東火節の三週目 《親指》の月
東火節の三週目 《親指》の月
古地図によれば、エヴェロイは翡翠山脈を越えた更に西、ドンダルヴァエと呼ばれる土地にある。西の航路の要である港町ヴァストイまでは今日でも栄えているし、その先にしても、今でこそ人の往来も絶えているが、かつては立派な街道が築かれ、ミルファ河から水路が引かれていた。だから私は寂れた街道と崩れた水道橋に沿って廃都へ向かえばよかった。
私の故郷では秋分を過ぎれば風は早々に冷たさを帯びていたものだが、この地方はずいぶん暖かい。広葉の木々はその手を空に伸ばし続け、野生の麦はまだ熟れきってはおらず、人が少ないせいか、獣たちは私たちを見ても形だけ逃げてみせるだけだった。
驚異的に湿っぽいシエトゥのため息(季節風)に見舞われたのと、腐れチーズがラシュトス(崖や岩壁にくっついている巨大な顔。あまり動かず、山羊を飼っている)の山羊を仕留めてしまい、ちょっとしたいざこざとなった以外は順調な旅だった。
●「書への名乗り」ローマ字表記
Latú dj'urkhetónch'f ó rašdoch' ar Azreto Lésev, vlagoch' Chésekoi séa Lenkalér osmiír sen-Lórgnia, sašnoch' Djímói hér Zímér ói'h túreloch' ilya Arituria.