。次回にかければいい。加えて、望むのであれば姫を娶り、王族となることもできるのだぞ。だのに、貴族となる程度のことで本当に満足だというのか?」


 普通であれば優勝者でもないのに一国の姫を娶るなど不可能ではあるが、ここにいる者達は元々の俺の身分を知っている。そして、姫……シルル殿下と交流があったことも知っている。そのため、大きな反論はなく、多少のざわめきだけで終わり話は進んでいく。


「は。ご存知のように、私は貴族でした。家を継ぎたいという願いがあるわけではありません。高位貴族として力を振るいたいというわけでもありません。貴族であるのならば、どのような地位であっても構わないのです」

「一度は理不尽に家を追い出されたというのに、再びその場所に戻りたいと? 貴族という立場の厳しさは存分に理解しているはずであろう? 貴族としての権利もあるが、もしそれを狙っているのであれば王族になれば良い。其方はそれだけの功を示したのだ」


 確かに、ただ権利を求めているだけであればシルル殿下と婚姻関係になる事がもっとも確実で手っ取り早いだろう。だが、それではならないのだ。


「いえ。私は貴族となりたいのです。我が友にも陛下と同じようなことを告げられましたが、私の願いは変わりません。家を出て一年と少しの間ただの人として暮らしてきましたが、私は貴族である自分しか認められなかった。貴族として以外の自分を思い描くことができなかったのです。私は、貴族であれと育てられてきました故に」

「ふむ。であるか。では、最後に一つ聞かせよ。其方が貴族以外の道を思い浮かべることができないというのは理解した。だが、其方は貴族として何を成すつもりか」

「……何を成すのか。それはまだ決まっておりません。私の願いは貴族として生き、貴族として死ぬこと。私は貴族として民を救い、国のために王へと、そして我が友へと忠誠を誓いましょう」

「ふむ……貴族として、か」


 そんな俺の言葉に何を思ったのか、国王陛下は少し悩んだようなそぶりを見せるとまっすぐ俺のことを見つめ、頷きながら答えた。


「よかろう。其方を貴族位へと戻そう」

「ありがたく存じます」


 予め受け入れられるだろうと聞いていたが、こうして公の場で改めて聞かされることで実感が湧いてくる。

 これで、俺は再び——


「其方に与える爵位は——公爵だ。トライデン公爵。それが其方に与えられる位の名だ」

「「っ!!」」


 だが、陛下の言葉には続きがあった。俺すらも聞かされていないような、驚愕の言葉が。


「陛下っ! それはいったいっ……! 何をお考えなのですか!」


 その言葉を聞いて真っ先に反応したのは、トライデン公爵——俺の父だった。


「トライデン公爵。何をも何も、言った通りだ。元は其方の子であろう? 一度は廃嫡したものの、その理由は魔創具の性能が公爵位を継ぐに相応しくないとのことだったはずだ。だが、こうして再び力をつけて戻ってきたのだ。であれば、廃嫡を取り消したところでなんら問題あるまい?」

「ですが、それはっ!」

「そも、アルフレッドの廃嫡とて、真っ当なものとはいえなかったはずだ。いかに子の扱いは各貴族家の当主に裁量が与えられているとはいえ、あの時点ではアルフレッドはミリオラの婚約者であった。つまりは、王家の縁者となるはずだった者だ。それを公爵とはいえ一貴族が台無しにしたのだ。代わりを用意していた、公爵家の後継との婚姻だった、などと言葉遊びは要らぬぞ。其方の行いによって我が王家は害を受けるやもしれぬ状況になった。それは、ともすれば王家への叛逆と取ることもできる。理解できよう?」

「っ……」


 自国の王に睨まれたことで、我が父であるトライデン公爵は苦々しい表情で黙り、俺のことを睨みつけてきた。


「陛下、一つよろしいでしょうか?」


 このまま穏やかに終わるとも思えない空気の中、国王陛下の側にいたオルドスが一歩前に出てきながら口を開いた。


「オルドス? なんだ」

「アルフレッドは力を示しました。ですが、公爵としてもいきなりその場を譲れと言われても納得できないことでしょう。もちろん天武百景の上位成績者であり、事件収拾の功労者の願いですから、最終的には叶えられることとなるでしょう。ですが、うまくまとめることができる機会があるのですから、その機会は与えるべきではありませんか?」

「ふむ。確かにそうできるのであれば機会は与えるべきではあるが……お前はその機会というのをどう与えるべきだと考えるのだ」

「簡単なことです。次期当主と現当主の両者とアルフレッドで決闘を行えば良いのです。そうすれば、公爵位に相応しくないという理由で廃嫡としたトライデン公爵も納得できることでしょう。何せ、アルフレッドが勝てば『王国の盾』である公爵家の次期当主と、そして公爵位についている自身よりも強いことになるのですから、公爵位に相応しくないなどとは口が裂けても言えないでしょう」


 貴族となりたければ自分でもぎ取って見せろ。

 そう言うかのようにオルドスはこちらを見つめている。おそらく、こうすることを予め決めていたのだろう。それを証明するかのように、陛下は大して悩む時間を取ることもなく話を進めていった。


「なるほどな。確かに、それは良い案ではある。だが、その提案の意味を分かっているのか? 勝負をさせるということは、負けた場合にアルフレッドの願いを払いのけるということになるのだぞ?」

「存じております。しかしながら、そのような心配は無用でしょう。アルフレッドが負ける姿など、私には想像できませんので」

「それは、公爵が相手でもか? 仮にも六武筆頭と呼ばれる者だぞ?」

「それでも、です。公爵もそれで良いだろう?」

「し、しかし殿下——」

「其方の勝手な行動で国内の一部、および他国との関係が乱れたことも、叛逆すら疑われてもおかしくない行動をなかったことにしてやろうと言っているのだ。素直に受けるべきだと思うが、どうだ?」

「くっ……。お話、お受けさせていただきます」

「そうか。それはよかった。公爵が素直に頷いてくれたことを喜ばしく思う」


 トライデン公爵がそれ以上何も文句を言わずに戦いを受け入れたことで、オルドスは楽しげな笑みを浮かべて頷いた。


「そういうわけです、陛下。公爵も受け入れてくれたようですし、なんら問題はありません。もしアルフレッドが負けた際に、天武百景の優勝者の願いを反故にする可能性について考えられているのであれば、負けたとしても他の地位を与えることを約束すれば良いのではありませんか? アルフレッド自身は公爵位にこだわっているわけではない様子なので」

「ふむ……そうだな。アルフレッドよ。優勝者の其方の願いを叶えるにもかかわらず、其方に一苦労してもらうこととなるが、それで構わぬか?」

「はっ。国王陛下、並びに王太子殿下のお言葉、謹んでお受けいたします」


 せっかく友が用意してくれた機会。因縁にケリをつけろと言うことなのだろう。

 ちょうど天武百景を最後まで行う事ができなかったせいで、不完全燃焼だったのだ。このまま貴族と任じられたところで、自身の力で取り戻したのだとは心の底からは言い切れない。

 であれば、全力で応えさせてもらおうではないか。

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