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知り合いの訪れ

「それにしても、騎士様に直接指導してもらえるなんて、ここの人たちはだいぶ幸せだよね。確かマリアって、騎士王国でも上の立場だったんだよね?」

「ああ。騎士王国の騎士全体で上位五パーセントに入っている程度にはだろうな」


 確か、守護騎士自体は二割から三割程度だったか? 勲章を授与された者となると一割に満たなかったはずだ。


「それってさ、普通の貴族の私兵よりもずっといい待遇なんじゃないの?」

「教師役としてはこれ以上ないほどの人員であることは間違いないな」


 普通であれば騎士王国の守護騎士は外には出てこないので、指導を受けるどころの話ではないのだが、幸いなことにここには二人も揃っている。教わる側としては、ありがたいことこの上ないだろう。まあ、裏ギルドが騎士に戦いを教わるというのはどうなのかと思わないでもないが。


「あ、そうだ。最後に一つ報告、ってほどでもないけど、噂話をちょっと伝えておくよ」

「噂話?」

「そうそう。今回行った場所で、王太子が犯罪者組織を一つ潰したって聞いたんだ。ここはどうなのかなって思ってさ。潰されたりはしないよね?」


 王太子というと、オルドスのことか? 今までそんな話は聞いたことがなかったはずだが……


「王太子が……? オルドスならば確かにやりそうではあるが、なぜこのタイミングで? 天武百景の準備に忙しいだろうに」


 あいつならば裏ギルドだろうが暗殺者集団だろうが、貴族と繋がりのある非合法の組織だろうが、必要とあらば潰しにかかるとは思うが、今の状況で手を出した理由がわからない。

 もう天武百景まで半年を切っているのだ。そんな状況で手を出して問題を作るのは悪手だと思うのだがな。


「だからこそ、じゃないかしら? 天武百景って他の国からも人を引っ張ってくるでしょ? だから、少しでも問題になりそうなところは処理しておくことにしたんじゃない?」

「その可能性もあるが、だがそれにしては一つだけと言うのも気になる。やるのであればそれこそ幾つもまとめて潰しそうな気もするが……」


 いや、潰した後のことを考えてか? 裏の組織といえど、潰せばそれなりに騒ぎになり、表にも影響が出てくるものだ。それを考えると、一つだけ潰して見せしめとし、後は大人しくしておけと釘を刺しつつ、消えた組織の役割を他の組織に引き継がせることで益を出させて大人しくさせた。という可能性も考えられる。


 だが、それでもこの時期に実行した理由がわからない。その潰された組織というのは、よほどの何かをやらかしたのだろうか?


「なんにしても、その件に関しては警戒しておくとしよう」


 流石に王都からこちらまで飛び火はしないろうが、それでも何がどう繋がって異常が出てくるかわからない。警戒しておくに越したことはないだろう。


「王太子ってアルフの知り合いなんでしょ? なんとかならないの?」


 確かに知り合いではあるし、直接会えば話を聞くこともできるだろう。ただ、少し顔を合わせづらいという問題がある。王都を出てくる時は半ば自暴自棄になって手紙と簡単な魔法道具を生成して別れの挨拶とし、義理は果たしたと言って出てきたからな。今にして思えば不義理であったのではないかと思う。きっと、オルドスも快くは思っていないことだろう。

 それを思うと、なんとも顔を合わせづらいのだ。もっとも、それは個人的な感情なので、必要とあらば会うことをためらうつもりはないのだが。


 だがそもそもの話、今の俺ではやつに会うことはできない。


「直接顔を合わせればなんとかなるかもしれないが、その機会があるかどうかだな。王太子が組織を潰したと言っても、王太子一人でやったわけでもないし、王太子が最前線に立って戦うわけでもない。そうなると、向こうにわかるのはこちらの表面的な事実のみだ。相手方には俺がいるとはわかるまい。それに、一つの組織を潰すのであれば、時間をかけてゆっくりと、ではなく、気づかれないうちに速攻で潰しに来るだろう。そうなると戦い始めてから俺があいつに会いに行ったとしても、良くて半壊と言った状態になるだろうな」

「それじゃあ、やっぱり何か起こる前に対処するしかないわけだ」

「ああ。……一応言っておくが、王太子は殺すなよ。あいつは基本善人だ。王族としての悪を持っていることは事実だが、それでも国をよくしようと父親にさえ逆らうような奴だ。あいつを殺すことになれば、無辜の民が苦しむことになるぞ」


