マグベルン・セナリトゥリアによる序文
'Hemerya,
Orídel,
Glosára,
Khartz eói el'emeró, el'išmó ói'h el'glosó 'Hérkér,
K' aynóch', naskóch' ói'h jaflóch'
Rhaz fortzoch' kói ói'h dj'uróch'f.
《事実》ヘメリヤよ、
《記憶》オリーデルよ、
《言葉》グロサーラよ、
我が見、聴き、味わった過去を、
出来事がそうであったように、また我が経験したように、
記し、語り、伝えさせたまえ。
(オシュテㇴニークの過去の論文より、書への呼びかけ。梟山猫の足跡がある)
《犬の町》とは『唖の書』を記したイシュミーアの故郷であり、彼の破滅した土地である。
学問都市アリトゥリの学者たちは(それを口にする気概のある者は)「エメロイ」と呼ぶが、「エヴェロイ」の方が現地語に近いだろう。いずれにせよそれが「犬の下の町 」から来ていることは確かである。犬のような形の丘の麓にある町で、かつては《言葉の神》グロサーラを祀る最大の殿堂が建っており、あらゆる言語、音、文字、記号、身振りが集められていた。
(伝イシュミーア)
イシュミーアはグロサーラの祝福を受けた《神の気まぐれ》(※神の祝福が大きすぎたために器である身体が耐えられずに毀れ、何らかの障害がある者)で、盲聾者だった。しかしその舌は高らかな詩を奏で、その手は美しい文字を綴り、その辞によって壮大な叙事詩を残した。それが『唖の書』である。この呼び名は、作品が完成した後に彼が《事実の神》ヘメリヤによって喉を潰されたことに由来するという。
(事実と記録の神)
この巻物はスーラ暦一八五二年に盗み出され、ほとんどが失われてしまった。残された断片はアリトゥリの殿堂に保管されている。その中には、エヴェロイが滅ぶ前に何者かの脅威に晒されていたと思しき記述があるが、詳細は不明である。
本書はスーラ暦二〇〇四年に書かれた、サーミビア・セナズレテアによる旅行記のうち、《犬の町》に関する部分の抜粋である。
彼の故郷ロルグニは大陸の北東の軍事国家チェサルの首都で、アズレトの森とラガラン平原の広範囲を支配下に置いていた。彼は風の神殿で生まれ、「サーミビア」というありふれた名を持つために、《猫の寝床》という奇妙なあだ名で知られていた。彼は軍人で梟山猫を相棒とし、かの獣との仲の睦まじさからそう呼ばれることになった(なお、この獣も腐れチーズという奇怪な名を持っている)。
(軍人時代のオシュテㇴニーク)
彼はとある任務での負傷が原因で退役し、相棒と共にアリトゥリにやって来て学者を志した。
彼は発話に小さな問題を持っていたので、軍人時代は身振りでの会話が多かった。自分の症状について、彼は「針を持つ煙があたりを取り巻き、私の口を縫いとめ、私の言葉を沈黙させる」と書き残している。アリトゥリへやってきてからは筆談を好み石板を持ち歩くようになった。
彼の論文や書き損じには相棒の足跡が残っているものが多い。これは羊皮紙が丸まらないようにわざと前足を置かせたという話もある。
彼は早い時期からイシュミーアについて研究を始めた。発話に躓きがあるために、彼はことばの《気まぐれ》を崇拝していた。
彼は禁断の地である《犬の町》へ赴いた。その調査書は相棒に託され、二〇〇四年の東水節二週目にアリトゥリにもたらされた。
本書の重要な点は、彼が《四つの秘宝》の一つを見出したことである。《自然の神々》、つまり《熱》ゴラ、 《地》ムルトカ、 《海》シエトゥ、 《天》ローオルから祝福を受けた四人の英雄がそれぞれ作った武器である籠手、 杯、 盾、 弓。それらは忘れ去られ、あるいは既に破壊されたとも言われていた。
オシュテㇴニークは別の探索に旅立った後に消息を断ち、依然として宝の行方は分からないままである。しかし、彼からの報告書は興味深いものであるため、友人たる私が編纂するに至った。
歴史学者 マグベルン・セ=ユーメル・セナリトゥリア
スーラ歴ニ〇一三年 西火節三週目、《暗い眼》の月
(地図:地域)
(地図:都市)
●暦について
全国共通の暦として《スーラ暦》が作られたが、地域ごとに固有の暦がある。
スーラ暦は一年を十二の節に区切り、節は更に四つの週に分かれ、日付は月の宿(の支配星)で呼ぶ。
例:南風節の四週目、《尻尾》の月
●月の宿
※数字:月齢(?)、星の名前、《》:含まれる星座
1 親指 《ヴァグネーの籠手座》★新月
2 中指 《ヴァグネーの籠手座》
3 ベルト 《ヴァグネーの籠手座》
4 炎 《眠る竜座》
5 鉤爪 《眠る竜座》
6 ひび割れ 《ドㇽマの像座》
7 涙 《ドㇽマの像座》
8 角の先 《ダヤツィムの杯座》
9 宝石 《ダヤツィムの杯座》
10 外れた蓋 《ダヤツィムの杯座》
11 予期せぬ幸運 《セトルの賽子座》
12 約束された不運 《セトルの賽子座》
13 尻尾 《鯨座》
14 潮 《鯨座》
15 ネヘムの手 《オルファの盾座》★満月
16 凹み 《オルファの盾座》
17 迸る水 《オルファの盾座》
18 耳(甕の持ち手) 《毀れ甕座》
19 穴 《毀れ甕座》
20 第一の足跡 《リンネの足跡座》
21 第二の足跡 《リンネの足跡座》
22 弓 《サーミビアの弓座》
23 弾かれた風 《サーミビアの弓座》
24 弦 《サーミビアの弓座》
25 矢尻 《射られた獣座》
26 暗い眼 《射られた獣座》
27 リュートの頭 《スーラのリュート座》
28 リュートの肋骨 《スーラのリュート座》
●冒頭のローマ字表記
Emelói uroch'f Keh'ra hérk Išmir dj'urkhetóch'v ó artúr dj'tilšóch'f húi emeroch'f «Dj'émerim Nišmír». Natzaleyo séa Arituria netzärír šimerü kói «eMelói», ev «eVelói» urof vwigariir húr Glosärér Kúrzík. Tešga urof vateer ki turelch'f sen «Keh'ra díth Emelói» . Keh'ra urof kon Fetkér séa Ezisik rhaz Emel, alno Natuserái Glosärér en'itiir kon Kerümói dj'tenoch'f, hérk autúr dj'temonüch' Glosärerio, Nášako, Soh'ärerio, Kazo ó Kázanerimeo.