東火節の四週目 《角の先》の月
東火節の四週目 《角の先》の月
廃都まで三レドーズ(約3.2㎞)というところまで来て、私は奇妙な人びとに遭遇した。彼らは片目が潰れていたり、足がなかったり、鼻がこそげていたり、どこかしら身体の一部が欠けていた。大きな祝福を受けた者がこれほど集まるとも考えづらいが、戦争か何かに巻き込まれたのだろうか。
その中の片腕のない人物が話しかけてきた。どこから来たのかとか、訛っているほかは当たり障りのない会話だったし、言葉につまった私の身振りを理解する辛抱強さもあった。
しかし──意識していたわけではないが、彼の空の腕に視線が向かっていたのか、彼はある方の腕でその切り株を叩いてにんまりした。そして、これは生まれつきの《神の気まぐれ》ではなく、後天的な祝福だ、と言った。
エヴェロイが滅んだ後に別の神がやって来たのだという。その神はこの地に残った人々を憐れみ、新たな祝福を与えた。
その神は肉体の一部と引き換えに強い祝福を与えるのだ、と彼は嘯いた(彼は祝福を「アーケトン」と発音した)。
この者は随分と大きなツノのある牝牛を持っているらしい(注:大ボラ吹き)、と私は思った。あるいは詐欺師の類に騙されたのか。いずれにせよ、こういう連中は否定すると主張がより頑なになるので聞き流すに限る。
見慣れぬ集団といるせいか、腐れチーズの機嫌が悪くなったので、私は適当な相槌を打って彼らと別れた。
しばらく経ってから、私は『唖の書』の断片に書かれた言葉を思い出した。
【欠けたる者たちが、この地にまでやって来ようとしている。】
欠けたる者たち、というのがどのような存在なのかは未だはっきりしていない。私が先ほど会った彼らは、エヴェロイに脅威を与えた者たちの後継者なのだろうか……少なくとも、他所者の私を害する気配は見せなかったが。
いつの時代にも、狂った信仰を持つ者はいるらしい……。
彼らの妄信は、私が軍人として最後に戦った《陶酔の神》セルパの信者たちを想起させた。彼らは踏み躙る者と呼ばれ、人びとの築き上げたもの、そして人びとそのものを破壊することに一種の快楽を見出しており、最終的には理性的なもの、文明を滅ぼすことを目的としていた。結局、私がその一員として名を連ねた討伐隊は敗北したので、いまでも彼らはどこかに災いをもたらしているのかもしれない。
【大ボラ吹き】
Letanóch'f artz kadór'f Gálanemói oés lo-kain itiír Yegharér.