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1人前の焼きそば
行き交う人の群れで、小さな手を握る。
浴衣の人、半袖半ズボンの人。
親子、部活仲間。
色んな人たちが、ライトアップされた夜道を歩く。
「パパ。焼きそば食べたい」
「いいよ」
ポケットに手を突っ込んだ。
ジャラジャラと音が鳴る。
そのなかに、300円以上あるだろうか。
出してみる。
100円玉が、1枚。
50円玉が、3枚。
10円玉が、7枚。
足りた。
あれだけ、はしゃいでいる。
買えないと、ガッカリするだろう。
あれだけ、気を付けていたのに。
財布をすられた。
そのことに、娘は気付いていない。
コンビニで買い物したときの、お釣りだけ、かろうじてポケットにいた。
それに、助けられている状態。
「わたし、この大盛り焼きそばがいい」
「そ、そうか」
それだと、足りない。
大盛りは、プラス50円だ。
「わたしの、おこづかいで買うね」
「あっ、そうか」
「パパも食べるでしょ?」
「うん」
一人前の焼きそばを、暗い場所にあるテーブルで一緒に食べた。
泣いて、ほんのり塩味になった。
涙に反射するほどの光がない場所で、本当に良かった。