 こいつの場合、『対処』が何を指しているのかわからないので怖いところがある。もしとち狂ってオルドスを相手に『貴族狩り』を実行すれば、大変なことになる。

 それに、そのようなことになれば俺はこいつを許すつもりはない。


「……へえ。随分と王太子のことを買ってるんだね」

「まあ、知らない仲でもないからな。優秀なやつだ」

「アルフより?」

「能力的には俺の方が優秀だろうな。だが、政に関わる者としてのセンスは俺とは比べ物にならないほど上だ。流石は〝本物〟と言ったところだろうな」


 事実として、この『アルフレッド・トライデン』の体は優秀だ。そこに前世の記憶と知識が入り込んだのだから、優秀でないわけがない。

 だが、それは所詮能力を数字として表した結果だけのことで、数字に表れないセンスの部分は負ける。

 知識だけでいいのであれば、政に関しても地球の歴史を参考にすることもできるのだが、専門家ではないのでそう深いところまでは知らない。なので知識も大した役に立つことはないため

 政に関してはオルドスが勝つ。……まあ、武芸に関しては負けるつもりはないが。


「報告! この街に向かって王家の旗を掲げる一行が進んできています!」


 と、そんな話をしていると、ちょうどそんな報告が入った。

 ノックをすることも忘れて慌てて入ってきたこの様子からすると、それなりに危機感を抱く規模ということか?


「……噂をすれば影、ってところかな?」

「王太子とは限らないがな。だが、対処しないわけには行かんだろうな」

「私たちが狙いじゃないかもしれないわよ?」

「だとしても、警戒しないわけにはいかないだろう?」


 そう口にし、小さく息を吐き出してから状況を把握するために『揺蕩う月』に指示を出し始めた。


 ——◆◇◆◇——


「——で、やってきた王族は王太子だったわけか」


 リリエルラを中心として情報を集めさせた結果、街にやってきたのはルージェと話をしていた時に出てきた人物——王太子オルドスだった。


「ねえアルフくん。王太子って、本当に本物なの?」


 マリアが疑うように尋ねてきたが、今のところはどちらともいえないな。


「報告ではそうなっているな。まあ、王太子の顔を実際に見たことがある者などそういないだろうし、偽物である可能性もあるが、ひとまずは本物と考えて行動すべきだろう」

「どうするの? 直接会いにいく? 知り合い……っていうか友人なんでしょ?」

「まあそうだが、今の立場がな。昔とは違うのだから、どう出てくるかわからない」


 知り合いではあるし、個人的にはまだ友人だとも思っている。それは向こうも同じだと思いたいが、あくまでもあいつは『王太子』なのだ。状況と思惑次第では、戦うことになったとしても不思議ではない。何せ、今の俺は裏ギルド『揺蕩う月』のボスなのだから。


 そう言った理由で、ひとまずこちらからは手を出さず、監視と調査だけを進めるようにと話がついたところで、ドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します。ボスの知り合いだと面会を求めている者達が来ていると傘下の者から報せが来ました」

「……俺の知り合い? ……それは金の髪をした男か?」


 もしやオルドスのやつがここのことを知り、俺に会いにきたのか?


「いえ、そこまでは……必要でしたら似顔絵を描かせに向かわせますが」


 だが、それは違ったようだ。しかしそうなると一体誰が?

 わからないが、ひとまず会いに行った方がいいか? 知り合いだというのであれば、父の可能性もある。その場合、下手に追い返したり待たせたりしたら、犠牲が出る恐れがある。


 もし本当に父であった場合、俺が顔を見せても殺しにかかってくる可能性は十分以上に考えられるが、それは覚悟していれば対処できるだろう。幸い、ここには主要メンバー全員が揃っている。全員で襲い掛かればそれほど苦もなく仕留められるはずだ。


「……いや、会いに行こう」

「いいの? 罠とか危険人物の可能性もあるんじゃないかしら?」

「ならお前が行くか、リリエルラ」

「それが必要なことならば、この命に変えても。私なら、少し前まで実際に『揺蕩う月』のボスをやってたんだし、相手も油断してくれるでしょう。もし首を獲りに来たんだとしても、疑うことなく私の首で満足するんじゃないかしら?」


 リリエルラは改まった態度で跪いて宣言したが、こいつの首を取らせるつもりはない。


「……冗談だ。まだお前に死んでもらっては困る」

「私も冗談よ。まだまだ死ぬつもりはないもの。……でも、必要なら命をかけるのは本当よ」


 お前の命などいらないと言うに……。まあ、言ったところでこいつは考えを改めることはないだろう。そもそも俺が死にそうにならなければいいだけなのだから、俺が気をつけていればいいだけか・


「とりあえず、俺が向かう。護衛としてマリア。それからルージェ。頼めるか?」

「任せて。私が絶対に守ってみせるから!」

「正直アルフに護衛とかいらない気がするけど、まあいいよ」


 これで一瞬で死ぬことはないだろう。奇襲を受けても俺自身が対応できるし、広範囲の技を使われてもマリアが守れる。ルージェに隙を作ってもらっている間に俺が仕留めれば、大体の敵はそれで問題なく片付くだろう。おそらく、父であっても有効なはずだ。


「他はその『知り合い』に気づかれないように囲みつつ、いざという時はすぐに動けるように警戒をしておけ」

「「「はい!」」」


 これで何かあっても死ぬことはないだろう。

 さて、知り合いとは誰のことなのやら……。


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